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程々に距離を保つことにしますわ

「お帰りアリスティーノ。殿下との散歩は楽しかったかい?」

「ええ、とっても。ここのローズガーデンは本当に素敵だわ」


たたっとお父様の元に駆け寄ると、優しく頭を撫でられる。質問の答えが微妙にずれていることにお父様は少し変な顔をしたけれど、私は気づかないふりをしてにこりと笑った。


良い香りに包まれて、私までバラの匂いになったみたい。


くんくんと自身の匂いを嗅いでいると、ぱちりとユリアン様と目が合った。


まぁ、珍しい。私の方なんて滅多に見なかったくせに。


過去の恨みがふつふつと湧いてきて、私は周囲が見ていないのを確認してふん、とそっぽを向いた。


二度目も私に好いてもらえるなんて思わないことね、ユリアン様。立場上無下にはできないけれど、私はもう貴方なんかに興味はないんだから。


あぁだけど、やっぱりとっても綺麗なお顔だわ。いつまでも見つめていられそう。


一度逸らした視線を彼に戻すと、またぱちりと視線が合う。さっき私がしたように、ユリアン様もふん、とふてぶてしく顔を背けた。


この…っ、なんて性格の悪い人なの。


ふるふると拳を震わせながら、私はお父様に擦り寄る。


「お父様。私疲れてしまったわ」

「おおそうか。ではそろそろ失礼するとしよう」


眠そうに目を擦ってみせれば、お父様は優しくそう言って私を抱っこしてくれた。


さようならユリアン様。また次にお会いする機会が、どうかうんと先でありますように。


やっぱり、なんだかんだ言っても私は五歳。一度嫌だと思ったら嫌で堪らない。それからは彼の方を見ることもなく、お父様に抱っこされたまま王家の別邸を後にした。




ーーそれから数日後。今日は何故かここにユリアン様がやってくるらしく、朝から私はずっとリリにべっとりと張りついて離れなかった。


「あらあらアリスティーノお嬢様ったら」


困ったように笑いながらも、リリは私を拒否しない。すっかり彼女の虜である私は、リリから香る甘い匂いをこの小さな肺いっぱいに吸い込んだ。


「もうすぐ殿下がお見えになりますから、お支度しましょうね」

「どうしてもしなくちゃダメ?私会いたくないわ」

「まぁいけませんよそんなこと」


彼女のエプロンドレスの裾を握り締め、ぷくっと頬を膨らませる。リリは体をかがめると、私と同じ視線の位置で優しく微笑んだ。


「誰にだって苦手なことはあります。ですが出会いは、一期一会というもの。どんなことにも、意味はあるのです」

「…私がユリアン様と過ごすことに、きっと意味なんてないわ」


どんなに懇意にしようとも、最後には見捨てられる。そんな絶望的な未来へと繋がる道に、一体どんな意味があるというの。


頑なに嫌がる私を、リリは根気よく慰めてくれる。私の気持ちに寄り添いながら、優しく諭してくれる。


不思議と彼女の言葉は、私の心に素直に浸透していった。


「どんな経験もきっといつか、お嬢様を救ってくれる大切な鍵になります。もしも迷った時は、リリと一緒に考えましょう?」

「…そうね、分かったわ」


リリ信者と成り果てている私は、彼女の言葉に大きく頷いた。そして心の中で改めて誓う。今度の人生では、何があっても彼女を解雇するような馬鹿な真似はしないと。


「私、ユリアン様をお迎えする準備をするわ!」

「このリリにお任せください」


立ち上がって腰に手を当て、胸を張ってみせる。リリはくすくすと笑いながら、私の頭を優しく撫でた。


さぁ、どこからでもかかってきなさいユリアン様。このアリスティーノ、逃げも隠れもしませんわ!

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