図星をつかれたから
なんという皮肉なのかしら。以前の私はこの方の側に十年以上もいたというのに。彼と関わることに非常に消極的だったこの二年間の方が、彼の性格が良く分かるなんて。
ユリアン様はとにかく無表情な方だと思っていたけれど、良く観察すると案外そうでもない。まぁ、今はまだ子供だし表情を隠しきれていないのかもしれないけれど。
それにマイペースというか、こちらの話を聞いていない。意外と強引で自己中心的な人だ。
婚約が結ばれてしまった以上はどうしようもないし、私がどうあがいた所で家同士の婚約は簡単には破棄できない。その慣習を利用して散々好き放題してきた私が言うのだから、間違いない。
彼との婚約云々の前に、以前の私が死んでしまったのは自分に原因があるのだから、彼との関係をどうこうするよりも私にはやらなければならないことがあるのに。
今のユリアン様は、自分の性格改善の為に全力を尽くしたい私の邪魔にしかならないのよ。
「王妃陛下が近々君にドレスを贈るそうだよ。二十着ほど」
「まぁ、二十着も!部屋のクローゼットに入りきるかしら。今持っているドレスを何着か捨てて…」
ってダメだわ!こういう思考がワガママな私を作り上げる要因の一つなのよ。
私はきらきらと輝かせていた瞳を瞬きで落ち着かせ、こほんと咳払いをする。そして、隣に座っているユリアン様に向き直った。
「ユリアン様から、王妃様に伝えてくださいませんか?大変ありがたいのですが、そんなには頂けませんと」
「何故?」
「何故ってそれはええっと…今持っているドレスを大事にしたいからです。それに、もしも王妃様からプレゼントを一ついただけるのなら、私はそのたった一つをとても大切にしますわ」
言い終えた後、私は堂々と胸を張ってみせる。そうよ、これこそが性格の良い控えめなご令嬢の姿。幾ら有り余る財源があろうとも、良い子は決して贅沢したりしないのよ。
そんな私を見てユリアン様はしぱしぱと数回瞬きをする。そして無表情のまま、彼の細い人差し指が私の胸辺りを指さした。
「君の心は、絶対にそんなこと思っていないでしょう」
「な…っ」
「そんな嘘吐いてどうするの?王妃陛下に気に入られる為?それなら心配しなくても、あの人は君以上に贅沢好きの…」
ガタン!
彼の台詞が終わる前に、私はベンチから勢いよく立ち上がった。怒りで真っ赤になった顔を隠すこともなく、全力で睨めつける。
「貴方に一体、私の心の何が分かるというの!知った風な口を聞かないでよ!」
「アリスティーノ」
「もう話したくないわ!」
ブンッと音がしそうな程そっぽを向いて、私はタタッと駆け出しリリに抱きつく。大きな瞳から今にも涙が溢れ落ちてしまいそうだったが、それだけは嫌でグッと堪えた。
「お嬢様、殿下に対してあんな…」
「分かってる!後で土下座でも何でもするから、今はもう帰りたい!」
「お嬢様…」
リリの腰元にしがみついている私は、意地でもユリアン様の方を見ない。リリやその他クアトラ家従者がおろおろと慌てる中、ユリアン様の冷静な声だけがやけに響いた。
「僕のことは気にしないで、アリスティーノを連れて帰ってあげて」
「殿下」
「ほら、早く」
リリは私の代わりに何度も彼に陳謝していたけれど、私はそんなことはお構いなしに、クアトラ家の馬車に飛び乗った。
ユリアン様の顔なんて、もう二度と見たくない。




