今はお互いに子供
色々と考えた結果、私はお父様についていくことを決めた。バッドエンド回避の為には、ユリアン様とは関わらない方が良いのかもしれないけれど。
今会わなかったからと言って、クアトラ家の立場上永遠に会わなくて済むかといえばそれは難しそうだ。だったら、お互いが小さな内にユリアン様と出会っておいた方がいいと私は考えたのだ。
私さえ傲慢でなくなれば、きっとあの未来は回避できるはず。チャイ王女に手出ししなければいい話なのだから。
「まぁ、いらっしゃい。アリスティーノ、初めまして」
「初めまして王妃陛下。クアトラ家の長女、アリスティーノ・クアトラと申します」
リリから選んでもらった蜂蜜色のイブニングドレスに身を包み、私は笑顔でカテーシーをしてみせる。
現国王の妻でありユリアンの母親でもある王妃・カトリーナ。私が彼女に抱いている印象は、とても綺麗な人。ただそれだけで、他に取り立てて特筆する点はないように思える。
無難というか人畜無害というか、あまりアクの強くない方だ。将来の義母になる人物としてみるならば、彼女はとても良かった。
「五歳になったばかりだというのに、とても賢いのね」
「王妃陛下にお褒めいただけるなんて光栄でございます」
「それにお顔もまるで天使のように愛らしいわ」
私は内心、そうでしょうそうでしょうと頷いている。私を褒められて、お父様も至極満足そうだ。
「今日はユリアンを紹介しようと思うの。ちょっと、あの子を呼んできてちょうだい」
「畏まりました」
流石王家の侍女。立ち振る舞いも容姿も完璧だ。だけど私は、リリの方がずっとずっと好きだ。今日この場に彼女が居ないせいで、私の胸の中には不安の種が埋められていた。
しばらくして乳母に連れられてやって来たのは、幼き日のユリアン様。一瞬驚いたけれど、私だって五歳なのだから彼だって幼いのは当然のことだ。
グレーの瞳は虹彩を取り込み、とても不思議な光を放っている。見知っていてもつい目を奪われジッと見つめていると、ユリアン様はふいっとそっぽを向いた。
やっぱり、この頃からユリアン様は感じが悪いのね。お顔だけは本当に綺麗だけれど。
「ユリアン、挨拶なさい。クアトラ公爵家のアリスティーノ嬢よ」
「初めまして、ユリアン殿下。アリスティーノと申します」
ドレスの裾を持ち上げ、にこりと笑ってみせる。ユリアン様はこちらを見もしないまま、小さくこくんと頷いただけだった。
「ごめんなさいね。アリスティーノさんと比べると恥ずかしいわ」
「とんでもない。お二人によく似た賢そうな方で、将来が楽しみですな」
「アリスティーノさん。宜しければ少しユリアンと遊んでくださらない?」
王妃陛下からそう言われ、私は考える。
断るのもおかしな話だし、ここは無難に対応した方が良いわよね。
「はい王妃陛下、喜んで」
「まぁ可愛らしいこと。良かったわねユリアン」
ユリアン様は王妃殿下の斜め後ろに立ち、無表情でこくりと頷く。
あの頃の私は幼い所為もあり、ユリアン様が本当に魅力的に思えたけれど。
今になってみれば、固執する必要もなかったのかもしれないわ。だって彼は見るからに、私に興味がなさそうだから。
それでも、王妃陛下には逆らえない。私はたっと駆け出し、ユリアン様に向かって五歳の子らしくにこりと笑った。