十五歳の春
ーー学園に入学してから早二年が過ぎた頃。十五になった私達の関係は、変わらずだった。
つつがなく授業を終えた日の昼下がり。爽やかな春の光が、琥珀色の髪をきらきらと照らす。
男子生徒達のスポーツ交流に参加していたユリアン様を、私はベンチに座りぼうっと眺めていた。
手持ち無沙汰だった為に、リリから届いた手紙を眺めて過ごす。ちなみにこの学園に入学してから、彼女からは何通もの手紙を貰った。けれどお母様からは一通もない。
「アリス」
「ユリアン様。お疲れ様でございました」
「何を見ているの?」
「リリからの手紙です」
彼は益々洗練された麗しい美少年へと成長を遂げ、隣に立つ私もそれに遜色ない美少女である。
相変わらず私は学園内では畏怖の対象であり、取り巻きは大勢いても気軽に話せる友達は出来ないまま。
けれど不思議なことに、以前と違うのは私に一定数の“信者″がいるということだ。
それは多分、私が事あるごとに“おもちゃ”作りに勤しんでいるせいだろう。彼ら彼女らは、クアトラという名のおかげで理不尽に暴力を受けることが少なくなったと、陶酔しきった瞳で私を見つめる。
まるでゲームの攻略法を知ってから挑戦しているような、謎の罪悪感。そして私の元々の性分もあり、お礼なんて要らないと突っぱねてしまうわけだが。
ユリアン様はそんな私に常に寄り添い、一言ふたこと付け加えている。彼も決して私以外には愛想のある人ではないけれど、第四王子のお言葉は絶大らしい。
大多数の評価は傲慢で高飛車、一部では女神と呼ばれる何とも不思議な令嬢が出来上がっている。
ちなみに、何人かの生徒が「あの人やあの人がクアトラ様のことを傲慢で高飛車と言っていました!」とご丁寧に教えてくれるので、私は自身の悪評を把握しているというわけだ。
けれど今私が今生きているこの世界で以前と最も違うのは、
“クアトラ嬢がユリアン殿下を追っている”
のではなく、
“ユリアン殿下がクアトラ嬢を追っている”
となっていることだった。
「クアトラ嬢、お久しぶりです!」
二年前よりも少しだけ背丈の伸びた丸眼鏡の男子生徒、ウォル・ターナトラーが私に向かって駆けてくる。彼は先日隣接する王立大学に入学したばかりで、何かにつけてはこちらに来ている様子。
ちなみに、彼が身につけている金縁の丸眼鏡は私がプレゼントした…もとい、私とユリアン様がプレゼントしたものだ。
「ターナトラーさん。大学での生活はどうですの?」
「ここよりも貴族意識が薄くて実力を見てくれるので、ずっとやりやすいです。それに、大学には僕の憧れていた教授がいらっしゃって、彼の講義を受けられるのがもう本当に嬉しくて」
「それはよかったわ」
薄く微笑めば、ターナトラーさんは何やらもごもごと言い淀む。
「ですがあっちには、貴女がいないので僕は…」
「これはこれはターナトラーさん。お元気そうで何より」
背後からぬっと現れたユリアン様は例によって私の腰を抱き、彼に挨拶をしてみせる。表情は至って普通に見えるけれど、ターナトラーさんは飛び上がらんばかりの反応をした。
「あ、あはは!相変わらずお二人はとてもお似合いの美男美女ですね!」
「どうも」
慌てふためくターナトラーさんを見ながら、私は冷たく目を細めた。
もう、そうやって大袈裟に動くからすぐに眼鏡を壊すのよ。




