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彼を送り出しましょう

アイザック・オーウェンとウォル・ターナトラーの身体的特徴は全くと言っていい程に異なっている。けれど何故か、ユリアン様を前にすると皆一様に同じ表情をしてみせるのだ。


どうやらターナトラーさんは克服したようだけれど、こうして目の前に立つことすら恐らく初めてであろうオーウェンさんは、せっかくの長身を丸めぷるぷると震えていた。


「最初に忠告しておくがアリスは僕の」

「ユリアン様それはもう宜しいですわ!」


全くこの人は、私と関わる男性全員にその前置きをするつもりなのか。大体、オーウェンさんには私が勝手にお節介を焼いているだけだと再三説明したというのに。


「オーウェンさん、これを見てください。私先程花を集めて参りましたの。簡単なものではありますが、手ぶらよりはマシでしょう」


ターナトラーさんから案内された花壇の花でこしらえた花束に手持ちの布とリボンを巻きつけた、即席の贈り物。


「一体どうして君がここまで…」


私が私物を使ったことが気に入らないのか、ユリアン様は私の隣でぶつぶつと文句を垂れている。それに距離が近いせいで、彼の身じろぎ一つにさえいちいち反応してしまう。


「クアトラ様、何やら顔が赤いように見えますが…」

「きっと気のせいだから言わないで」


あまり関わりは深くないが、どうやらアイザック・オーウェンとは思ったことをすぐ口にしてしまう性分らしい。


せっかくの高身長と切長の涼しげな目元を持っているのに、実にもったいないと私は思う。


「くれぐれもクリケットさんには、私がこの花束を用意したと話してはダメよ」

「えっ、何故ですか?」

「当たり前でしょう…」


はあぁと盛大に溜息を吐いた後、私は改めて彼に花束を渡す。それから軽く髪を整え、背筋をまっすぐ伸ばせと助言した。


昨日別れの間際にはあんなに決意に満ちた表情をしていたのに、今日の彼はなんとも情けない。その姿を見ていると、段々と苛立ちが込み上げてきた。


「貴方、本当にクリケット嬢のことが好きなの?私にはそう見えないわ」

「す、好きです!僕はずっと、優しい彼女のことが…」


クリケット嬢の名前を出した途端、彼の視線が上向く。


「だったら勇気を出しなさい。クリケット嬢を愛しく思っているのが自分だけだと、過信しないことね」

「クアトラ様はいつも、言い方が手厳しいですね…」


ぽそりと呟いたオーウェンさんの言葉を私は聞き取ることが出来なかったけれど、途端に射殺すような視線を放つユリアン様の表情からして、大方悪口でも言ったのだろう。


今の私は、以前とは違い相手の気持ちを考えるというスキルを習得している。私がオーウェンさんでも、こんな風に言われたらきっと暴れ散らかすことだろう。


腹が立つと語気が強くなる癖も、いい加減改めなければいけないわ。


「アイザック・オーウェン」

「は、はいぃ!」


ずっとむすりと黙りこくっていたユリアン様が口を開くと、オーウェンさんはたちまちまっすぐ地面に刺さった木の棒のようになった。


「アリスの言動には嘘偽りがない。そんな彼女は、君ならきっと成し遂げるはずだと僕に言った」

「ユリアン様…」


まただわ。まるでデジャヴのようにまた、アイザック・オーウェンと先程のウォル・ターナトラーの表情が重なった。


きらきらしい瞳でユリアン様を見つめ、心なしか血色まで良くなっているような気がする。


何なの一体…男性というものはつくづく理解不能だわ。


「ストラティス殿下、クアトラ様。お二人の貴重な時間を僕の為に割いていただき本当にありがとうございました!このアイザック・オーウェン、家名に賭けても立派に成し遂げてみせます!」


びしい!っと音がしそうな程の敬礼を見せた後、オーウェンさんは花束を握り締め駆け出していった。


みるみるうちに小さく消えていく彼の背中を見つめながら、私は隣を見ることなく問いかけた。


「私、ユリアン様にそんなこと言いましたかしら?オーウェンさんなら…などと」

「さぁ、どうだったかな」


悪びれもせずしれっと答えると、彼は満足げに喉を鳴らした。

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