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受け入れることはできない

二年経っても彼は騒がしい。既に立ち去ったというのに、まだ声が残っているように感じる。


「アリスは彼のことを気に入っているね」

「それは勘違いですわ。普通に会話をしているだけです」

「どうだか」


むすりとしたようにそう言って、ユリアン様は私の頭の上に顎を乗せる。


「重いです!やめてください!」

「それは僕の君への気持ちのことを言っているの?」

「そうではありません!」


話が通じないので大きく身を捩って抵抗してみせると、彼は子供のように唇を尖らせた。


「アリスが昔僕に言ったんだよ?思いは口にしないと伝わらないって」

「ユリアン様は距離が近いのです!」

「これでも随分我慢してるんだけど」


しれっと言ってのける彼を見ていると、顔を真っ赤にしながら怒っている自分がなんだか馬鹿らしく感じてくる。


私は盛大に溜息を吐き、そしてふと無意識に表情が曇った。


「ユリアン様は、本当の私をご存知ないのです。知ればきっと、同じ台詞は言えませんもの」

「アリス」

「私はズルをしているのですから」


言うつもりのなかったことを口走ってしまい、咄嗟にユリアン様の顔を覗く。彼の瞳が哀しげに揺れる様を見ていられず、ふいっと視線を下げた。


「アリス」

「ごめんなさい、気になさらないで」

「アリス聞いて」


力なくだらりと下がっている私の手に彼の指がそっと触れ、思わずピクリと反応した。


「君がずっと、何かに悩んでいることも知ってる。それが気軽に聞けることではないということも」

「ユリアン、様」

「僕は君のことが好きだ」


瞬間、私に触れている彼の指が熱を持ったような気がして。切なさに胸が焼き切れてしまいそうだと思う。


素直に気持ちを受け取ることが、どうしてもできない。だって彼はいずれ、この国にやってきたチャイ王女に心を奪われる。


所詮偽物は、本物には勝てない。


「泣かないで、アリス」

「泣いてなどおりません」


これ以上彼に触れていることができなくて、私はそっと身を翻した。


彼を傷つけていることに気付いても、どうすることもできない。だって私は、怖いのよ。


もう、知ってしまった。ユリアン様の良さはその外見だけではないと。今この胸の痛みの理由を認めてしまえば、きっと後戻りができなくなる。取られたくないと思ってしまう。


死にたくない。あんな惨めな最期を、もう一度迎えたくない。今ユリアン様を愛してしまえば私は…


「好きだよ、アリス」


背中越しにもう一度思いを告げられ、私は声を押し殺し一筋の涙を零した。

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