アリスティーノの決意
チャイ王女は全身を捩らせ、金切声を上げる。髪を引っ張られても顔を爪で掻かれても、それでも私は彼女を離さない。
「何よ!聖女にでもなったつもりなの!?あんたなんか、自分勝手で中身最悪の悪役のくせに!」
「私は変わったの。もう前のアリスティーノじゃないわ」
「人間の本質なんて、そう簡単には変わらないわよ!」
確かに、彼女の言う通りかもしれない。時を逆行しても、私は何度も何度も間違えてきた。その度に絶望し諦め、いつか来る未来に怯えた。私は所詮私でしなかないのだと、そう思っていた。
実際、きっとそうなのだろう。己自身の、力だけでは。
「私はもう、ひとりじゃないの。だから絶対、争うことを諦めたりしないわ」
小さな子供に聞かせるように、私は穏やかな口調を崩さない。嫌がる彼女の背中を、ただ撫で続ける。
急にふと、チャイ王女の身体から力が抜けた。
「…私は、ひとりなの。だからもう、頑張れないわ」
彼女の哀しみを、私が量ることはできない。きっと胸の奥が焼き切れてしまいそうなほどに、辛いのだと思う。
もしかしたらもうとっくに、彼女の心の火種は燃え尽きてしまったのかもしれない。
もしも、ユリアン様が助かっていなければ。私はチャイ王女のことを憎み、殺したいと願っただろう。
自分が消えてしまうよりも、愛する人が自分の世界からいなくなることの方が、ずっとずっと辛いのだ。
「よかったわね、アリスティーノ。貴女の勝ちよ。私は処刑され、貴女は殿下と仲睦まじく幸せに暮らすのね。せいぜい酷い後遺症が残りますようにって、悪魔にでもお願いするわ」
私の肩に頭を預けたまま、彼女は嘲笑する。瞬間ふわりと、花のような甘い香りが鼻をくすぐった。
「上手くいこうといくまいと、貴女は最初から死ぬつもりだったんでしょう?」
「…さぁ、どうだかね」
瞳を閉じると、チャイ王女の鼓動が伝わってくる。このまま、彼女を死なせていいはずがない。
「チャイ王女」
目を開き、まっすぐに彼女を見つめた。
「もう一度、力を使ってください」
瞬間、彼女の身体がびくりと震える。まるで人外のものでも見るように、彼女の表情は驚愕の色に染まった。
「貴女、一体何を言って…」
「チャイ王女の持つ力で、もう一度時を戻すんです」
私の瞳には、一分の揺らぎもなかった。




