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初めての…

一度気になり出してしまうと、もうダメだった。あの時のウォル・ターナトラーにしたように、気が付けば私には専用のおもちゃが片手では足りないほどに増えていたのだ。


何度も言うが、私は決して根本が善人ではない。高位貴族が嬉々として下位貴族を苛めている様を見ると、まるで以前の自分を見ているようで嫌だという私情から、こんなことをしているわけで。


だから堂々と助けには入らないし、あくまでも気紛れに戯れているという演出でいきたいのだ。実際、私に自分専用のおもちゃ呼ばわりされ、怯えている人達がほとんど。ある一人を除いては。


「クアトラ嬢!見てくださいこの花。学校の花壇で許可を得て育てていたベラドンナという花なんですが、何年も枯らしてばかりだったんです。それが今年はほら、こんなに立派に咲いてくれたんですよ!」


嬉々とした表情で私に話しかけてくるのは、四年生のウォル・ターナトラー。あの日以来なぜか彼は私に懐き、まるで飼い主に纏わりつく子犬のようにやたらと近付いてくる。


今日も今日とてやってきた彼は、手に小さな花を持っている。根の部分には、白い綿のようなものが巻きつけてある。なんとはなしに、私はそこをじっと見つめた。


「あっ、これですか?ベラドンナは根に生薬成分があるので、水を含ませた綿で保護しているんです」

「へぇ、そうなの」

「花も控えめで可愛らしいでしょう?でもこの花、実は食べると食中毒を起こしてしまうくらい危険なんですよ。クアトラ嬢もくれぐれもお気をつけて!」


食べるわけないじゃない。


間髪入れずにそういいたかったが、面倒なので黙っておくことにした。というより、そんな危険な花を学校で育てるなんてどうかしている。


ターナトラーさんはご覧の通りの薬草マニア。お父様が医者でお母様は看護人らしい。自分いつかは医者になり、たくさんの人の役に立ちたいと目を輝かせていた。


眼鏡の奥の濃紺の瞳はまん丸で、背だって私より少し高いくらい。ひょろりとしていて、きちんと食べているのかと問いたくなる。


「ところでクアトラ嬢。今日の放課後はお暇ですか?」

「何かしら」


面倒だと言う態度を隠すこともせず、一応尋ねる。


「僕自然学を専攻しているんですが、先生から空き教室を研究室として自由に使っていいと許可をいただいているんです。クアトラ嬢にぜひ遊びに来てほしくて」

「なぜ私なの?」

「クアトラ嬢以外に友達がいないので」


微妙に失礼な物言いにも引っかかるが、私達はいつから友達になったのだろう。


そしてそもそも、今まで生きてきた中で私に友達と呼べる存在がいたことがあっただろうか。いや、ない。


取り巻きはいても、友達はいなかった。学園にいる同世代の女性はいつでもライバルになりうると思っていたせいもあり、信用していなかったのだ。


「僕、クアトラ嬢が初めてのお友達です!」


ターナトラーさんは三学年も上だとは思えない可愛らしい笑顔で、にこっと笑う。


強引で図々しい気もするが、なんだか憎めない。


「奇遇ね、私もよ」


呆れながらも、つい笑ってそう返してしまった。


「アリス」


ターナトラーさんと二人向かい合わせで笑っていると、不意に名前を呼ばれる。


私を()()()と呼ぶのは、この学園でたった一人。

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