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愛国の王女  作者: 小松しま
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 表向きにはレガーリア王国に滞在中であるエイリーナ斎王の護衛のため。

 実際のところは、イブリールの国威宣揚を目的とした圧倒的布陣を目の当たりにしたセフォーラム軍が、攻略を断念して早々に退却したのは、懸命な判断だっただろう。

 しかし、後のしこりとならなかったのは、幸いである。

 派遣されし精鋭部隊を指揮した、セフォーラム国王の従孫であるティアヌス司令と、レガーリア王家の遠縁の娘アレノーワの婚姻が、様々な軋轢を払拭したのだ。

 エイリーナ斎王によるお膳立てもあり、敵味方である若い二人の切ない出会いと、育まれた珠玉の想いは、まるでおとぎ話しのような奇跡として、両国の人々からあたたかな眼差しで見守られたのである。

 だが、障害はあまたあった。

 何と言っても、アレノーワは婚約が調った直後だった。

 ……とは言え、拉致が明らかになった時点で先方より破談を申し入れられていた。

 非情な仕打ちだが、貴族社会では常識となっている対応である。

 令嬢の貞操の価値は重く、汚れた花嫁を迎えなどしたら、配偶者当人のみならず、親兄弟までが不名誉の謗りを受け、貶められるのだ。

 まだ生死さえ明らかでなかった時分に、我が身のみならず一族の体面を守るため、相手は苦渋の判断をしたのである。

 深い謝罪と見舞いの気持ちを込めて、相場以上の慰謝料を差し出しているので、むしろ誠意ある対応と言えよう。

 なので、その点についてのみ、アレノーワは身綺麗な状態であったのだが、それでも、複雑な立場を強いられていたのは否めない。

 純潔を保っていると主張しても、ほんの一瞬とは言え、無頼の輩に身柄を奪われた事実の前で、立証は難しい。

 一方のティアヌス司令についても、そろそろ身を固めるべく、花嫁候補の絞り込みが最終段階に入っていたのである。

 最高権力者にかわいがられていた彼は、窮屈な婚約を嫌い、自由の身で気ままに過ごしていたものの、さすがに年齢が年齢。

 年貢の納め時が迫っていた。

 このたびの派遣が手柄を立てて終われば、責任感も生じるだろうと、身内たちは縁談の選定に勤しんでいた次第。

 ところが、とんでもない暴挙を働いてくれた。

 ……高貴な淑女とその護衛を助けられたのは幸いだが、明らかに領域を侵している。

 非常識を通り越した蛮行だった。

 ……このように、それぞれ苦しい立場にあった若い二人の仲を取り結び、婚姻を寿いだのは、エリシア王女と姉妹の契りを結びしイブリール斎王エイリーナ……と言う筋書きである。

 神の恩寵を体現する「かんなぎ」の祝福の前にあって、周囲も否の言葉を持たなかった。

 なし崩し的に、ティアヌス司令の越境の件も不問となったのは、双方にとっての幸いだったかもしれない。

 そして、脅威の一つを解決したレガーリア王国は、イブリール帝国との併合の準備を着々と進めて行く。

 



 そして、併合直前、最後の一手に、エリシア王女は打って出た。



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