かつての自分を見るようで
しばらくして多少は落ち着いた様子のオーウェンさんは、私よりずっと高い背を丸めて頭を伏せた。
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした、クアトラ様。僕の浅はかな行動のせいで、貴女の手を煩わせてしまいました」
私から返された紙の切れ端を持つ彼の手は、ぶるぶると震えている。それを見つめながら、私は腕を組みじいっと考えた。
「これを見つけた時、この手紙の主は何てそそっかしいのかしらと思ったけれど、本当はそうじゃないのかもしれないわ」
「え…?」
「きっと、緊張していたのね。確認する余裕もないほどに」
オーウェンさんはパッと顔を見上げると、大して大きくない瞳をまん丸にして驚く。
「それは一体、どういう感情を現す表情なのかしら」
「あ…す、すみません!まさかそんな風に言っていただけると思っていなかったもので」
ターナトラーさんの時もそうだったけれど、側から見ればどちらが先輩だか分からない。
年上に対し横柄な態度だと自覚はしているが、なかなか直すことができないでいる。
「あの…クアトラ様」
目元を腕で拭うと、彼は恐る恐るといった雰囲気で私に問いかけてくる。
「僕の恋文は、そんなに酷いものだったでしょうか?」
「正直に答えてももう泣いたりしない?」
「はい、しません」
オーウェンさんは切長の瞳をぐっと持ち上げ、唇を真一文字に結んでいる。私は彼の恋文を脳内に思い浮かべ、感じたことを率直に述べた。
「まず、好きな相手に渡す恋文があんな紙の切れ端なんてありえない。それに字だってもっと丁寧に書かなければ、送り主まで粗雑な印象を受けるわ。そもそも女性でもあるまいし、下駄箱にこっそり恋文というとこから解せないわね。直接手渡せるような間柄にないのならば、余計に何か贈り物のひとつでもないと。私ならこんな恋文を貰った時点で、百年の恋も冷めてしまうわ」
ひと呼吸おくこともせずきっぱりそう伝えると、彼はまるで被弾でもしたかのような顔をして胸元を押さえる。
「もう少し何かに包んだ方が良かったかしら」
「い、いえ。クアトラ様の仰る通りですので」
流石に二度は泣かないらしい。オーウェンさんは悲痛な表情を見せながらも、私の言葉を受け止めた様子だった。
「僕、昔からこうなんです。本当にカッコ悪くて。一大決心をしてこれを彼女の下駄箱に入れたのに、まさか間違っていたなんて。ここまでダメだと、情けないを通り越して笑えますよね」
彼はいまだに地べたに座り、片膝を立てて自嘲している。そんな様子を見ても私はちっとも同情できなかった。
「それが分かっているのなら、貴方は自分を変えるべきだわ」
「…簡単にできることじゃない」
「そんなことは私が一番よく分かっているわよ」
彼に手を伸ばそうとしかけたけれど、直前でやめる。私は仮にもユリアン様の婚約者だし、オーウェンさんにも想い人がいる。引き起こす為とはいえ不用意な接触はよくないだろう。
「ほら立って。いつまでもめそめそしていないで、男ならばしっかりしないと。これはチャンスよ。恋文を渡した相手がクリケットさんではなく私だったことは、ただの失敗ではないわ」
「クアトラ様…」
また面倒ごとに巻き込まれそうな臭いがぷんぷんする。だけどオーウェンさんははまるで少し前の私のようで、どうしてもこのまま放っておくことができなかったのだ。




