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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

昼、公爵令嬢 夜、Hollyw〇od

※ すごく下品な表現が含まれます


 アグレシア王国公爵家、ビルワース公爵家に生まれた赤い髪の少女――ガーベラは両親や使用人達から愛されていた。


 美男美女の両親から受け継いだ愛くるしい顔立ちもあるが、やはり公爵家待望の第一子である事も大きな理由だろう。


 王国貴族社会の中で「跡継ぎは男子」という風潮は強いものの、それでも親にとって子は可愛らしいものだ。ガーベラの両親は生まれた子が女の子だからといって落胆する事もなかった。


 五歳に成長したガーベラは聞き分けが良い子と評価されてはいるものの、好奇心旺盛で何事にも興味を持つ活発な子だった。


 いたずらっ子のような顔で父親の執務室にある椅子に座りながら「お父様ごっこ」をしたり、母の隣に座りながら本を読むようせがんだり、侍女と手を繋いで庭を探検したり……。


 とにかく明るい、笑顔の絶えない少女だった。


 しかし、彼女の人生は大きく変わる。その切っ掛けとなったのは彼女が六歳の時に見た夢であった。


 この日、彼女が見た夢は真っ白な空間の中にポツンと佇むといったシーンから始まる。真っ白な空間で首を傾げていると、幼い彼女の目の前に一人の男が現れた。


 男の恰好は「おかしい」の一言に尽きる。


 頭はスキンヘッドで、顔にはピンクで縁取られたハート型のサングラス。上は赤色のアロハシャツでボタンは全開。首には金のネックレスを掛けていた。下はカーキ色のハーフパンツとサンダルといった格好である。


 ガーベラが住む世界には存在しないファッション様式であり、それを目の当たりにした幼いガーベラも「変なおじさんがいる」と思ったに違いない。


 だが、その男はニィと笑うと幼いガーベラに向かって告げたのだ。


『YOU、死ぬよ』


 最初、ガーベラは何を言っているのか分からなかった。まず「YOU」という単語が理解できなかった。当然だ。別世界に存在する言語なのだから、彼女が理解できるはずもない。


 だが、それに続く「死ぬ」という単語は理解できた。こちらは彼女が生きる世界で使われる言語だったからだ。


『YOU、死ぬ』


 男はガーベラに人差し指を向けながらもう一度言った。そこでようやくガーベラは「自分が死ぬ」と言われている事に気付く。


「どうして?」


 当然、彼女は理由を問うた。


 彼女は先天的な病気を抱えているわけでもなければ、流行り病を患っているわけでもない。健康そのもので、生活が充実している彼女には死ぬ理由が思い当たらなかったからだ。


『YOU、不幸が巻き起こる。それは Destiny(運命)


 男はパチンと指を鳴らすと、白い空間に巨大なスクリーンが現れた。カタカタカタ、とどこかで映写機が回る音が鳴るとスクリーンにはライオンが「ぐおー」と一吼えする映像が流れる。


 最初に映し出されたのは平和で幸福に暮らす家族だ。スクリーンにはガーベラだけじゃなく、愛しい父と母が笑う映像が流れていく。


 だが、一度スクリーンが暗転すると『355年 7月』とスクリーンの下に白い文字が映った。


 次に映し出されたのは父と母が屋敷の前に停められた馬車に乗り込むシーンだった。どうやら二人は城に向かうようで、ガーベラは屋敷でお留守番しているようにとお願いされたようだ。


 カメラは屋敷を出発した馬車を追っていく。屋敷の前に敷かれた道を進み、そこから王都のメインストリートに進み出て――脇から別の馬車が二人を乗せた馬車に突っ込んで来た。そして、大爆発を起こしたのだ。


 父と母が乗った馬車、突っ込んで来た馬車も勿論の事、メインストリートで大爆発が起きた事で多数の人間が巻き込まれた。辺りに散らばる死亡した人々の死体と爆発で宙を舞う馬車の残骸が落ちて来るシーンが映し出される。


 最後にカメラが一部に寄って行き……そこに映し出されたのは地面に倒れる両親の死体だった。


「う、うそ! 嘘よ!」


 幼いガーベラは泣きながら必死に首を振って否定する。だが、映像を見せた男も首を振って否定した。


『NO。まだ続きがある』


 次に映し出されたのはガーベラが成長した後の姿だった。歳は十八くらいだろうか。今よりも美しく、凛々しい姿に成長していた。


 しかし、彼女はボロボロの服を着た状態で、両手には手枷が嵌められていた。


 ガーベラは手枷を嵌められた状態で暗闇の中に立っており、目の前には大斧を持った処刑人が立っていた。彼女は多数の男達に囲まれながらどこかへ連行させれていく。


 連れて行かれた先は王都の広場に作られた処刑台だ。ガーベラは処刑人に連れられて、裸足のまま処刑台に上がると周囲を囲む民衆から怒りの声が向けられた。


 中には石を投げる者もいるが、スクリーンの中にいるガーベラは俯いたままだった。


 処刑台の上には黒髪で無精髭を生やした謎の男が立っており、彼は民衆に向かって何かを叫ぶと処刑人に指示を出した。


 ガーベラは処刑人に無理矢理跪かされ、首を持たれた。そのまま石台の上に首を置かれ、首の位置が固定される。


 そして――処刑人の大斧が落ちると彼女の首は宙を舞ったのだ。


『YOU、死ぬ』


 スクリーンに流れていた映像が終わると、男は再びガーベラを指差して告げた。


 君は死ぬ運命にあるのだ、と。


「う、嘘! いや、嫌よ! こんなの嫌! 私、信じないから!!」


 泣き喚きながら首を振って髪を振り撒きながら否定するガーベラ。嫌だ嫌だ、と夢を否定していると、遠くから彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。


 声の主は彼女の母だ。母の声に集中すると、彼女はハッと目を覚ました。


 目の前には父と母、そして執事長であるセバスチャンと専属侍女であるモナが心配そうにガーベラの顔を覗き込んでいた。


「怖い夢を見たの!」


 そう告げて、ガーベラは母の胸に飛び込む。母は彼女の背中を撫でながら「大丈夫」と何度も繰り返した。


 その日は家族全員で同じベッドで眠った。その日以降、彼女は夢の事を思い出さぬよう過ごしていたのだが――


 二年後、ガーベラが八歳になった年の夏。


 愛する父と母は夢と同じ、爆発に巻き込まれて死亡した。



-----



 父と母の死は王国内で大きな事件として取り上げられた。


 公爵家の当主と夫人が死亡となれば城も大騒ぎ。特にガーベラの母は王家から降嫁した姫だったとなれば猶更だろう。


 勿論、二人の死に方が重要な論点となる。なんたって爆薬を積んだ馬車が横っ腹に突っ込んできて、そのまま大爆発を起こしたのだ。多数の国民を巻き込んだという件もあるが、何にせよ問題にならぬ方がおかしい。


 しかし、王国の中枢たる王城で出た結論は『容疑者不明』である。公爵家夫婦を殺害したと思われる犯人へ辿り着くヒントや証拠が得られたなかったからだ。


 王はこの事件に関する調査は長期戦になると判断。王国の威信に掛けて犯人逮捕を優先せよ、と命じた。


 同時に二人の両親を失ったガーベラに対し、叔父である王は最大の配慮をせよとも命じる。彼女の生活を保障しつつ、今後のビルワース家に対しては彼女の心の傷が癒えるまで保留にするとした。


 ――ガーベラは両親の葬儀が終わった後、残された使用人達と暮らしていく事になる。


 数日間は泣き続け、ろくに食事も摂れぬ状態であったが……。彼女が立ち直るのは、周囲の予想に反して早かった。


 それは、彼女が再び夢を見たからだ。


『YOU、死ぬよ』


「はい……」


 夢の中でガーベラは再び謎のおじさんと再会する。最初に見た夢の時と同じ場所と格好だ。


 夢の中でも項垂れるガーベラ。傍から見れば、このまま運命を受け入れて両親の元に行きたいなどと言い出すのではないか、と思われたが彼女は違った。


「私は……。死にたくない……」


 彼女は死を望まなかった。その理由は両親がどうして死ぬ事になったのか知りたかったからだ。


 善良であった両親がどうして死ななければならなかったのか。そして、その先にある自分の未来にも疑問が湧く。    


 どうして自分は処刑されねばならぬのか。どうして処刑にまで至るのか。八歳という年齢でありながら、彼女は自分の運命に対してしっかりと向き合えていた。


『YOU、運命変えたい?』


「え?」


『YOU、運命変えられる。変えたい? どうして両親が死んだのか、真実を知りたい?』


 アロハを着たおじさんはハート形のサングラスの位置を正すとガーベラに問うた。彼女の答えは勿論「YES」だ。


『YOU、自分で運命を切り開く。他力本願はNOね』


 おじさんはパチンと指を鳴らす。すると、再びスクリーンが出現した。


 スクリーンにはガーベラが王国騎士団に懇願して捜査依頼をするシーンだった。しかし、その後の運命は変わらない。犯人は逮捕できずにガーベラは処刑されてしまう。


 王国の中で起きた事件に対し、一番頼れる組織である騎士団に手を借りては運命は変えられないとおじさんは言った。運命を変えるのであれば、ガーベラ自身が自らの手で変えなければいけない。彼女が自ら動く事こそが、運命を変えるファクターであると。


「私が自分でやらなければならないの?」


『YES。それが重要。自らの運命を変えられるのは本人以外に無し』


 人生は死まで続く道であり、いくつも枝分かれした道を己で選択しながら行くものだ。


 しかし、時には運命と呼ばれる大きな障害に阻まれて、自らが望まぬ道を行く事になってしまう。


 故におじさんは言った。運命という壁をぶっ壊せ、と。自らの道を塞ぐ運命をぶっ壊せるのは、道を歩む本人以外いないのだと。


「でも、私はどうすれば……」


Easy(簡単)ね。YOUの人生を狂わせた者を排除すればいいね』


 おじさんは指をパチンと鳴らすとスクリーンに一人の男を映し出した。それは処刑人に指示を出していた黒髪で無精髭の男だ。


「この男を探せと?」


『YES』


 この男こそが両親の死に繋がる要因であり、原因であるとおじさんは言った。


「でも、私、女の子なのよ? 男の人には力で負けてしまうわ。それに魔法だって使えない……」


 今の世は剣と魔法が主流の世界である。


 戦いには剣や槍などの武器が用いられ、男達は体を鍛えて戦士となる。中には女性もいるが、身体的な特徴だけで問えば男性の方が有利だろう……という考えが、この世の性別的な常識である。


 そういった身体的特徴を覆す手段の一つとして魔法という神秘も挙げられるが、生憎とガーベラは魔法を使う為の魔力を持っていない体質に生まれてしまった。


 彼女には何も無い。どうすれば、と口にした彼女におじさんは頷いた。


『NO。強い意志の前に性別は関係ないね』


 そう言うと、おじさんは一冊の分厚い本を差し出してきた。


 革製のハードカバーに刻印された題名は『誰でも出来る! ハリウッド式鍛錬方法!』と書かれていた。


「ハリウッド……?」


『これは異世界の叡智が詰まった本。これで君もマーベルヒーロー並みの乙女になれるね』


 この本で運命への抗い方を学びなさい、そう言っておじさんは「ニィ」と笑った。


「どうして、私にここまでしてくれるの?」


 ガーベラの問いにおじさんは天を見上げた。遥か昔の記憶を思い出すように、おじさんは告げるのだ。


『私はマイアミで生きる亀だった……』


 嘗て、おじさんはウミガメだった。異世界にあるマイアミという土地の海に住むウミガメだった。


 彼はビーチにいるボンキュッボンなチャンネーを見ようと浜に上がるが、現地に住むクソガキ五人に見つかってしまった。クソガキ共は手に警棒を持っており「OH! Fuckin(クソ)'Turtle()!」と言いながら甲羅を警棒でボコボコに殴って来たという。


 亀故に抵抗できないおじさんが困っていると、ビーチにいたボンキュボンでマイクロビキニを着たチャンネーが、野太いFuckin'Gunを取り出してガキ共の足元にぶっ放しながら助けてくれたらしい。


『その時……惚れたね』


 亀だったおじさんはチャンネーに惚れてしまう。だが、彼は亀だ。身分違いの恋どころか生物的な違いにも程がある。


 せめて、いつか恩返しをしようと決意して海に帰った。しかし、海に帰ってから二十分後にはサメに喰われて死んだ。


 ――これは途方もない時間を経た恩返しだ、とおじさんは言った。


 まぁ、何はともあれ、おじさんがガーベラの味方である事は変わりない。


「おじさん……。ありがとう」


『Good Hunting』


 ガーベラが本を胸に抱きながら礼を告げると、おじさんはサムズアップして笑った。


 ここで彼女は夢から覚める。ぼんやりとした視界が定まってくると、目に映ったのはいつも眠っているベッドの天蓋だ。


 枕元にはおじさんから渡された本があって、あの夢は確かなものだったのだと確信を得られた。


「ガーベラお嬢様、起きていらっしゃいますか?」


 いつもの朝と同じく、侍女のモナが彼女の部屋にやって来る。このタイミングは丁度良いと彼女は夢で見た事を話す事にした。


 彼女は最も信頼する侍女のモナ、それに執事長であるセバスチャンを部屋に呼ぶと二年前に見た夢から順に語っていく。荒唐無稽な話であるものの、二人は真剣に聞いてくれた。


「それは……。神のお告げではありませんか?」


 ガーベラの話を全て聞き終わると、最初に口にしたのはセバスチャンだ。


 この世界には神がいて、神が人類を創ったという神話がある。ガーベラの夢に出てきたのは神ではないか、と彼は言った。そして、夢で見た未来の話と運命へ抗えという言葉は神のお告げであり、与えられた本は加護ではないか、と。


「私……。やるわ。お父様とお母様の仇を取る。運命に抗ってみせるわ」


 八歳の少女とは思えぬ決意にセバスチャンとモナは言葉が出ない。敬愛する少女が成すべき事を自分達が変わってやりたいという気持ちはあるが、それでは運命は変わらないと言われたばかりだ。


 ガーベラを敬愛する二人にとって、自分達が犯人に対して直接手を加えられないのはなんとも歯痒い。


「私共が全力でサポートします」


「お嬢様の為ならば、どんな事でも……」


 ならば、自分達はガーベラを支えるしかない。彼女の可愛らしい手が血に染まる事を分かっていながら……。だが、彼女が運命に抗って幸せな人生を歩む為ならばと自分達の気持ちを押し殺した。


「ありがとう、二人とも」


 この日より、ガーベラ・ビルワースは運命に抗い始める。



-----



 ガーベラはその日から早速運命に抗う準備を始めた。抗う為のヒントはもう既に手元にある。そう、おじさんから手渡された本だ。


 本はただの本じゃなく、飛び出す()()だった。


 彼女が本の表紙を開くと最初のページ目がピカリと光る。光るページから現れたのはインカムを装着した金髪でスーツ姿のチャンネーの上半身だった。


 本の上に見知らぬ人間の姿が空中投影されるという、魔法でも再現できぬような技術にガーベラ達は驚くが、いくら考えても「神様ってスゲェや」の感想しか出てこない。


『ハァイ! この本は様々な知識を貴女に与えます。ええ、それはもうビックリするほど多くの事を学べるでしょう! 本日から開始されるカリキュラムでは貴女の体を鍛える為の基礎となっています!』  


 金髪のチャンネーが「次のページを捲って下さいね!」と言うと、ガーベラは指示通りにページを捲る。


 すると、再びページがピカリと光る。


 次は女性ではなく、タンクトップと短パンを身に着けた筋肉モリモリマッチョマンが現れた。今度は上半身だけじゃなく、全身での登場だ。


『やぁ! 最初は簡単なエクササイズから始めよう! 僕のカリキュラムを続ける事で基礎体力の向上に繋がるのさァ! よし! 早速始めるよ! まずは両手を前に出して!』


 筋肉モリモリマッチョマンは軽快な音楽と共にエクササイズをゆっくりと始める。ガーベラは彼と同じ動きをしながら「いち、に、いち、に」と声を出しながらも基礎体力の向上を始めた。


 一日目のカリキュラムは二時間程度で終了となった。終了、と表現した理由はエクササイズが終わると本が勝手に閉じられたからだ。


「はぁ、はぁ……」


 どこにそんな体力が、とよく言われる子供体力を持つガーベラであっても肩で息をするほどの疲労感に満ちていた。エクササイズの動きは激しくないのに、体の内側が燃えるように熱い。効率的な運動で筋肉を刺激したせいだろう。


 昼食を摂った後、疲れたせいか自然とお昼寝タイムに突入。三時間ほど眠った後、彼女は再び本を手に取った。


 閉じられていた本を開けると、再びピカリと光る。今度も運動なのかと思いきや――


『Hey! Girl! 午後は運命に抗う為の言葉使いを教えてやろう!』


 今度現れたのはカウボーイハットを被ったカイゼル髭のおじさんだった。彼は黒板の前に立ち、手には白のチョークを持って「HAHAHA!!」と笑う。


『いいか? 敵ってのは大体がクソ野郎だ。野郎共はこの世で一番強いのが自分だと思い込んでやがる。だから誰が一番強いのか教えてやるのさ。一番肝心なのは相手と対峙した時だ』


 すると、おじさんは黒板に謎の文字を書き始める。


 ガーベラが謎の文字に対して「読めないなぁ」と首を傾げるも、それはいらぬ心配であった。


『クソ野郎と対峙した時、まずこう言うんだ。Fuck you! Motherfucker!」


 なんとリスニング付きだ。


 カウボーイハットのおじさんが中指を立てながら言葉を口にして、ガーベラに向かって「繰り返して」と言う。


「Fuck you! Motherfucker!」


『Good!』


 おじさんはガーベラの発音に対し「その調子!」と褒め称えた。


『次はムカつく野郎のケツを蹴飛ばした後に言う言葉だ! Kiss my ass!』


「Kiss my ass!」


『Good!』


 おじさんはガーベラの飲み込みの良さにえらく感心したのか、彼女を指差して笑いながら『YES! So,Good!』と繰り返した。


『次は応用編だ! Fuck You(くたばれ),cocksucker(フェラ豚野郎)!」


「Fuck You,cocksucker!」


『Good! 常に中指を立てるのを忘れずにな!』


 幼いながらもガーベラの言い方は、なかなか様になっている。この学んだ言葉がこの世に生きる者達に通じるかどうかは別問題であるが。


 とにかく、こうして彼女の一日目は終了した。


 おじさんから授かった本にはこういったカリキュラムが用意されており、彼女は一日も無駄にせず学んでいく。


 彼女の学習スピードは驚異的だった。まさに真っ白なキャンバスほど色が栄えるというヤツだ。


 学習を始めて二年が経過し、彼女が十歳を迎えると基礎体力と基礎知識のカリキュラムが終了。


 この時、ガーベラの体力はクソほど向上していた。同年代の男子なんぞ置き去りにするほどの身体能力を得ていたのだ。


 ただ、先に語った通り、まだ基礎体力が平均以上に向上している状態に過ぎない。


 次はどんな授業なのかとワクワクしていた彼女が本を開くと、今度は本格的な戦闘訓練が始まった。


『よし! 今日からは本格的な戦闘訓練を行う! 貴様はまだヒヨコであるが、俺の訓練を全て終えた頃には立派な殺人マシーンになっているだろう!』


 戦闘訓練を教えてくれるのは迷彩服を着たおじさんだった。ただ、今までと違うのは等身大の大きさで本から飛び出して来た事だ。


 青白い光の状態であるが、ガーベラの目の前に立って近接戦闘のイロハを教えていく。それは異世界において総合格闘技と言われる技術であった。


 といっても、所詮は光の集合体。教えてはくれるものの、実際に組み手は出来ない。


 そこで、ガーベラは本で学んだ事を頭に叩き込むと公爵家を守る衛兵を相手に組み手を決行。午前中は本から学び、午後は実戦……といった形である。実戦を繰り返していく中で、彼女の技術はみるみると磨かれていった。


 その後も素手での格闘技術だけではなく、ナイフでの戦闘技術を学んでいく。この二種をマスターするまでに三年の歳月を要した。


 十三歳の時、本が示したのはより実戦的な動き方だ。


 これまで学んだ知識と武術を駆使して、敵陣に殴り込む理想的な方法。潜伏の仕方、追跡を躱す為の知識……様々な応用技術を学んでいく。


 同時に用意した方が良いとされる道具も紹介された。


「これは何でしょう?」


 本が青白い光で投影するのは携行型の殺傷兵器。筒のような物が伸び、持ち手のある王国では見た事が無い道具であった。


 そう、銃だ。


 名称すらも知らぬガーベラはセバスチャンにそれを見せ、共にこれが何なのかを悩み始める。


「ふむ……。探してみましょうか」


 この世界のどこかに同じ道具があるのかもしれない。


 セバスチャンは公爵家の人脈と情報網を駆使して探してみます、と部屋を後にした。彼の入れ替わりで入って来たのは侍女のモナだ。


「お嬢様。本日もマナーのレッスンを致しましょう」


「ええ。お願いしますわね」


 十五歳になったガーベラは本から得られる知識だけではなく、屋敷の中で貴族流のマナー講座も学び始めていた。

 

 この貴族に関する事は王国貴族社会で生きて行くうえでは必須である。運命に抗う事は最重要事項であるが、抗った後に彼女の人生は続いていく。貴族令嬢となれば、後の将来はどこぞの貴族男子と結婚するのがベターであるが、それにしたってマナーは重要だ。


 特にあと二年経てばガーベラは王立学園に入学する。貴族社会における基礎知識等を学ぶ場でもあるが、どちらかといえば貴族同士横の繋がりを作る場といった方が正しい。貴族令嬢からしてみれば、将来の旦那様を探す場でもある。


 入学は必須であるし、公爵家令嬢としてマナーや言葉遣いは完璧にしておくべきだろう。


 ともあれ、今日はモナを相手にした令嬢同士のやり取りに関する練習である。モナが同学年の令嬢役を務め、互いにお話をするといった内容なのだが――


「ごきげんよう、ガーベラ様」


「ごきげんよう、Motherfu――モナさん」


 ガーベラは立ててしまった中指を背中に隠し、口から出た暴言(あいさつ)に慌ててストップを掛ける。


 ……本による弊害は出ているが、練習あるのみと言っておこう。



-----



 十七歳になったガーベラは王立学園に入学を果たす。

 

 これまで社交界などには一切出席して来なかった彼女にとって、貴族社会に生きる者達に対して初の顔出しを果たす場ともなろう。


 十年前に起きた事件は貴族の間でも有名であるし、事件のショックで社交界には顔を出さなかったと噂されるガーベラ。彼女と同じく本年度入学を果たした貴族の子供達だけではなく、既に入学をしている学生達からも「どんな人物なのか」と噂話は絶えない。


 引き籠っていたせいで人付き合いが苦手、事件のせいで人間不信になっている、社交界に出席していなかったのは王命……などなど、とにかく入学前から様々な噂が飛び交っていた。


 噂話を総合すれば、ガーベラ・ビルワースという人間は「根暗で付き合い難そう」といった感じのイメージを持たれているだろう。


 しかし、このような噂は一撃で葬り去られた。


「ごきげんよう」


 学園入学式の日に登場したガーベラはとても美しかったからだ。


 長く伸びた赤い髪、両親から受け継いだ整った顔立ち、日々の鍛錬によって作り上げられた肉体。一言で言えばパーフェクトである。ネガティブな噂話を丸めて便所にダンクシュートを決めたと言っても良い。


 顔面偏差値は他者を寄せ付けぬほどの高ランクであるし、屋敷の中で紅茶とお菓子による栄養で培養された凡令嬢とは比較できぬほどのスラッとしたモデル体型。


 周りの令嬢がコルセットを巻いて必死に腹を隠しているものの、彼女はそのような下品な道具は一切使っていない。シンプルで華美な装飾は一切無い白と赤を基調としたドレスを身に纏う。それが一層、公爵家に相応しい上品さを演出していた。


 加えて、懸念されていた「人間不信」な様子も一切無く。周囲から挨拶されれば、まるで女神のような慈しみ溢れる笑みで挨拶を返すのだ。


 学園の門を潜った瞬間からガーベラは周囲の人間を釘付けにした。それは勿論、良い意味で。


「なんて素敵な……」


「お上品な立ち振る舞いですわ!」


 年頃の男子共はガーベラの美貌に心奪われ、女子達もさすがは公爵家令嬢と声を上げる。


「ガーベラ様、ごきげんよう! 本日は入学に相応しい、良いお天気ですわね!」


 同学年の女性に話し掛けられたガーベラはニコリと笑い――


「ええ。ファッキン良い天気ですわね」


「え? ふぁ、ふぁっき……?」


「あ、いえ。良いお天気ですわね! 壁に弾けたミソのよう――お、お日様がこれからの学園生活を祝福しているようですわ!」


「え、ええ! そうですわね!」


 あぶない、あぶない、と同級生に見えぬよう首を振るガーベラ。


「先ほどのファッ、何とかという言葉はなんですか?」


「最近、他国の言語を勉強しておりますのよ。つい、癖で出てしまいましたわ」


「まぁ! ガーベラ様は勉強家でございますのね!」


 侍女のモナから言われていた「学園ではFワード禁止!」を早速失敗してしまったが、なんとか誤魔化せたようだ。


 とにかく、ガーベラの学園入学は周囲にとって好意的な雰囲気で始まった。


 学園では貴族に関する勉強、特に女子生徒は作法やマナーなどの専門教育が主である。これらの学習は既に家で完璧にマスターしている事もあって、ガーベラにとっては復習に近い。


 他にも一年時から選択科目で経済や魔法学など様々な要素を学べるのだが、ガーベラは経済学を選択した。


 ――周囲の状況としては魔法を使える生徒は魔法学を選び、男子であれば剣の授業などを選択する者が多い。ただ、貴族学園とあってどれも「中途半端」だ。


 その中でも経済学だけはまともに学べる。これは貴族が領地運営する際に必須となる学問だからだ。聡明なガーベラが時間を無駄にしないよう、学園から何を学ぶかと考えた場合、経済学を学ぶのが一番良いと判断したのだろう。


 彼女は男女問わず人気であるし、男子からは「お嫁さんにしたい女性」ナンバーワン。入学一週間で才女の称号を得たガーベラはお友達も作って、学園生活は順調そのものである。


 しかし、内心では焦りが募る。


 それは夢で見たタイムリミットだ。


 夢で登場する成長した姿のガーベラと今のガーベラは全く同じ。つまり、最終的に処刑台へと続く事件の始まりがいつ起きてもおかしくはない。


 この日もガーベラは学園が終わった後、屋敷に直行した。


「セバスチャン、どうかしら? 何か掴めまして?」


 いつも通り、夢で見た未来に関連するような情報は無いかと問う彼女。これまで公爵家の情報網を使って情報を集めてきたが空振りに終わっていた。


 しかし、今日は違った。セバスチャンの顔はどことなく沈んでおり、ガーベラの問いに対して戸惑うような彼らしからぬ素振りを見せる。


「実は……。十年前の事件に関係する情報を得られました」


「お父様とお母様の?」


「はい。こちらを」


 セバスチャンが手渡してきたのは二枚の報告書。


 内容としては公爵家殺害に関する情報であり、公爵家夫婦を殺害したのは大陸の東を中心に悪事を働く傭兵集団であると記載されていたものだった。


 そして、別の報告書によればその傭兵団が再び王都に入り込んだという情報が記載されている。


 更に二枚目の後半には傭兵団リーダーの人相書きが載っていて、それを見た瞬間にガーベラが「コイツですわ!」と声を上げた。


「コイツ! コイツですわ! 夢の中で処刑人に指示を出していた男ですわ!」


「やはり……。この男が旦那様と奥様殺害に関わっているのは確実ですね」


 遂に夢に登場した人物が現実世界にも現れた。


 この男を排除すれば未来は変わり、同時に両親殺害に関する事も得られるかもしれない。


「王都に入り込んだと情報があるのに、騎士団が逮捕に動かないのは何故ですの?」


「入り込んだとの情報は騎士団からの物ではありません。公爵家の持つ独自ルートで得ました。しかし、騎士団は例え情報を察知しても動きはしないでしょう。十年前の事件では証拠がありませんし、現に今もまだ事件は起こしていません」


 この傭兵団は悪事を働いていると有名であるが、今の世にある司法では『現行犯逮捕』が基本である。未だ事件捜査等における文化や方法が成熟していない世の弊害と言えるだろう。


 特にアグレシア王国は冤罪等に敏感であり、発生した事件に対する対処には慎重であった。


 加えて、今回の件は特に慎重にならざるを得ない理由がある。


「このような輩は、通常であれば王都に入れません。入場審査で弾かれます。しかし、現に王都内へ入り込んでいる。つまりは……」


「どこぞの権力者が招き入れた、ですわね?」


「はい」


 既に入り込んでいるという事実が全てを語っている。この傭兵団の裏には王国で力を持つ者――貴族が関わっている可能性が高い。


 騎士団が彼等を捕まえて、裏にいる貴族を吊るし上げるのは簡単だ。しかし、吊るし上げた後が大変である。王城の中では派閥争いが激化しており、迂闊に触れれば国が割れる可能性を孕んでいた。


 現王は善良で善政を敷く良き王と評判であるが、それ故に内戦で国民達の血が流れる事を良しとしないだろう。


 つまり、王城はまだ様子見を決め込んで手を出さないはずだ。ガーベラにとって腹立たしい事であるが、国を背負う叔父の気持ちも理解できる。


 それに、これは自分自身でやらねばならぬ事。そうおじさんに言われているのだから、やらぬわけにはいかない。


「しかしながら、ヒントは得られましたわ。十年前の事件に関与している傭兵団が再び王都入りしているのです。彼等の口から直接聞きましょう」


「遂に……ですか」


 ガーベラの言葉にセバスチャンは大きく息を吐いた。


 敬愛する公爵家のお嬢様が自身の運命抗う為とはいえ、本来ならば経験しなくてもよい事を行う。そして、それを代われないもどかしさを感じているのだろう。


「仕方ありませんわ。私、処刑されたくありませんもの」


「ええ、承知しております。ですので……」


 せめて、お手伝いをとセバスチャンは別室に彼女を連れて行く。向かった先は衣装室で、途中合流したモナに「例の物を」と彼は告げた。


 モナが衣装棚の奥から引っ張り出したのは真っ黒のドレスであった。


「こちらは特注品のドレスでございます。最新の布で軽量化を図り、防刃素材を用いて刃物に対する耐性を上げております」


「それと、こちらのコートも。こちらも同じくお嬢様を助けて下さるでしょう」  


 セバスチャンがドレスの簡単な性能を説明した後、モナはドレスの上に着る為に用意した黒コートを取り出す。コートはフード付きで、これを被って正体を晒さぬようにと付け加える。


「最後にこちらも」


 セバスチャンが箱から取り出したのは黒い仮面とナイフだった。顔を隠す仮面はジャックオーランタンの顔を模していて、いつだったか本を見ていたガーベラが「カッコイイわね」と言っていた物である。


 ナイフは王都の名工に作らせた最高品質の物。銀の刃に革のナイフホルスター。作り手曰く、刃に触れれば簡単に指が落ちてしまうから気を付けろ、との事。


 更に他にも二つほど用意した秘密兵器がある。


 これら、本でアドバイスされた通りの物だ。


「ありがとう、二人とも。これで……」


 黒い装束によって闇に隠れ、仮面で顔を隠す。そして、体得した戦闘技術で敵を討つ。


 

-----



 翌日、ガーベラは学園から帰ると準備を始めた。


 軽く庭を走って汗を流し、風呂でサッパリした後で精神統一。軽く食事をした後にセバスチャンからの情報を待つ。


「お嬢様。傭兵団の一味が王都西区の倉庫地帯をうろついていると情報がありました」


 王都西側には他領や近隣の穀物生産地から運び込まれた食料が保存される倉庫があり、その一画に傭兵団に所属する男達の姿が目撃されたという。


「そう」


 ガーベラは窓の外を見た。既に空は暗くなっており、行動するにはもってこいの時間帯だ。


「行きますわ」


 黒ドレスに茶のロングブーツ。長い赤髪をモナに結んでもらい、黒いコートのフードで隠す。腰にはナイフホルスターともう一つのホルスターを装着させ、コートの袖を捲ると鋼色のガントレットを右腕にだけ装着した。


 装着したガントレットの稼働範囲を再確認するべく、彼女は右手を握ったり開いたりを繰り返して……。


「お嬢様。どうかお気をつけ下さい。絶対に無理だけはなさらぬよう……」


「ええ。分かっていますわ」


 最後にセバスチャンが両手で差し出したジャック・オー・ランタンの顔を模した仮面を装着。


「行ってきますわね」


 彼女を敬愛する二人の使用人が頭を下げる中、ガーベラは屋敷を出て行った。


 闇に紛れて王都を駆け、王都西区まで巡回する騎士に見つからぬよう向かう。西区に入ると、外に置いてあった木箱を足場にして住宅の屋根に飛び乗った。


 屋根伝いに倉庫地帯まで駆けて行き、周辺一帯を囲む壁に飛び移る。そのままの勢いで一番手前にあった倉庫の屋根に大ジャンプ。屋根の上まで飛ぶ事は出来なかったが、右手で縁を掴むと鍛え上げた腕力で体を持ち上げた。


「ふう」


 王都の反対側にある屋敷から一気に駆け抜けたガーベラだが、彼女は特別疲れた様子を見せていない。


 これも普段から鍛えていたおかげだろう。身体能力としては十分な域まで仕上がっていると言うべきだ。


「さて、奴等はどこに……」


 仮面越しに地上を探ると倉庫の正面ドアを警備する傭兵らしき男達の姿が見えた。男達は皮の胸当てを身に着けており、腰にはロングソードを差している。


 警備している二人は揃ってボサボサの髪をしており、胸当てと剣を持っていなかったら浮浪者のような見た目だ。しかし、この時代における傭兵の外見なんてどれも不衛生である事が多い。


 ろくに風呂や水浴びをしていないせいもあって、傭兵は汚らしい存在というイメージを持たれがちであった。


「あれですわね」


 ただ、今回のターゲットである傭兵団。彼等は胸当てに揃いの革パッチを縫い付けているのが特徴だ。これは戦場で同じ傭兵団である事を判別させる手段なのであるが、ガーベラにとっても大いに役立つシンボルだろう。


 さて、これから彼女は傭兵団を襲って情報を得るわけであるが……。


 ここで活きるのは本から登場したおじさんより教わった『多人数を相手にする時の戦闘方法』である。


 一、まずは周辺の情報を得る事。


 闇雲に突っ込んで囲まれては不利になってしまう。敵の位置情報、進入に使えそうな場所、逃げる際の脱出経路の確認は怠らずに。


 ガーベラは周囲の屋根を伝いながら倉庫周辺を観察してそれらの情報を得た。


 二、多人数の敵を始末する際は奇襲による個別撃破が基本。


 特にガーベラは訓練と鍛錬を積んだとしても女性であり、しかも単独行動で戦わなければならない。よって、奇襲で一人一人を確実に仕留めて数を減らす必要がある。


 ガーベラは倉庫の裏側で葉巻を吸う傭兵を最初のターゲットに定めた。彼等が警備する倉庫の屋根に飛び、倉庫裏で葉巻を吸う男の背後に飛び降りると――


「誰――ウ、グ!?」


 飛び降りた音で気付いた傭兵が振り返るが、ガーベラは男の口に手を当てて右手のナイフで心臓を刺した。


 この瞬間、彼女は人生初めての殺人を犯す。それ故に男の心臓を必要以上に滅多刺しにするが、それも致し方ない事だろう。


「フゥ、フゥ……」


 血塗れになって地面に倒れる死体。それに自分も返り血を浴びて黒のドレスがジトリと濡れる。


 殺した相手の血で布が肌に張り付く感覚と、手に残る肉を突き刺した感覚。そして、殺人を犯したという事実が彼女の心を蝕む――事は無かった。多少の動揺はあったものの、それほど忌避感は感じない。


 両親の復讐と未来を変えるという使命と脳からドバドバ出るアドレナリンのせいかもしれないが、とにかく想像していたほど嫌な行為じゃなかったと言うべきだろうか。


「次……」


 一人目を殺害したガーベラは次のターゲットに向かう。今度は倉庫の側面で用を足す男であった。


 ズボンを下ろして尻丸出しにした男に音を立てぬよう静かに近づき、男の首元にナイフを突き立てた。喉を引き裂くようにナイフを引き抜き、男が地面に倒れると近くにあった小さなドアから倉庫の中へと入って行く。


 中には三人の男がいて、何かを待っているのか木箱の上に座りながら談笑していた。


 倉庫の中にはリーダーがいない。つまり、どこか別の場所にいるのだろう。情報を聞き出す為に残すのは一人で十分だ。


 木箱の裏に隠れたガーベラは拾っておいた小石を投げて音を立てる。男達の気を引いた瞬間、男達に向かって飛び込むように駆けた。


「あ!? おい! テメェは!」


 黒い影となったガーベラに気付き、声を上げる傭兵。だが、これまで鍛錬を積んだガーベラの足は彼女を裏切らない。


 突風のように突っ込んだガーベラが手前にいた男の首にナイフを突き立てる。一瞬で一人を殺し、二対一の状況に持ち込んだ。


 傭兵は剣を抜こうとするが、喉元からナイフを引き抜きながら更に肉薄。左手でもう一人の男の鼻っ柱を殴りつける。鈍い唸り声を上げた男が怯んだ隙に顎下へナイフを突き刺した。


 ぐりんと手首を回転させ、抉り取るように首を破壊して二人目を殺害。


「この野郎がッ!」


 最後に残った男が上段に構えていた剣を振り下ろすが、ガーベラは膝を少し折って殺害した二人目の男を盾にした。振り下ろされた剣は男の頭部に突き刺さって刃が止まる。その瞬間、死体の腹を蹴飛ばして三人目の男に衝突させた。


 たたらを踏んだ三人目。その瞬間、倉庫の正面ドアが開く。どうやら中で起きていた騒動を聞きつけたようだ。


「おい、何してんだ!」


 正面ドアを警備していた男二人が倉庫の中へと走り込んで来るが――ここで三つ目の基礎的方法が登場する。


「|Fuck you,Ass hole《くたばれケツ穴野郎》!」


 ガーベラは左手で腰のホルスターからとある物体を抜いた。それは水平二連式のソードオフショットガンだった。


 そう、三つ目は必殺の一撃を用意しておく事。一撃が重く、状況を打開できる手であれば良し。例えぶっ放した後にリロードを挟む必要があったとしてもだ。


 ズドン、と銃口が火を噴いて倉庫内に突っ込んで来た男達をバラバラにしてしまう。何とも素晴らしい威力だ。


 セバスチャンに探してもらって良かった、と内心で笑う。これを入手できたのは奇跡だろう。他国のドワーフ工が独自に鳥撃ち用として開発した物らしいが、この際開発経緯などどうでも良い。


「さてと」


 ガーベラは背後を振り返り、残った最後の一人に顔を向けた。


 仲間が全員死亡してしまった事で唖然としている傭兵だったが、我に返ると剣を構えながらガーベラを睨みつけた。


「テメェ、一体何者だ!」


「うるせえ! Fuck you!」


 王道である対峙からの名乗り上げなどするものか。ガーベラは飛ぶように間合いを詰めると、男の股間を蹴り上げた。


「ア"ー!」


 悲鳴を上げた男の利き手手首にナイフを突き刺すと、男は剣を落として再び「ア"ー!」と悲鳴を上げる。ドクドクと零れる血を必死で抑える男に対し、ガーベラは容赦無く顔を蹴飛ばした。


「貴方達のリーダーはどこにいますの?」


「ア"ー! ア"ー!」


 彼女の問いに対し、悲鳴を上げるだけで答えない傭兵。その姿にカチンときたのか、ガーベラは男の左目を斬りつけた。


「ア"ー! い、いねええよぉぉ! カシラはまだ王都にきてねえええ!! ア"ァ"ァ"ー!」


「ふうん。そうですの。では、貴方達を一人ずつぶっ殺していけば誘い出せるかしら?」


 悲鳴を上げる男が見たのは悪魔だったのだろうか。男の顔が引き攣り、恐怖で歪む。


 次の瞬間、男の首にナイフが刺し込まれた。ガーベラが強引に横方向へ腕を振ると、男の首から大量の血が噴き出て地面に沈む。


 ガーベラはナイフに付着した血を払い、倉庫の入り口に歩き始めた。


「ああ、そうでした。忘れるところでしたわ」


 そう言ってガーベラは振り返ると、約束通り物言わぬ死体に向かって中指を立てた。



-----



 最初の襲撃以降、ガーベラの生活には夜の活動が追加された。


「ごきげんよう、ガーベラ様」


「ごきげんよう。今日も良い天気ですわね」


 昼は学園で貴族令嬢として過ごし、学園が終わった夕方からは夜に向けて準備を行う。そして、王都が闇に包まれると王都に入り込んだ傭兵団の一味を狩り続けた。


 既に四度以上の襲撃を終えたガーベラであったが、彼女は人間らしい適応力を見せていた。


 最初の襲撃は必要以上の攻撃、心の底に潜む残忍性をチラつかせていたが、場数を踏むにつれて彼女は殺しに対する『美学』というモノを見出し始める。


 一つ。無闇に対象を傷付けない。


 闇に紛れ、音を消し、一撃で急所を突けば人は死ぬと改めて学んだ。脆弱な人間は急所に致死的な攻撃を加えて生き残る者などいない。


 首を斬られて尚も立ち上がるようなゾンビ的な人間はいないのだ。加えて、一撃で急所を突けば必要以上に武器が摩耗する事も無し。


 二つ。相手の返り血を必要以上に浴びるのは恥である。


 これは最初の襲撃以降、返り血を浴びたガーベラのドレスを洗濯するモナを見たせいでもある。彼女がせっせと血を洗い流している姿を見て、申し訳なくなったのが一番の理由だ。


 三つ。乙女であれ。


 これは三度目の襲撃を終えた後に気付いた事だ。襲撃現場には大きな姿見があって、ふとガーベラは鏡に映った己の姿を見てしまった。


 そこに映っていたのは血だらけのナイフを握る獣だ。顔は憎悪に満ち、怒り狂った狼のような顔をしていた自分を見て、ガーベラは己に恐怖を覚えた。


 まずい。このような顔を学園生活で晒してしまったら婚期が遅れてしまう。男子達による「結婚したい貴族令嬢ナンバーワン」の地位が揺らいでしまうかもしれない。


 では、どうすれば良いか。常に麗しき乙女であれと心に秘めれば良いのだ。華麗で優雅、そして乙女のように殺害すべし。さすれば結婚したい貴族令嬢ナンバーワンの地位は盤石となるだろう。


 以上が、彼女が抱き始めた美学だ。


「死ねえええええ!!」


 最後の一人となった傭兵の男が目を血走らせながら剣を振り上げる。だが、ガーベラはヒラリと蝶が舞うように剣を躱し、男の首元をダンスのターンをするような動作で切り裂く。


「ふぁっきゅ♡」


 媚び媚びであざとさを感じさせるような甘い声で「くたばれ」と最後の言葉を添える。だが、どうにもしっくりこないのかガーベラは首を傾げた。


「うーん。これは違う気がしますわね」


 媚びるような態度は乙女とは言い難い。やはり、強い意志を持ちながらも己の目標に向かって行く様こそが「真の乙女」だろうか。


 探求はまだまだ続きそうだ。


 それはさておき、今回で五度目の襲撃を終えた。そろそろ傭兵団のリーダーが自ら王都にやって来ても良いと思われるが……。


「そうだ。メッセージ性が足りなかったのかもしれませんわね!」


 仲間が殺されているにも関わらず、相手がプンスカ怒り出してガーベラを迎え撃たないのはこちらの存在に気付いていないからかもしれない……と的外れな事を抱くガーベラ。


 故に今回は現場にメッセージ性を残す事にした。


 首元をばっさり切り裂いた死体を椅子に座らせ、死体の膝の上に大きなメモを残した。白い紙に血で描かれた「腰抜けめ。次はお前の番だ」の文字。これを仲間が見てリーダーに伝えれば、アホは憤慨確実である。


 そして、早速翌日になると傭兵団に動きが見えた。セバスチャンによれば、リーダーが王都入りしたようだ。


 まだ情報を仕入れると言われ、ガーベラは逸る気持ちを抑えながら学園に。


「おはようございますわ、ガーベラ様!」


「Good Morning,Motherfucker!」


 逸り過ぎて完全に出た。ガーベラの口から誤魔化しようのない言葉が出てしまった。


「え、え?」


「申し訳ありません、昨晩に言語の勉強をしていたもので」


 だが、大丈夫だ。なんたってこの世界の言葉じゃない。理解できる同級生(ビッチ)など存在しようもないのだ。



-----



 学園で授業を終えた彼女が屋敷に帰ると、セバスチャンは真剣な顔で告げる。


「どうやら傭兵団のリーダーはお嬢様を探しているようです」


 正確には部下を殺し回っている殺し屋を探している、だが。


 リーダーは王都に蔓延る裏側界隈の者達を使って部下殺しの殺し屋が何者なのか探っているようだ。しかし、相対した傭兵団の者は皆殺しにしているし、ガーベラを目撃した者は一人もいない。それが余計に相手をイラつかせているようだ。


「彼は悪党ご用達の酒場で荒れているようですね」


「そう。では、好都合ですわね」


 本で学んだ事の一つに、敵対する者を狩るにはイラつかせる事が効果的であるとあった。相手に怒りを抱かせ、冷静は判断をさせない。それは大きな隙となって、狩る側にとっては好機である。


「アジトとして使っているのは王都西区にあるスラムのようです」


 王都西区の一画は浮浪者が暮らすスラムがあるのだが、傭兵団のリーダーはスラムにある廃屋を拠点としているようだ。犯罪者が身を隠すには持って来いの場所であるし、ガーベラも特別驚きはしない。


「答えを聞きに行ってきますわ」


 黒ドレスとコートを身に纏い、仮面で顔を隠したガーベラはセバスチャンとモナに告げる。彼等に見送られながら夜の王都に飛び出した。


 いつものように建物の影に潜み、屋根を伝いながらスラムへと向かう。


 スラムは区画整理されていない廃屋や廃棄物が散らばっていて、一種の迷路のような状態である。こういった場所を行くにはやはり屋根伝いが正解だろう。


 本日は満月。


 月明かりに照らされながらも廃屋の屋根を飛ぶように走り、時には壊れかけの煙突の上に飛び乗って、セバスチャンが教えてくれた目標地点を目指す。


「あそこですわね」


 目標地点が視界に入ると同時に男の怒声が聞こえてきた。


『どうして見つからねえんだッ! もっと気合入れて探せえッ!』


 怒声と共に廃屋から出て来たのは見覚えのある顔。夢で見た黒髪に無精髭を生やした男。あの男こそがガーベラの未来を奪う元凶。


「やっと見つけましたわ」


 そう呟いたガーベラは仮面の中でニィと口元を吊り上げて、廃屋の中へと引っ込んで行く男を目で追う。


 さて、どうしてやろうか。いつものように廃屋周辺の状況を探ると、外には四人の傭兵が警備を行っていた。他の者達はガーベラを探すべく、街に繰り出しているのだろう。


「馬鹿ね」


 もうすぐそこにいるぞ。そう叫びたくなる気持ちをぐっと抑えながら、今まで学んだ事を忠実にこなす。


 敵の位置、突入地点の把握、逃走時の算段……だが、この時にガーベラの心に加虐心が芽生えた。


 ガーベラはあの男に両親を奪われた。人生を壊された。だったら、少しでも脅かしてやろう。恐怖に苛まれながら死んでもらおう。それが正当な仕打ちというものだ。


「フフフ……」


 煙突の上に立つガーベラの顔を隠すジャック・オー・ランタンの笑み。それが今の彼女の心を表すかのようだ。


 ガーベラは屋根を伝って廃屋の近くまで接近すると、一人で突っ立っていた傭兵の背後を取った。そこからは一瞬だ。口を塞いで一気に喉をナイフで深く切り裂く。呻く男の体をゆっくりと地面に横たわらせ、そのまま廃屋の影に潜む。


 壁沿いに進んで今度は二人で警備を行う傭兵に狙いを定めた。影に潜みながら可能な限り近づき、小石を拾うと大きく弧を描くように投げる。ガーベラとは反対側に落ちた石に気を引かれ、男達が揃って首を向ける。


 その瞬間、影から飛び出したガーベラは手前にいた男の首を切り裂く。そのまま二人の間を走り抜け、もう一人の男の首をすれ違い様に切り裂いた。


「ウ"……ゲ……」


「ガ、ガ……」


 苦しむ二人のうめき声を背中で受け止めながら、廃屋の近くにあった壁を蹴るように登って屋根に向かう。最後は廃屋正面にいる傭兵だ。屋根の上から男に近付き、飛び降りる勢いと共にナイフを脳天に突き刺して殺害した。


 ここまで五分と掛かっていない。まさに凄腕の殺し屋と言われてもおかしくないほどの腕前だ。


 再び地上に降り立ったガーベラは廃屋の壁を伝うようにぐるりと移動。側面にあった割れた窓から中を覗き込むと、中にはリーダーともう部下が二人ほどいた。


 部下達は何か手紙を書いているのか、ボロボロの机に向かっており、リーダーは酒瓶をラッパ飲みしている。


 廃屋にはロウソクが二本立ててあって、それで光源を確保していた。それを見たガーベラは仮面の中で笑う。


 暗闇は人の心を恐怖に陥れる。闇は人を飲み込む。そして、何より……闇はガーベラのテリトリーだ。


 彼女は腰にあったナイフホルスターからメスのような投げナイフを二本取り出した。それを同時にロウソクに向かって投げると、見事にロウソクの火を掻き消す。


「なんだッ!?」


 突然灯りが消えた事で声を上げるリーダー。手紙を書いていた部下二名も腰に差す剣の柄に手を掛けて、周囲を警戒するように顔をキョロキョロと動かす。


 リーダーはロウソクに駆け寄り、壁に突き刺さっていた投げナイフを見つける。飛んで来た方向を見定めて、廃屋の窓に近付くが既にそこには誰もいない。


 ガーベラは既に移動しており、再び屋根の上にいた。彼女は屋根の一部を剥がして隙間を作ると、中の様子を覗き見る。そして、部下二名がいる位置に向かって水平二連式ソードオフショットガンの銃口を向けるとトリガーを引いた。


 一撃目はドガン、と屋根を破壊。もう二発目で部下二名を襲う。一人は頭が吹き飛んで死亡、もう一人は肩に弾が当たって片手が飛び散った。


「ぎゃああああッ!」


「上かァァァッ!!」


 部下の悲鳴を聞きながら、リーダーは剣を抜いて屋根に顔を向ける。敵が外にいると知ってか、彼は正面ドアから外に出る――が。


「ごきげんよう。Son of a bitch」


 ドアを開けた先にいたのは、月の光を浴びながらナイフの刃を光らせる黒ドレスの女。ジャック・オー・ランタンの顔をした殺しの才女。


 ガーベラは飛び出してきたリーダーの右手にナイフを振るった。コンパクトかつ、鋭い一撃は彼の右手首から肘までをスッパリと切り裂く。


 切り裂いた後、手の中でナイフを回転させて逆手に持ち替えると肘の付け根にナイフを深く突き刺した。


「な、ぎ、があああ!?」


 腕に力が入らなくなったのか、握っていた剣を落として右腕を抑えながら絶叫。たたらを踏んで廃屋の中に逆戻りして、慌ててドアを閉めようとするが……。


「まぁ。乙女の来訪を断るとは……無粋ですこと」


 ドアに足を挟み込んで阻止すると、今度は思いっきりドアを蹴飛ばしてぶち破る。ドアの破片を受けて尻餅を付いたリーダーは仮面で顔を隠した彼女の顔を見上げた。


「お、お前が……!」


「手短に済ませましょう? 貴方、ビルワース家の当主を殺害しまして?」


「い、言ったら命は取らねえか?」


 ガーベラの問いにリーダーは顔中に脂汗を浮かび上がらせ、荒い息を吐き出しながらの命乞い。それを聞いたガーベラは思わず鼻で笑ってしまったが、正直に話せばと頷いた。


「じ、実行はした。だ、だが、俺達は雇われてやっただけだ……!」


「誰にですの?」


「俺達を雇ったのは――」


 傭兵団のリーダーが雇い主の名を告げると、仮面の中にあったガーベラの目はスッと鋭くなる。


「そう」


 ガーベラは腰のホルスターからショットガンを抜くと、中折れ式機構を稼働させてショットシェルを再装填する。


「い、言っただろ! だから、だから見逃してくれ!」


「ええ、そうですわね」


 リーダーの言葉に頷くと、彼女はショットガンの銃口を彼に向けた。


「見逃すと言いましたわね。あれは嘘ですわ」


 左手の中指をおっ立てながら、右手に持ったショットガンのトリガーを引いた。至近距離から発射された弾が男の体をぶち破り、見るも無残な肉の塊へ早変わり。


「Fuck you」


 乙女らしい言葉を最後に残し、彼女は再び夜の王都に消えて行った。



-----



 ここからはエピローグである。


 傭兵団リーダーが口にした雇い主の名はクリストファー・アンデルス侯爵。王国穏健派に所属する貴族であり、ガーベラの父と同じ派閥に属する王国経済局局長を拝命された男であった。


 しかし、彼は影で王国の金を横領していた。ガーベラの父はそれに気付いたようで、クリストファーへ王に正直に話すよう促していた。すぐに王へ知らせて糾弾しなかったのは彼なりの慈悲だったのだろう。


 自ら辞任して責任を取れば家族にまで被害はいかない。アンデルス家の事を想っての提案だったが、その優しさが逆に仇となった。

 

「そう。貴方は本当に救いようのないクズですわね」


「た、頼む! 命だけはッ!」


 アンデルス家が所有する屋敷のリビングで、椅子に括りつけられたクリストファーは仮面で顔を隠すガーベラに対して必死に命乞いをした。


 しかし、彼女は「チッチッ」と指を振って、拘束した彼に向かって小さな箱を投げる。


「貴方、目に目をって言葉を知っておりまして?」


 箱の隙間からは長い捻じり糸が伸びており、ガーベラはその糸に火を点けた。


「あの世で詫びなさい」


「待て! 待ってくれえええ!!」


 ガーベラは背を向けて立ち去って行く。夜風が吹き込む窓から外に出ると、アンデルス家の庭をゆっくりと歩き始めた。あと少しで門に到達する、といったところで、彼女の背後からは爆発音が鳴り響く。


 彼が犯した罪を再現するように、ガーベラはクリストファーを爆殺したのだ。


 ビルワース家に帰った彼女は使用人達に迎えられ、これで運命は変わったのだと大きく息を吐いた。


 王都では謎の殺し屋が暗躍しているなどと噂が広がっているものの、それも今日で最後だ。今日以降、その殺し屋は世に登場しない。なんたって本人は、ただの貴族令嬢に戻るのだから。


 久々に心休まる時間を堪能し、清々しい気持ちでベッドに潜り込むと――彼女は再び白い空間に招かれた。


 きっとおじさんが呼んだのだろう。君の運命は変わった。これからは穏やかな時を過ごしなさいと言われるはず。そう思っていたのだが……。


『YOU、死ぬよ』


「え?」


『YOU、死ぬ』


 ポカンと口を開けたまま固まるガーベラ。傭兵団の男は殺害したし、両親殺しを企てた貴族も殺した。だというのに、まだ彼女は死の運命から逃れられていなかった。


「ど、どうして……」


 前回と同じくアロハを着たおじさんはパチンと指を鳴らす。幼少期に見た時と同じく、白い空間にスクリーンが登場した。


 そこに映し出されたのは、やはり処刑台に立つガーベラの姿。


 しかし、彼女の姿は前と違って更に成長していた。前は十八くらいの年齢であったが、今回はもっと成長して二十代前半くらいだろうか。


 だが、違うのは年齢だけだ。またもや怒り狂う国民に石を投げられながら、彼女は首を刎ねられてしまう。


『YOU、死ぬ』


 要は処刑が先送りされただけ。十八の段階で処刑される運命が、少しだけ先に伸びただけであった。


 両親の死と処刑は別問題だったのだろうか。それともまた別の問題が起きて処刑に至ってしまうのか。


 一体何が原因でこうなってしまうのか皆目見当がつかない。


「う、嘘よおおおお!」


 ガーベラは頭を抱えながら悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちるしかなかった。


読んで下さりありがとうございます。


執筆する時間の余裕が出来たら文字数的に端折った部分等も付け足しつつ、まるっと改良して連載しようかと考えています。

クオリティアップの為にご意見・ご感想頂ければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうせあの作者だろうとやっぱりこの作者だった
[良い点] いい意味で訳分からんくて好き 無駄に洗練された無駄のない無駄な話(褒めてます) [一言] ふぁっきゅ♡が可愛い メスガキかな?
[一言] いかれたFuckin girlのActionはとってもVery nice!! 是非ともrest of your storyをRequest したい所存
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