ヅラいヅラいと姉の物をなんでも欲しがる妹に婚約者まで奪われましたので隣国で引きこもることにしました
10作目です。
よろしくお願いします。
「お姉さまヅラいです。」
姉である私は、子供のころから何度もそう言われてはお気に入りのぬいぐるみや洋服を妹に奪われてきました。
そのたびに私はいつも思っていた。
(それはずるいなのそれとも阪神や広島で活躍した伝説のあの人なの?)
と・・・・。
いや取られたものが気にならないわけではないのだけれど“ヅラい“っていう形容詞はありませんよね。気になっている間に持って行かれる。
悔しい。でも考えちゃう・・・ビクンビクン!
私は侯爵家の長女で妹が次女。私は16歳で妹は一つ下。私のお母様はもともと体が丈夫ではなく無理が祟ったのか、私が7歳の時に儚くなってしまい、その時に後妻さんと一緒に公爵家に入ったのが妹です。
妹もお父様の娘ですから異母姉妹というやつです。簡単に言うと浮気ですね。
「お父様不潔です。」
家族での食事の時につい心の声が口に出してしまったのが悪かったのか、それ以来侯爵家での私の立場は悪い。口は禍の元。皆さんも気をつけましょうね。
そういうこともあって妹が私の物を奪っていくのをだれも止めない。
もともとお父様は仕事だか浮気だか知りませんがあまり家に寄り付かない方で当然家の内情などは知らない。家宰や執事長などから問題の報告がなければうまくいっているものだと思っている。
一方で野心家な方でもある。そもそも私のお母様は聖女であったため、侯爵家の権力を高めるために結婚したくらいだ。お母さまも乗り気ではなかったが、そもそもが侯爵家の寄子の家に生まれたのが運の尽きで気が付いたら外堀を埋められていたらしい。
聖女の力で上級貴族に恩を売っていたが、力の使い過ぎもあって儚くなってしまった。哀れなことである。
妹も父親のいない家庭で6歳まで育ったためか寂しがり屋で何かと私にかまってくる。
そしてヅラい病が発症したのが引っ越してきて一か月が過ぎた時のこと。
私の後ろをいつもついて歩いていた妹はつい私の金髪ドリルヘアーをつかんでしまった。
“スポッ!”
そして現れる私のつるつる頭。
「えっ!?」
驚き固まる妹。そして溢れる涙。
「びえええええええええええええん!お姉さまの頭が取れちゃったああああ!」
ギャン泣きである。困った私は
「頭が取れたわけではないのよ。これは私の護身用の武器なの!」
そういってドリル部分で妹のほっぺをつんつんすると驚いた顔で
「ふえ?」
そういってキラキラした目でヅラを見つめている。
ここはもう一押しだなと思った私は。
「こうやって自動操縦もできるのよ。行け!ヅラファンネル!」
といってこっそりサイコキネシスを使いながら縦横無尽に動き回らせる。
「ふえぇぇぇぇ。姉様しゅごい!」
すっかり幼児退行した妹をあやしていると、大層気に入ったのかことあるごとにヅラ芸をねだるようになってしまった。
これをやるとぐずってもすぐに復活するので私も調子に乗ったのが悪かった。
「ヅラファンネルを4つ使って三角錐を作るとバリアも張れるのよ!」
そんなことをやっていると、人前でも要求してきたが私がヅラなことは秘密である。まさか人前ではできない。そうすると妹はヅラい。ヅラいと言いながら人質のように私のものを持って行くようになってしまった。
ええ私の教育が間違っておりました。反省した時には遅すぎたけど・・・・。
一応妹の部屋に行ってヅラ芸を気に入ってもらえると少しだけ返してはくれる。大抵のものは借りパクされているけれど。まあ服は成長に合わせて新調されるのでそこまで困ることはないけどね。
そんなこんなで妹の対処に苦慮していると、お父様に王宮のお茶会への出席を強制された。
そしてその場で第二王子の婚約者に。侯爵家には直系の男子がいないので将来的には婿入りするとか。お父様がいろいろ手を回していたのだろう。侯爵家の権勢と同い年であることが決め手になったらしい。
母様の件があるから上位貴族や王家とかかわりたくないんだけどな。この国の王族や上級貴族って大抵愛人がいるんですよ。私は地位とかはそれほどいらないので、温かい家庭希望。
手に職もあるし男の世話にならなくても食っていくのに困らないしね。
そんな思惑も知らない第二王子は義理なのか何なのかよく婚約者として家に来る。私は失礼にならない程度に相手をする。そして妹に遭遇。
妹は相変わらず
「ヅラい!」「ヅラい!」
当然私は相手にしない。すると
「ヅラいが何だか知らないが、もう少し妹を大事にしたらどうなのかな。婚約者として忠告するが家族を大切に出来ないのは感心しないな。」
「はあ。まあ、ごもっともです。」
そう答えると。
「なんだ。その気のない返事は!私は恥ずかしいぞ。」
「そうですねー(棒)」
そんな感じで全く仲が進展しなかった。
そんなこんなで学園の卒業パーティーの日。なんだかんだでこれで卒業。卒業後は第二王子と結婚して人妻かあ。人生ままならないものだなと思っていると
「侯爵姉令嬢!家族も大事に出来ない貴様などは私の婚約者にふさわしくない!ただいまこの時を持って貴様との婚約を破棄し妹令嬢と婚約を結ぶものとする。」
妹を連れた第二王子に指をさされてしまった。
「かしこまりました。ところで国王陛下とお父様には話が通っているのですか?」
「結婚するのは、この私だ!侯爵家に婿入りする予定なのだから妹でも構うまい。貴様は私の権限で王都追放とする!3日以内に荷物をまとめて出ていけ。」
この調子だと話は通っていませんね。それにしても妹とはいつの間に仲良くなったのでしょう?
「お姉さま。ヅラいですがお達者で。」
笑顔の妹にそういわれてしまった。
「かしこまりました。では皆様失礼いたします。」
そういうと私は会場を後にした。
これで私は自由の身だ。鼻歌を歌いながら屋敷に戻ると家を出る準備をする。幸いお父様は今日も家にいない。幼馴染の執事見習いを捕まえて
「婚約破棄されて王都追放になったから、隣国に行こうと思うんだけど一緒に来る?」
彼は一緒にヅラいさん対策をした盟友だ。いろいろ気遣いできるやつだし平民として生きていくには頼もしい奴だ。そう言って誘うとあっさり同意して
「お嬢様!いえ、もうお嬢様じゃないですね。姉ちゃんずっと好きでした。これってそういうお誘いと思っていいんですよね。」
そういわれて私は何もかもから解放されたのだった。結婚してしまえば聖女だからといっても、無理やり政略結婚の相手にはされないからね。私たちは途中の教会で結婚式を挙げ、隣国に向かうのだった。
1年後
短いがすっかり青い髪が生えそろった私は隣国で開業した治療院で今日の患者を診ていた。旦那は専業主夫だ。聖女による治療行為は効果も高く報酬も高いからね。旦那を無理に働かせる必要もない。
そんなことをしていたらすべての患者を診終わったころに見知った顔が現れた。
「お姉さまヅラいです!」
やっぱり来たか・・・・。居つくかどうかは別として会いには来ると思っていた。
「妹ちゃんも元気そうね。」
「やっと卒業できたので会いに来れました。初めて聖女の髪色の姉様を見られましたが素敵ですね。」
私が頭を剃ってヅラをしていた理由。それはこの髪色にある。青髪は聖女である証なのだ。私は苦労したお母さまに「自由になりたかったら髪の色は隠しなさい」と言われていた。お父様は家庭に全く興味がなかったので髪色のことは知らない。
「お父様もああ見えて結構抜けてますよね。聖女の娘なんだから聖女の可能性は高いのに全く気付いていませんでした。このことを知ったら地団太を踏んで悔しがったと思います。」
知っているのはお母さまとお母さま付きの侍女、私の乳母、今の旦那くらいで侍女は寿退職。乳母は私が3歳のころには必要なくなったのでやはり退職していた。彼女たちは私の母親代わりのような人たちなので秘密を洩らさなかった。
「妹ちゃんは私に聖女の力があるって知っていたのね。」
「子供のころはともかく、あれだけ魔法が使えて髪を剃っていれば普通気が付きますよ。」
妹ちゃんに少し気になったことを聞いてみる。
「そうなのね。第二王子との仲を邪魔してくれたのもわざと?」
「そうですよ。お姉さまは籠の鳥になるのは嫌そうでしたし、似合いませんからね。」
そういって妹ちゃんは微笑んでいた。
「その分あなたに負担をかけてしまってごめんなさいね。」
「大丈夫ですよ。第二王子との婚約はなくなりましたし、今は公爵家の次男とちょっといい仲になっているんですよ。」
「え?どういうこと?」
「第二王子って当主でもないのにお姉さまを追放したじゃないですか。越権行為ですし、お姉さまを残しておけば政略結婚の駒にも使えたわけですからお父様はカンカンでしたよ。それであんな男に侯爵家は継がせられんといって王家の有責で婚約破棄のみ成立。私はそんな男とお姉さまとの婚約を押し付けたお父様を糾弾。残った侯爵家の血筋は私のみということで大幅な権限強化ということになりました。」
そういって一年前よりだいぶ膨らんできていた胸を張る。
「相変わらずあなたは世渡り上手ね。」
「もちろんですよ。貴族としてはお姉さまより私のほうが向いていますからね。それより髪を伸ばして大丈夫なんですか?この国でも目をつけられたりしませんか?」
「人妻になった聖女に手を出すなんて恐れ多いこと天罰を恐れてめったなことでは起こしませんよ。」
そう答えると。
「天罰ってお姉様が下すのではなくて?」
「まあそういうこともあるかもしれませんね。強化型ヅラファンネルは健在ですから。」
そういうと二人で笑いあったのだった。
「俺は小ネタ職人になりたかった。これを書くことでそうなれるのであればそうしよう。そうあれかし。」
前作のエッセイと同じネタを使うなって?
少しくらいは大目に見てください^^;
やったずらの感想で腹筋を鍛えられたとの感想があったので調子に乗ってみました。
後悔はしていない。