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話を戻して現実に帰ってくると今、私たちは昨日始めた乙女ゲームを一緒にプレイしている。
傍から見ればかなり意味不明な状況だが、ソウルメイトには関係ない...と思っている。
気を取り直して私は彼女に話しかけた。
「聖麗なんで急に私の家に?」
彼女は麦茶のコップをテーブルの上に置いて話し出した。
「きっと君のもとに『月の乙女のティアラ』がある、と思ってね。」
私は彼女の勘にはつくづく凄いと思う。
彼女の言う勘はどんなことでも大体合っているのだ。
「...あるよ。...一緒にする?」
彼女は感動したようにこう言った。
「ああ!さすが私のソウルメイト!私のことをよくわかっているね。さて、どのルートから始めようか!」
彼女はいつの間にかに棚に入れていたカセットを手に取って裏側の説明欄を見ている。
私は彼女に昨日ノーマルエンドは全て終わらせたことを伝える。
「...なるほどね、じゃあ今日から攻略対象者を攻略しようってわけか。」
理解が早いようで助かった。
「それで主な攻略対象者はロストワール、シェイナス、ライアーとアンバーなんだけど、どこからやりたいとかある?」
「そうだね...やっぱり王子は最後にとっておくとして...打倒キャラはアンバーとかはどうだい?」
私は口元に手を当てて悩んだ末、答えをだした。
「じゃあアンバーからしよっか。」
「さてさて、カセットを...ってこれは新作のゲーム機用だったのか!こんな感じなのか、私も今度買うことにしよう。ちなみにこの色以外に何色のものがあるんだい?」
「確か...それのアクアマリン、レッド、エメラルドグリーン、イエロー、スミレ、ブラック、ホワイト...とか他にもマーブルとかもあったかな...?」
Hrep Brepは最近MGTR.Trianという有名なゲーム会社から発売されたゲーム機で、いろんなカラーが出ているのでかなり女性に人気があるのだ。
「なるほど、じゃあエメラルドグリーンにしよう。ちょっと待ってくれ...。」
と言ってスマホを取り出して誰かに連絡をとっていた。
「よし、始めよう!」
と気を取り直して彼女はカセットを入れる。
昨日と同じようにタイトル画面を押す。
『ようこそ、乙女ゲームの世界へ』
と出てくる。
そして昨日セーブしたデータを押して何度目かのオープニングムービーが流れる。
セーブすると図鑑に一つ一つのエンドが保存され、エンドを見返せるようになっているのだ。
「アンバーのルートに入るには...まずは話しかけないとだね。」
と私が言う。
攻略するにはまず攻略対象と出会わなければいけないのだ。
「きっと彼は庭にいるだろうね。」
「なんでわかるの?」
「まあ、私の勘だから確かなことじゃないよ。」
とりあえず聖麗の言った通りの庭に行ってみることにした。
すると、彼は庭のベンチで一人で座っていた。
話しかけると選択肢が出てくる。
ーーーーーーーーーーーーーー
1.こんにちは、何をしているんですか?
2.何かありましたか?私でよければ聞きますよ?
3.貴方は、アンバー様ですか?探していたんです!
ーーーーーーーーーーーーーー
「ん~、どれからやってみよう...。」
「まずは好感度をマイナスにしてみたらどうだい?一番最初にバッドエンドを見ておいたほうが後々辛くないからね。」
「どれがマイナスになるかわからないよ。聖麗はわかる?」
「そうだね...たぶん彼は自分なりの人と人との距離を持っているタイプだろうから2を選べばいいんじゃないかな?」
とりあえず2を選ぶことにした。
アンバー「貴方は...ああ、転入生の子か。ごめんね、何でもないんだ。気にしないで。」
ーーー好感度-1
「ほらね、彼は自分のテリトリーに入ってきてほしくないんだよ。」
「そうみたいだね。じゃあどんどん進めよっか。」
そしてどんどん好感度を下げていった結果、
ーーー好感度-100
アンバー「君、しつこいよ?これ以上近づかないでくれる?....いや、君はそう言っても聞かないだろうね。私もそろそろ君の性格が分かってきたよ。悩んだんだけどね、君には消えてもらうことにしたんだよ。」
黒いオーラを発するアンバーのスチルが出てきた。
そこでアンバーの声でのナレーションが発生する。
ーその後、彼女は跡形もなくこの世から消えたー
ーBAD ENDー
▽『ゲームをやり直しますか?』
思った以上に残酷なルートだった。
「さて、次にメリーバッドエンドの攻略でもしようか。最後はハッピーエンドでね。」
私は部屋の時計を見る。
ちょうど昼頃になっていたので昼ご飯を食べようと提案する。
私たちはリビングまで降りて冷蔵庫に入っているお母さんが作ってくれたおかずを取り出す。
お母さんは私が大きくなった今でも毎日仕事に出かけている。
お父さんは今は単身赴任で海外に行っていて昼頃の家にはいつも私一人でいるようなものなのだ。
....あれ?そういえば、聖麗は仕事はないのだろうか?
私は自分の病気で仕事を中途半端にやりたくなかったので家でできるネット関係の仕事をしている。
しかし、普通だったら今日は平日で大人は会社に出勤しているはずだ。
私は「私はもう少しおかずを作ろうかな?」といって手際よく料理を作っている聖麗に聞いてみることにした。
「聖麗、仕事は?今日は平日だよ?」
彼女はいったん手を止めてこちらを向く。
「ああ、仕事ね。もう終わらせてきたよ。私の仕事は書類仕事だからね。」
「書類って結構大変なんじゃ...まあ、終わったならいい、のかな?」
「私は仕事が終われば帰っていいと秘書に言われているからね。仕事が終わってしまうと、いつも暇を持て余しているんだよ。」
ひしょ?...秘書?!
「あのさ、言いたくなければいいんだけど。聖麗ってなんの職業についてるの?」
「ん?言っていなかったけ?MTGRホールディングス所属のIT会社の社長だよ?ああ、会社名はsuwaitだよ。」
「社長...そうなんだ。知らなかった。って社長って結構忙しいでしょ?!」
「そんなことはないよ?ただデスクに置いてある紙とかファイルとかを片付ければいいだけだからね。」
....久しぶりで忘れてたけど、そういえばこの人、昔からなんでもできた人っだった。
もうちょっと仕事について聞こうとしたときに呼び鈴がなる。
インターホンで受け答えする。
「咲ちゃん、僕だよ。遊びに来たよ。」
「ようちゃん?わかった今開けるね。」
後ろでそれを見ていた聖麗が勢いよくやってきた。
そして勢いよく玄関の扉をバンっと開ける。
私も後に続いて玄関を出た。
するとそこにはようちゃんが立ってた。
いや、立っていたのはいいんだけど、なぜかイケメンになったようちゃんが立っていた。
「咲、君には私がいるだろう?!なんで男なんて連れてきてるんだ!」
まるで現在浮気が発覚したカップルの会話のようなものが目の前で起きていた。
「....いや、なんでそうなったの?」
思わずツッコミをいれる。
ようちゃんはどうしていいのか困った顔をしている。
「えっと、君は...誰?....もしかして、朔谷聖麗?」
ようちゃんは彼女が誰だかわかったらしい。
「君は誰だ?!咲は渡さないよ!」
未だなぜか焦っている彼女はようちゃんの肩をつかんでゆすっている。
「落ち着いて、聖麗なんだよね?」
「君みたいなイケメンは私は知らない。」
「イケ...え?誰のこと?」
この状況を何と呼ぶのだろうか....ああ、混沌か。
私は勢いよく息を吸って声を出した。
「二人とも落ち着いて!!」
次回の投稿は明日の20時です。今日は『Restart sideストーリー』の投稿日です。ぜひそちらも見てもらえると嬉しいです。