あり得ない事態
どうしてなの?私は何も悪くないのに。
皆が悪いのよ。私にあんなことをさせたのは、周りの人達の振る舞いのせいじゃないの。
もっとちゃんと私のことを気遣ってさえいてくれれば、私だって素直に生きられたわ。
全部全部、悪いのは他の人達よ。
ーーそれは違うわ、アリスティーノ
何?誰?私を否定するのは、一体誰なの?
ーーどうして誰にも惜しまれることなく、一人孤独に死ななければならなかったのか教えてあげましょうか。
それはね?
貴女が生きる価値もない、糞みたいな人間だからよ。アリスティーノ。
「嫌あぁぁっ!来ないでえぇぇっ!!」
私は叫びながら、ガバッと勢い良くベッドから飛び起きた。はぁはぁと肩で荒い呼吸を繰り返しながら、キョロキョロと辺りを見回す。
その反動で、こめかみからぽたりと汗が流れ落ちた。
「私、は……」
辺りはまだ暗く、目が慣れるまでに少し時間がかかった。その内に、ここが自室であると気付く。
夢、にしては感じる心音があまりにも生々し過ぎる。部屋に響く自分の荒い呼吸の音も、肌に触れているシーツの感触も、こんなにはっきりとしているのだ。
「だけど私は、あそこで死んだ筈……」
十七の誕生日を迎える前に、私の人生は幕を閉じた。生気を感じないあの冷たい部屋で、私はたった一人で死んだ。
いや、一人ではなかったか。あの場には、私の死刑を執行する処刑人もいたわ。実際にはきっと、証人として監視窓から様子を覗いていた者もいたのでしょうね。
たった、それだけ。
あんなにも持て囃され人に囲まれ家族にも愛されていた筈の私が、なんて憐れな死に方。
あの時は憔悴しきっていて考えもしなかったけれど、大々的に私の処刑を行わなかったのはチャイ王女に配慮したのだろう。
あの女は最後まで、私に温情をと訴えていた。最後まで、清らかな聖女のようだった。
「こわ、かった……こわかったよ…ぉ…っ」
段々と記憶が戻ってきた私の瞳から、ぼろぼろと涙が溢れ出す。あの時の、凍えるような寒さ、たった一人の孤独、言い表せない恐怖。それを思い出し、ガタガタと身体が震えた。
確かに私は死んだ。じゃあここは、天国なの?死んで尚、こんなにも鮮明に恐怖を感じなければならないの?
「いや、嫌、もう嫌よぉ……っ」
チャイ王女も、婚約者であるユリアン様も、私を裏切った令嬢達も家族も何もかも、恨んでいる心の余裕は今の私にはない。
ただただ、恐怖に慄き叫ぶことしかできない。
「アリスティーノお嬢様!どうされたのですか!」
その時勢い良く部屋のドアが開かれたと同時に、使用人や衛兵達数名が足音を響かせながら入ってきた。
「ご無事ですかお嬢様!」
タタッと一番に私の元へ駆け寄ってきたメイドの姿を見て、驚きに目を見開く。
かつて私が解雇した、侍女のリリだったからだ。