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彼女の救いとなる存在

それから十日間ほど、私の情緒はとても不安定でほとんど部屋から出られなかった。五歳の姿を見た瞬間は、私って可愛いわと鏡の前でポーズをとってみたりしたけれど。


途端に怖くなり、勝手に涙が溢れ出す。深く眠ろうとしても死の瞬間が頭をよぎり、悪夢として私の心を攻撃した。


突然叫んだり暴れたり、怖い怖いと頭から毛布を被りガタガタと震えたり。途中からもう、自分が何に怯えているのかすら分からなくなってしまう程だった。


両親や三人の兄達はそんな私をいたく心配し、豪華な花束や可愛らしいぬいぐるみなど、子供の私が喜びそうな見舞いの品をこれでもかと部屋に持ってきた。


だけど、家族の顔を見るたびに記憶が蘇る。


死に際はおろか私が投獄されてからというもの、誰一人として顔を見せにきてはくれなかったという事実。


心配そうなその顔さえ、歪んで見えた。


そんな私を落ち着かせてくれたのは、乳母のリリだった。彼女は確か、私が十歳くらいの時に解雇してくれと父に頼んだ気がする。理由は、思い出せない程のくだらないもの。


曖昧な記憶から碌でもない乳母だったと思っていたけれど、彼女はこんなに優しかったのかと改めて身に染みている。


特にリリは、私がまんまと落ちぶれてしまった時側にいなかった人物。だからこそ、彼女と話していても疑心暗鬼にならずに済んだ。


「お嬢様、リンゴを持ってきましたよ。食べさせて差し上げますね」


リリは甲斐甲斐しく、私の世話をしてくれた。時に八つ当たりのように泣き叫んでも、その温かな腕で私を優しく抱き締め、何時間も背中を撫でてくれた。


あの頃の私はどうして、リリを解雇してしまったのかしら。


こんな状況にならなければきっと私は、生涯彼女のことなど思い出さなかっただろう。


だけど今、私は家族よりもリリの温かさに救われていた。




彼女のおかげで段々と情緒も落ち着いてきた私は、十日目にしてようやくこの状況を整理しようという気になった。


未だに夢なのではという思いも捨て切れていないけれど、その時はその時。夢だった時よりも、夢でなかった時の方が、絶望は計り知れない。


だってまた、あの最悪な未来を繰り返してしまうということだから。


「どちらにせよ、そうならない為に行動していった方が身の為ね」


もちもちとした自分の腕の感触を楽しみながら、私は心に誓った。


まだ具体的に何をすればいいのか思いつかないけれど、取り敢えず前の人生とは違う道を歩めばいいのよね。


その為に、リリは利用できるわ。


リリの温かさに救われたと思った癖に、次の瞬間には利用することを考えている。あまりにもナチュラルに悪役思考である為に、私はこの時はまだ間違いに気付けなかった。

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