一体どうすればいいのかしら
私が死ぬ間際に何度も何度も繰り返していた言葉がある。
“私は悪くない、周りが悪い”
蝶よ花よと育てられた私は、自身に悪いところがあるなんて意識すらしたことはなかった。
気に入らない女生徒を泥塗れにした時も、私は“私にこんな行動をさせる貴女が悪いのよ”と言っていた気がする。
事実、あの時までは本当にそう思って生きてきた。
けれどもしも今同じ思考で人生を進めていけば、断罪される未来は変えられないわ。
私だって、自分の性格は自分が一番良く理解しているのよ。傲慢で我儘で自分勝手な人間だと。
それで困ったことがなかったから、直そうと思わなかっただけ。あんな死に方をするくらいなら、私は自分を変えてみせる。
そんなこと、簡単なんだから。
もしかしたらこれは、愚かな私に神が与えたチャンスなのかもしれない。人生をやり直す、最初で最後のチャンス。
私今度は絶対に“良い子”になってみせる。
誰も居ない部屋で一人、私はその小さな可愛らしい手を天高く突き上げたのだった。
「リリ、リリ!」
部屋にあるベルを何度も鳴らし、私は大声でリリを呼ぶ。殆ど経たないうちに彼女はやってきた。
「お嬢様、おはようございます。今日のお加減はいかがですか?」
にこりと微笑む彼女は、今日もとても優しい。本当に、何故昔の私はリリを解雇してしまったのだろう。
「今日はとっても調子がいいの。だから朝食は食堂で摂るわ」
今更だけど、五歳児ってこんな感じでいいのかしら。なんせ中身が十六だから、加減が難しい。
もう少しちゃんと、子供らしく馬鹿みたいに振る舞わないとね。
「まぁ、それは良かったです」
ふわりと微笑むリリを見て、私の小さな胸の奥がキュウッと反応する。
この身体になってから、何だか不思議な感じがするようになった。意識は十六歳のアリスティーノなのに、身体が勝手に反応することがある。
それはきっと、本来の五歳のアリスティーノのなんだと思う。
一つの身体に二つの人格が混在しているような、何とも言い表せない感覚だわ。
五歳児の私は、リリのことが大好きだったのだろう。全身からそのことが伝わってくる、
「お嬢様、本日のお召し物はいかがなさいますか?」
「リリが選んで!」
「畏まりました」
五歳児にして、私の部屋の奥のクローゼットは洋服にドレスに靴にと、パンパンだった。その中からリリが選んでくれたのは、可愛らしいミントグリーンのチュールドレス。
それを見た瞬間、私は物凄く嫌な顔をした。
「そんな色、嫌だわ。もっと女の子らしいのがいい」
「あら、そうですか?きっとお似合いになると思ったのに」
そう言いながら、リリは嫌な顔一つせずドレスを選び直す。
彼女に選べと言ったのは私なのに、結局最後まで私はリリの選んだものにケチをつけ続けた。
だって、どれもピンと来ないんだもの。私が気にいるものを選んでくれない、リリが悪いのよ。
真っピンクのゴテゴテドレスに身を包んだ私は、ナチュラルにその思考でうんうんと頷く。
しかし、次の瞬間ハッとする。
「…なんてことなの。これがダメなんじゃない!」
そして、ガックリと膝から崩れ落ちた。