妖精のようなお姫様
私は今日も、退屈しのぎに地味な女生徒をねちねちといびっている。
だけど最近、ますます退屈だわ。ユリアン様は生徒会生徒会って、馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか言わないし。
誰を苛めても皆ぶるぶると震えながら許しを乞うだけの姿にも、いい加減飽きてきた。
何か現状がパッと変わるような、楽しいことってないかしら。
「アリスティーノ様っ」
取り巻きの一人であるサナが、私の元へと駆けてくる。
「あら、どうしたの?」
「私先程、先生方が話してらっしゃるのを偶然耳にしたのですが」
勿体ぶった言い方に、つい苛立ちが顔に出る。それに気付いたサナは、一瞬顔をこわばらせた。
「今日この学園に、隣国の王女が編入してくるらしいのです」
「隣国の王女?」
「チャイ様だと」
その名前を聞き、私はグッと眉間に皺を寄せる。チャイ王女といえば、美女大国と言われる隣国のスロフォン王国の第四王女、チャイ・スロフォンだ。四姉妹の中でも特に妖精のようだと、この国でもよく噂されている。
スロフォン王国とこのルヴァランチア王国は、友好関係にある。入学時期には少々ずれているが、大方友好の証とでも言いたいのだろう。
もしくは、チャイ王女の”婿探し”といったところか。
どちらにせよ、私にとって非常に面白くない事態であることは確かだわ。
「貴女もう行っていいわよ。これに懲りたら、今後は口の利き方に気をつけることね」
私の足元に転がっている女生徒を見下ろし、吐き捨てるようにそう言った。
「さぁ、いきましょうか。この私自ら、しっかりとチャイ王女にご挨拶して差し上げなければ」
擦り寄るなんてごめんだけれど、隣国の王女と仲良くなるのは悪いことではないわ。
それに、こういうのは最初が肝心なの。万が一ユリアン様に色目でも使おうものなら、その立場というものを教えなければ。
幾ら王女であろうが、この学園の支配者は私なのだから。
サナが仕入れた情報通り、その日の午後にチャイ王女はやってきた。全校生徒だけでなく教師までもが、両手を上げて彼女を歓迎する。
もちろん私も、表面上は笑顔を浮かべている。
「ようこそ、チャイ王女。ルヴァランチア王立学園へ。生徒そして教師一同、貴女様のご入学を心より歓迎致します」
学園長が口髭をピクピクと動かしながら、チャイ王女に媚を売る。
あぁ、いらいらするったら。
「こんなに歓迎して頂いて、とても嬉しいですわ。ですが特別扱いをされると困ってしまいます。私は、こちらで学ばせて頂く身なのですから」
チャイ王女は噂通り、花の妖精のようだった。肩までのプラチナブロンドの髪はふわふわとして、歩くたびに可愛らしく揺れる。
くりくりとした大きな瞳を縁取る睫毛は、彼女が瞬きをするたびに音を立てそうな程に長い。
真っ白な頬は緊張からかほんのりと赤く染まり、華奢な手脚は絶えずパタパタと動いていた。
「…」
この世で私が大嫌いな人種だわ。庇護欲を駆り立てる、いかにも可憐で可愛らしい女。
「皆さんと一緒に過ごすこれからの日々が、とても楽しみです」
チャイ王女はそう言うと、にこりと微笑む。
その瞬間その場にいたアリスティーノ以外の誰もが、彼女の虜となったのだった。