特別に甘い時間
私の快復を祝う会は無事に終わった。学園内で用意できるものは限られているし、簡易的なパーティーだったのだけれど、こんなにも楽しくて終わらなければいいのにと思ったのは、全ての人生を通しても初めてだった。
豪華な食事や煌びやかな装飾に囲まれるよりもずっと、好意的な人達に囲まれながら笑う時間は有意義で尊い。
普段のパーティーの席ではお酒は嗜む程度なのだけれど、今日は気分が高揚しているせいもあってか、少しワインを煽り過ぎた。
もう誰もいなくなった娯楽室で、私はふわふわと身体を揺らしている。
「だから言ったのに。飲み過ぎはダメだよって」
「えへへ」
「快復したといっても、まだ油断はできないんだから。もっと自分を大切にしないと」
小うるさい家庭教師のようにぶつぶつと呟いているユリアン様の手を、私は思い切り引っ張る。
彼は予想外の出来事にバランスを崩し、とさりと私の上に落ちてきた。カウチソファに押し倒されているような格好になり、ユリアン様の端正な顔がぐっと近付く。
「…ごめんね、アリス。今どくから」
「…いや」
ふわふわした気分のまま、両手を伸ばして彼の首にぎゅうっと抱きついた。そのまま犬のように、彼に擦り寄る。
「もう少しだけ、このままがいいの」
「…アリス、それは」
「ほんとうに、だめ?」
瞳を揺らしながら私から距離を取ろうとするユリアン様を、上目遣いに見つめる。いつも冷静で掴みどころのない彼の頬が、ふわっと紅く染まった。
「…ワインの力は凄いな。僕の方が酔いそうだ」
「違うの、私…」
この距離に、愛しい人がいる。息をして、瞬きをして、その綺麗な白銀の瞳で私を見てくれる。それがこんなにも大切な宝物だと、今の私は知っているから。
「もう、ユリアン様を失いたくない」
「アリス…?」
「私、頑張るわ。貴方に見合う素敵なレディになれるよう、身も心も」
もっともっと強くなりたい。この両手で、大好きな人達の笑顔を救い取れるように。そしてそれを溢さないで、守っていけるように。
「ユリアン様」
「…アリス」
彼の眉間にぐっと皺が寄せられ、次の瞬間その両腕で力強く抱き締められた。
「僕は永遠に、君を失ってしまうかと…本当に、怖かった」
「ごめんなさい、ユリアン様」
「愛してる、心から君を」
グレーの瞳に熱が込められているせいで、私の心が揺れる。自身の鼓動の音が耳に響いて、今にも溢れ出してしまいそうだった。
「アリス…」
ゆっくりと、彼が瞼を閉じる。それに合わせて私も、そっと睫毛を伏せた。
チュッ
「僕達はこれからも、永遠に一緒だから」
「…ユリアン様の、意気地なし」
「え」
どうして頬なの。私は唇にキスして欲しかったのに。
ふてくされた私は、ぷいっとそっぽを向く。
「だ、だってアリス。二人ともまだ学生だしそれに本当は僕だって」
「もう知らない」
「アリス…っ」
顔を赤らめたままあたふたと慌てるユリアン様を見ながら、内心なんて可愛いのかしらと抱き締めたくなった。




