新たな事件
それからほどなく経ったある日の放課後、自身の下駄箱に手紙が入っているのに気がついた。
「あら?何かしら」
封筒にも入っていないただの紙の切れ端。それを開くと、何とも読み辛い字の羅列が目に飛び込んできた。
この人は、字がとても下手だわ。というよりも、丁寧ではない。この私に手紙を渡そうというのに、こんな手が震えたような字を書くなんてある意味度胸のある人物のようだ。
いや、それよりもこれは…
「私宛ではないじゃないの!」
汚いから気が付かなかったけれど、まず宛名が違う。そしてこの内容。
ーーまるで野に咲く花のように君は可憐だ
明らかに私のことではないと分かる。
どうやらこの手紙の主は、恋文を入れる場所を間違えたようだ。全く、こんな大切なことを間違うなんてどうかしている。
「私は関係ないのだし、放っておいていいわよね」
取り敢えずぽいと下駄箱に戻し、そのまま宿舎へ帰ろうと足を進める。
「…あぁ、もう!」
ダン!と足を踏み鳴らすと、私はくるっと踵を返した。私の後を追ってきたらしいサナと数名の令嬢が、明らかにビクリと肩を震わせた。
「私少し用ができたから、先に行ってちょうだい」
「は、はい」
「あ、その前に聞きたいことがあるのだけれど」
サナは茶色の瞳を瞳を丸くして、微かに首を傾げた。
次の日。私はサナ達を使って聞き出した手紙の主のいる教室まで、一人でやってきた。
その男子生徒は私よりも一つ年上の二年生で、ひょろりとした背の高い風貌だった。比較的整った顔立ちをしているが、オドオドしていて自信なさげな雰囲気が全てを台無しにしている。
以前の私なら、苛ついて怒鳴り散らしていたことだろう。
「あ、あの…な、な、何か御用でしょうか…」
私の噂を知っているのだろう。顔面蒼白でがたがたと震えている。彼からしてみれば、突然理由もなく私に教室まで訪ねてこられて戦々恐々といったところか。
「オーウェンさん。恋文を入れる場所を間違えるなんてどうかしているわよ」
「へ…え……っ?」
「だから、間違えているのよ。昨日私の下駄箱に入っていたわ」
スカートのポケットからかさりと紙の切れ端を取り出して、彼に突きつける。元々悪かった顔色が更に青白く変わった。
「そ、そそそれ…!」
「クリケット嬢の下駄箱は私の隣よ」
「そんな……」
次の瞬間には、がっくりと地に膝をついて項垂れている。どうやら感情が全て表に出る性分らしい。
「あんなに勇気を出したのに…」
「ご愁傷様。次はきちんと確認を怠らないことね」
瞳いっぱいに涙を溜めて今にも泣き出しそうな彼を見ると、ふつふつと怒りが湧いてきた。
彼、アイザック・オーウェンはつくづく私の嫌いなタイプだ。
「何故わざわざ、それを僕に届けに来てくださったのですか?まさか脅迫…」
「貴方を脅迫して私に一体何の得があるというの」
「だ、だってクアトラ様は専用の“おもちゃ”を従えるのが趣味だと」
まぁ、彼は間違っていない。趣味だと言われているのは、なんとなく引っかかるけれど。
「確かに、私がこの手紙をクリケットさんの下駄箱に入れ直して差し上げようかとも思ったのだけれど」
ぺたんと地面に座り込みただ私を見上げているオーウェンさんに、ずいっと顔を近づけた。
「あまりにも酷すぎるわ!こんな恋文では実るものも粉々に散ってしまうわよ!」
声高々にそう言えば、とうとう彼の瞳からぽろりと涙が零れ落ちた。




