繋がる、最悪の未来へ
お父様に何通も手紙を送り頼み込んで増やしてもらったクアトラ家の護衛達が学園に到着するのが、明日。それが歯痒くて腹立たしく思ってしまうけれど、焦っても仕方ない。
だけどなぜだか、胸の騒めきが治らない。サナ達もユリアン様も、誰一人も私の側に近づけないようにしたのに。とりあえず今は、これが最善なはずなのに。
「落ち着いて、落ち着くのよアリスティーノ」
他生徒達を避け、奥まった場所にあるベンチに腰掛ける。瞼を閉じると、じりじりとした夏の空気が私の肌に纏わりつくのを感じた。
どうしてこんなにも胸騒ぎがするのか。それは、何も起こっていないからだ。
ーー許さないわ。絶対に、許さないから
心底私が憎いという、あの瞳。今のチャイ王女はもう、私が知っている過去の彼女とは別人だ。
一体何が、そんなにも彼女を変えてしまったのだろう。ユリアン様を、心から愛しているから?だから、邪魔者である私が憎いというの?
もしそうなら、なぜ私は今もこうして学園に居続けることができているのか。チャイ王女が本気を出せば、私一人目の前から排除するのは造作もないこと。
現に今、彼女が流した噂のおかげで私は学園の爪弾き者なのだ。それを更に膨らませれば、冤罪など簡単にでっち上げられるのに。
「どうして、ただの噂だけに留めているのかしら…」
確かにそれなりのダメージはあるけれど、先から私の印象は良くなかった。それが悪化しただけのことで、そんなものは私一人が耐えれば済む話。
そう、私一人で。
「もしかして…これが、狙いなの?」
今の私ならば、これだけ悪評が広まれば周囲の人間達を遠ざけるだろうと、彼女はそう踏んだのかもしれない。
その為に作られた、彼女のシナリオ通りの舞台。
私を孤立させて、それで一体何をしようと…
ーー全部全部、貴女が悪いんじゃない。貴女のせいであの人は…
ーー貴女を必ず、私と同じ目に遭わせてやるわ
「……っ!」
ばらばらに散っていたパズルのピースがぱちんと、音を立てて嵌った気がした。
「ユリアン様、ユリアン様が…!」
跳ねるようにベンチから立ち上がり、前へ前へと駆け出す。気ばかりが急いて、何度も何度も足がもつれた。
「サナ、サナはいる!?」
終業後に彼女達がいつも過ごしているテラスに、私は息も絶え絶えになりながら転がるように飛び込む。
「ア、アリスティーノ様!?一体どうされたのですか!」
「ユリアン様は、ユリアン様をお見かけしなかった!?」
「殿下ですか?いえ、私達は…」
サナ達は顔を見合わせ、一様に首を振った。そして次の瞬間、彼女はぶるぶると震える私の手をぎゅうっと強く握った。
「お困りなのですね、アリスティーノ様。私達にできることならば、何でもいたしますわ」
決意を宿したその瞳を、とても綺麗だと思った。




