表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

変態と呼ぶな!

それで呼ぶな!!

作者: 伊勢



地面に腰が抜けたように座り込み涙目でこちらを凝視する可愛らしい女の子の姿がある。

彼女の視線の先には彼女と同じ制服を着た小柄な少女の姿。


ワナワナと身体を震わせ今にもその瞳から涙がこぼれおちそうな女の子の前で、少女は何かに失望したかのように、または心底呆れたかのように深い深い溜息と共に目元に手を当てて空を見上げていた。


はは…入学早々、学校生活いや人生終了のお知らせとか悲しすぎる…


「あ、あなた…」


「…」


あぁ、分かってますよ。分かってますけどね?!

何を口にするつもりですかね?!本当、心底止めてもらっていいですかね?!!


「ま、まさか…」


「ぁー…そのーですね」


何とか誤魔化しの言葉を吐き出そうとするも時すでに遅し。


「へ」


プルプルと小さな手が挙げられ、人差し指が指し示された少女…この度目出度くこの国の魔法学校に通うことになった

リーリエ・モストン、15歳。


「へん、」


絶賛、絶望の淵に立たされ今にも突き落とされそうになっている可哀想な子である。


何がそこまで彼女を責め立てているのか…

それは誰にも言えない彼女の秘密にあった。


…まぁ、今目の前の女の子にはバレてしまったのだが。


やめろ!その言葉を口にするんじゃないっ!

お願い致します!!それを口に出さないでぇー!!


なんて、願いも虚しく…

1番言われたくない言葉を声高らかに叫ばれしまうのだった。


おっふ…あぁ…終わった…。


「へ、変態っ!!」


リーリエ・モストン。15歳。

花も恥じらう可憐なこの時期に、ある体質のせいで変態のレッテルを貼られる哀れな少女である。



◇◆


この世界には様々な魔法がある。

その中でも異色な存在として広く浸透されているものがある


…変身魔法。


それは文字通り己を対象人物や動物へとその身を変化させる魔法の事である。

だがそれはとても難易度の高い魔法であった。まず、呪文が複雑な上にとてつもなく長い。呆れるくらいに長い。

そして、対象人物の外見だけでなく身長、体重、骨格、髪質、匂いに至るまでその人物のことを知り尽くた上で対象人物に成りきらなければ変身できない。とてつもなく難しく条件が厳しい。そして、何より…


そこまでするのはぶっちゃけ変態臭い。

つまり…変身魔法=変態の技という認識されている。


この魔法が使えるのはストーカー気質の粘着質系ド変態野郎かよっぽどの天才しか使えないと言われている。

まぁ、使えた時点で天才よりも変態のレッテルがはられる。だからだろう、この魔法が使える者はほぼいないと言っていい。と言うのも、この魔法を作った人物が超ド級のド変態だったこともあり魔法の凄さよりも其方の方が印象に残ってしまった為にそう言われている。



リーリエ・モストン。

彼女は気付いた時には変身魔法が使えていた。

それも一目対象生物を見れば長ったらしい呪文もなく一瞬で姿を完璧に変えることが出来た。


天性のへんゴホンゲフン天才であった。


彼女が初めて両親の前で変身魔法を使ったのは3歳の時。

この時の両親はこんなにも幼く愛らしい娘が生涯に渡って変態のレッテルを貼られることに心底絶望したという。


それからというもの絶対絶対ぜーったいに!人前では変身するな!!と言い聞かせてきたが…

いつの間にか猫の姿になって近所を散歩し猫の会議に参加していたり、鳥になってピーチクパーチク鳥の合唱に参加していたり、狼になって群れのリーダーについて野山を駆け回り獲物を咥えて帰ってきたり…ヤンチャな幼少期を過した。


不思議なことに、リーリエは動物たちに好かれた。

よそ者として追い出されることなくそれどころかデレデレと溺愛された為にどこに行っても初対面の動物たちと仲良く遊び回っていられた。お陰で病気をすることも無くすくすくと元気に育った。


因みに、今では母は動物たちがリーリエに危害を区分けないとわかった瞬間ケロッと開き直り人前で変身する瞬間を見られなければまぁいいだろうと結論づけ、父は可愛い娘がいつか婿として動物を連れてくるのではないかとハラハラとしているらしい。


世間では変身魔法=変態という一般常識に縛られることなく、可愛い娘として大事に育てられたリーリエはその身に余る魔力を持っていたことによりこの国の魔法学校への入学が決定し、先程門をくぐったところなのだが…


入学早々、広い敷地内で迷子になってしまったのだ。

新入生の為にとご丁寧に講堂迄の案内板があったのにも関わらず、である。


実はリーリエ、重度の方向音痴であった。


普段は友達の動物たちがリーリエの傍に常にいて迷子にならないように見張ってくれているのだが、流石に学園内でベッタリくっついていることは出来ず、それならばと遠くから見守ることにしたらしいのだが…

少し目を離した隙にリーリエが迷子になってしまったのだ。


すぐさま探索隊(雀・鳩部隊)が出動し構内を組まなく探し回ったおかげで直ぐに見つかりはしたものの、構内を1人で歩かせるのはダメだと判断した彼らはリーリエに鳥に変身してもらい人目のないところ…本来リーリエが行くはずである講堂近くへと案内した。


「チチチッ!」


「ごめん、ごめん助かったよー」


「クルッポ!!」


「はーい、じゃあまた後で…」


鳥達と会話をしつつリーリエが講堂へ向かおうとした時…

背後でガサッと大きな音がした。

咄嗟に振り返れば、リーリエと同じ制服を着たとても可愛らしい女の子がその場に座り込んでいた。


「…」


「「「…」」」


驚愕に目を見開く彼女は餌を求める鯉のように口をパクパクと動かしながら、ブルブルと震えていた。


…やば、見られた?


チラと隣の鳥達に視線をやればしっかりと頷き返されてしまった。思わず深い溜息と共に目元を覆い天を仰いでしまったリーリアを尻目に鳥達は臨戦態勢をとる。


「…チチ」


「やめなさいっ」


「チッ」


「今、普通に舌打ちした?」


「クルッポ」


「だからやめなさいっ」


どうしようかと小声でヒソヒソと話し合っている間にも目の前の女の子の瞳は涙の膜がはり今にも決壊しそうだ。

どうしたものかと狼狽しているうちに、目の前の彼女はプルプルと手を挙げリーリエを指さしてきた。


…どうしよう、嫌な予感がする。


「あ!あぁあなた!!」


「はいっ!」


「あ、あなた…ま、まさか…」


ぎゃぁあ!!やめてやめて!!何言うの?!いや、分かるけど!その言葉を口にするんじゃないっ!!


「へ、へへ変態っ!!」


「ぐふっ」


「チチチィーー!!」


「クルッポォーー!!」


内心焦りまくるリーリアの願い虚しく吐き出されたその容赦のない言葉の刃はリーリエの胸にグッサリと突き刺さったのだった。



◇◆


「…ぁ、あの」


「…」


「へ、変態さん…あの、大丈夫かし、ら?」


「ぐっ」


地に倒れ伏したリーリエに追い打ちをかけてきた彼女は次の瞬間、リーリエの傍らで様子を伺っていた雀と鳩に総攻撃を受けることになった。

心的ダメージが大きすぎてリーリエはその事に気付かない。


否、敢えて無視した。


「チチチィ!!!」


「グルッポォ!!」


「きゃぁぁぁ!!何?!ちょ、やめ」


「チィーー!!!」


「グルゥホォォ!!」


「いやぁぁぁぁあ!!!!ちょ、止めなさいよ!ねぇ!!」



ーー5分後。


「うっ、ぐす、ごめ…ごめんなさいっ…もう許してぇ」


「…ふぅーーーーー」


「へ、変態なんて言ってごめ、ずみまぜんでじたわぁ!」


「ん?何か言った?へなんちゃらって言葉、私知らないんだけど??」


「ごめ、ごめんなさいぃっ!」


「ヂヂィ!!」


「グルァアッポォ!」


「ひぅ!」


「…あー、君達そろそろ止めてあげてね」


「「チッ!」」


「ねぇ、だからそれ舌打ちだよね」


「チ?」


「クル?」


「そんな可愛らしく首傾げられても誤魔化され可愛いなぁ。そうだそれより、大丈夫?鳥に襲われるなんて災難だったね」


すっかり髪も服もボロボロにされ泣きじゃくっている彼女にそっとハンカチを差し出せば、恐る恐ると言った体だったが何とか受け取って貰えた。


いつまでもボロボロの顔でいても、可哀想だしね。


「うっうっ、せ、せっかく晴れの舞台が台無しですわぁ!」


「意外と元気そうでなによりだよ!君、名前は?新入生?」


「そ、そうですわ。わたくしサリーナ・ルネサンスと申しますの…あっ!入学式…もう、始まってますわよね…」


しゅんと項垂れてしまった彼女…サリーナはまたポロポロと涙を流し始めた。


「まぁまぁ仕方ないよ。ところでなんでこんなところにいるの?迷子?」


「ま、迷子だなんて!!…気付いたらここにいただけですわ」


「迷子じゃん、お揃いだねぇ」


「ち、違いますっ!ルネサンス侯爵家の次女とあろうという者が学園内で迷子だなんて!!そんな!あ、ありえませんわ…」


「最後自信なくしてんじゃんっ!…ねぇ、サリーナ様?」


今度は羞恥からか顔を真っ赤にしてぷりぷりと怒っている彼女は喜怒哀楽が豊かで見ていてとても楽しい。


そんな彼女の頬をそっと両手で包み込み顔を覗き込めば、美しいアクアマリンの瞳に少しの恐れと驚きと羞恥の色が浮かびあがる。


「な、なんですの…?」


「…さっき、ここで何か見た?」


逃げないように、逃がさないようにニッコリと笑みを作る。


「え」


「何も、見てないよね。君はただ迷子だっただけだ。ね?」


優しく語りあげてあげれば彼女はガクガクと首を縦に振り、うっすらの涙を浮かべていた。なんとなく、泣き顔が可愛らしいと思ってしまうのは何故だろう?


ニコニコ微笑む私を見上げながらサリーナはとても必死だ。


「も、ももももちろん!な、何も見てませんわ!!」


「そう、良かった!…もし何か見てたら今度は鳥の大群が来るかもね」


「ひっ!」


パッと手を離して立ち上がり土埃を落とし、今度はサリーナが立ち上がるを手伝う為に手を差し出した。

ついでにササッとサリーナの身だしなみも整えてあげる。

流石にその格好のままってのは可哀想だし…入学早々私が貴族のお嬢さんを虐めたとかそんな噂が立つのも嫌だしね!


「さてとー、そろそろ講堂に向かおうか!ほら立ってたって!」


「わ、わたくしはいいですわ…こんな格好誰にも見せられませんもの…」


「え?そんなことないよ、ほら」


彼女の前にいつも鳩が持ち歩いている手鏡を見せてあげる。


…何故鳩が持ち歩いてるかって?私はそんなもの持ち歩かないからさ。因みにさっきサリーナに渡したハンカチは雀のだ。


「そんな事あるんですのよ!こんな、ボロボロのかっ、こう…うそ、なんでですの?!!」


「ボロボロの格好?何それ。ピカピカの新品の制服だよ?」


「…しゅ、修復魔法?いえ、浄化魔法もかしら。凄い…」


「んー?いいからほら行くよー」


ブツブツ呟いているサリーナの手を引きいい加減講堂へ向かおうと歩き出した。



…こうして、私の学園生活は(教師陣の説教と共に)幕を開けるのだ。



…早速、雀と鳩に道が違うって軌道修正させられたけどね!!




ここまでお読み頂きありがとうございました!


この後のストーリーはリーリアの学園での日常を短編として投稿していきたいと思っています。

興味のある方は是非読んでみてください!


(雀と鳩の会話は想像におまかせします笑)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ