温かい腕に包まれて
染みついた根性は、簡単に拭えるものではない。十六年の間我儘放題に生きてきた私には、他人の気持ちを思いやるという感情が決定的に欠けていたのだ。
「嫌…嫌よぉ…、どうしたら良いのぉ……っ」
私はペタンと床に座り込み、子供のようにわんわんと泣く。真っピンクのドレスに、たちまち涙の染みが広がっていった。
「アリスティーノお嬢様!一体どうされたのですか!」
リリが血相を変えて、タタッと私の元に駆け寄る。その表情は、心から私を心配しているように見えた。
「リリ…」
「そんなに泣いて…あぁお可哀想に」
何の躊躇いもなく、リリが私を抱き締める。途端に彼女のエプロンドレスが私の涙と鼻水で汚れた。
「どうされたのですか、お嬢様」
彼女の温かい声とその体温に、ぐちゃぐちゃと絡まっていた心の中がゆっくりと解けていく。私はひくひくとしゃくり上げながら、ひとつひとつ言葉を落としていく。
「さっき私、リリに酷いことをしたわ」
「私にですか?」
「着るものを選んでと言ったのは私なのに、全部嫌がってばかりで」
うわーんと大声で泣きながら、私はリリに抱きついた。
「こんな私はもう嫌なのに!自分ではどうすることもできないの…っ」
「アリスティーノお嬢様…」
リリが感極まったように私の名前を呼ぶ。過去の私は、こんな風に誰かの前で泣き叫んだことなんてなかったのに。
どうにかしたくても、どうにもできない。それがこんなにももどかしいものだと、私は生まれて初めて知った。
リリはゆっくりと私の背中を撫でながら、あやすように体を小さく揺らす。
耳元に響く彼女の鼓動が、何故か私の昂った感情を落ち着かせてくれた。
「大丈夫です、お嬢様」
「リリ…」
「お嬢様はこんなにお優しいいい子なのですから」
触れ合った所から、じんわりと温もりが広がっていく。
リリの声って、こんなに優しかったかしら。
「優しくなんてないわ」
「こんな風に泣けるのは、お優しいからですよ」
「全部、自分の為なの」
こんなことを言う私は、実に五歳児らしくないだろう。だけど、とにかく必死だった。
二度とあんな思いはしたくないから。
「もしも」
リリはポケットからハンカチを取り出すと、とんとんと優しく私の涙を拭う。
「もしもお嬢様が道を間違えることがあれば、いつだってこのリリが手を引いて差し上げます」
「…」
「ごめんなさい、少し難しかったかしら」
私はリリの胸に頬を押しつけ、ぐりぐりとマーキングのような行動をする。体が勝手に、リリを求めるのだ。
「あらあら、甘えん坊ですね」
「…そんなことないわ」
「ふふっ」
泣き過ぎてぼんやりとする視界の中、私はリリの顔をいつまでも見つめていた。