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4.ウォーレンサー家の終焉

それからも、兄さんは学校に来たり来なかったりが続いた。


そして、次の休み。

家に帰ったら、王太子が来た。

また来たよ、と思ったけど、ずいぶん真剣な顔をしていた。


「ウォーレンサー家の、領地からの収入に、不正が見つかった」

貴族だから、領地だって持ってる。……不正?


「あそこは、領地運営には興味ないからね。代官が運営をしているんだけど、その代官が、脱税とか収賄とか、色々やらかしていて、金額もバカにならない。

 前から怪しいと思っていたけど、ここ最近、当主がおかしくなって気が緩んだのか、やることが大きくなった」


そこまで言って、王太子はため息をついた。

その話を何でここでするんだ? 確かに義父さんもいるけど……。


「……これからその代官を逮捕することになる。だけどね、いくら運営を代官任せだからって、そういう報告書類はきちんと当主を通してから国に出される。つまり、当主だって知ってただろ、って事になるんだよ」


「もしかして、領地没収とか、貴族位剥奪とか、そういう話が出てますか」

義父さんの言葉に驚いたけど、王太子は黙って頷いた。


「領地没収の方ね。さすがに貴族位を奪うほどじゃない。だけど、領地を没収されたら、貴族としての生活はしていけなくなるだろうね。どこか田舎に引っ込んで、平民と変わらない生活を送ることになる」


「それで、その話をわざわざ我々にする理由は?」


「おかしくなった当主と、まあ優秀ではあるけど、どこにでもいる程度の優秀でしかないパーリアとシルスは、どうでもいい。別に、田舎でもどこでも引っ込めばいいさ。

 でも、フランルークを田舎に引っ込めさせるのは、流石に惜しい。――ランディ、フランルークの後見をしてくれる気、ないか?」


そう言って、王太子は怪しく笑った。



 ※ ※ ※



僕はため息をついた。

昨日も今日も兄さんが学校に来なかった。


会いたいけど、さすがにウォーレンサーの家にまで行きたくない。

でも、何となく近くまで来てしまったら、嫌な奴らと遭遇した。


バリー・ウォーレンサーと、パーリア、シルス。


向こうも、僕に気付いたと見えて、近づいてきたので、慌てて逃げ出したら、追い掛けてきた。


「初球魔法――『炎球』」


街中だというのに、いきなり魔法を放ってきた。

とりあえず、広場を見つけたので、そこに駆け込む。


そうしたら、三人が僕を取り囲むように位置取ってきた。

「――ねえ、ここ街中なんだけど?」

ついでに言えば、決闘場みたいな結界も、もちろんない。


こんな所で、魔法を使うのかと聞いたつもりだったけど。


「だからなんだ。貴様は的当てだ。我々の的当てだ。街中がなんだ? 貴様がその体で全部攻撃を受けるんだから、場所がどこであろうと関係ない」

ヒヒヒヒ、と狂ったように、男が笑う。


――的当てか。嫌な言葉を聞いた。


あの時の、痛みが、辛さが、蘇ってしまう。けれど、それをぐっと唇を噛みしめてこらえた。


「……兄さんは、どうしてるんだ」

「フランルーク? あんなのは知らん。当主である私を差し置いて、好き勝手やりおって」


嫌悪感たっぷりの男の言葉に、眉をひそめる。


「あんたのせいでしょ。あんたのせいで、兄様がおかしくなった! あんたをやっつけて、元の兄様に戻ってもらうんだから!」


「本当に、忌み子はどこまでも忌み子だよな。兄上に何を吹き込んで洗脳したんだよ? ぶっつぶして、今度こそ死ぬまで的当てだからな」


続くパーリアとシルスの言葉に、なんかもう、本当にどうでも良くなった。


どうせもう、こいつらに未来はない。もうすぐ領地没収されて、落ちぶれるだけだ。

だったらもう、叩き潰したって問題ないだろう。



「――なるほど。あんたらの考えはよく分かった。いいよ、三人まとめて掛かってきたら? ぶちのめしてやる」


僕の言葉に、三人の顔が面白いくらいに怒りにそまった。


「初球魔法――『炎球』」

男が魔法を放ってきた。

兄さんと同じ、炎属性。でも、その威力は比べようがないほどに、弱い。


「初級魔法――『無球』」

二つの魔法がぶつかると、僕の魔法が男の魔法を飲み込んで巨大化して、男に向かう。


「な! なんだ、これ……、ぐわぁ!!」


そして、そのまま命中。

なんだこれ、って知らないのか。


「初級魔法――『水球』!」

「初級魔法――『風球』!」

二人が同時に魔法を使ってきた。


その判断は悪くはないけど、初級魔法でどうにかできると思ってるのか?

確かに、前に二人と戦ったときは、兄さんに手の内を晒したくなくて、かなり手加減した。


でも、兄さんとの模擬戦を見てれば、初級魔法じゃ敵わないのは、分かるだろうに。

「中級魔法――『大無球』」


僕の放った魔法は、二つの魔法を飲み込んで、さらに巨大化した。

そして、それはシルスに命中。シルスが倒れるのを横目に、魔法を発動させる。


「中級魔法――『大無球』」

パーリアに向けて放つ。

「中級魔法――『大風球』!」

パーリアの魔法に、呆気にとられた。


もしかして、あの模擬戦、見てなかったのか? 無属性魔法に、同等級の魔法は効果がない。

案の定、僕の魔法が、パーリアの放った魔法を飲み込んで、直撃した。



簡単に三人が倒れた。

罠を疑いたくなるくらいの、簡単さだ。


とりあえず、仰向けに倒れている男の方に向かう。

今さら、優しくするつもりもないので、その腹を思い切り踏んづけた。


「ぐあっ! ……き……きさま……!」

「ずいぶん、あっけなかったね」


睨んでくる男に素っ気なく言って、『無球』を発動させる。

まずは、シルスにそれをぶつけた。そして、次はパーリアに。


「……ぐっ……」

「……い、た……やめっ……」

なんか呻いているけど、構わず何発もぶつける。


「別にいいよね? 昔、あんたらが僕にしたことなんだから」

自分でも驚くくらいに、冷たい声が出た。


「そして、あんたもね。『父上』」

わざとらしく、昔の呼び方で呼ぶ。

そして、魔法を発動させようとして、一つ思い出した。


「それで、兄さんは今どこにいるの?」

腹を踏みつけながら聞けば、苦しそうに返事があった。


「……ぐっ……ぎ……、り、領地に行くと、言っていた……。何しに行ったかは、知らん……!」


その返答に、思わず動揺した。

――兄さん、もしかして不正に気付いたのか。

でも、たぶんもう、遅い。



動揺を押し隠して、僕は男に告げる。


「――そう、どうも。じゃあ、あんたはこれでも食らって。中級魔法――『大無……」

「グレン!!!」

唱えかけた所で、声が響いた。


「――兄さん……」

息を切らした兄さんが近づいてくるのを見て、話しかける。


「たった今、この男から、兄さんが領地に行ったって話を聞いた所だったんだけど」


「出かけたのは、昨日だ。戻ってきたんだよ。――それより、何をしている」

兄さんの声が低くなった。と――、


「フ……フランルーク! こ、こいつを倒せ! いきなり襲いかかってきて! やはり忌み子だ! 生かしておくな!」

いきなり、僕の足下の男が叫んだ。ので、もう一度踏んづける。


「何言ってんの。先に仕掛けてきたのはそっちでしょ。僕はやり返しただけだよ」

まあ、少々過剰防衛だったのは確かだけど。


「……そうか。本当にすまない、グレン。迷惑をかけないと言っておきながら……」

「フランルーク! きさま! そいつの言うことを信じるのか!」


また男が騒ぐけど、今度は完全に無視だ。

兄さんが、僕をまっすぐに見てきた。


「……グレン、復讐したいか。殺したいか?」


どこか、覚悟を決めたような目。でも、兄さんが何を考えているか分からないまま、僕は答えた。


「もし、したいって言ったら、どうするの?」


兄さんは目を一瞬つむった。

「その時は……俺を最初に殺してくれ」


その言葉に、目を見張った。


「最初から、そのつもりだった。お前が生きていると信じたかった。お前が生きていれば、きっとお前は復讐しに来る。その時に、俺は成長して強くなったお前に会えるんだと、それだけを楽しみにしていた。――ただ一つ、ただ殺されるだけじゃなくて、俺がお前の成長に一役買いたかった。それだけできれば、満足だった」


「……な……に、言ってるの……」


「でも、お前は、俺のことを好きだと、尊敬しているとまで言ってくれて……。だから、お前に強さを見せようと思った。これから、お前が強くなっていくのに、その目標になればと思って、特級魔法超えの魔法を使った。そして……満足してしまったんだ。だから、もういい。思い残すことは、何もない」


「何言ってるの、兄さん! そんな……」


「そんな勝手な理由で、いなくなられるのは困るんだよね、フランルーク」


僕の言葉に被せてきたのは、王太子だった。

義父さんも一緒だった。


「……いつからいたんですか」

僕は小さく問いかける。全く気付かなかった。


「フランルークの、俺を最初に殺してくれ、辺りからだね。――ウォーレンサー家に行ったら、当主の家族が留守だからさ。慌てたよ。で、ここを見つけたんだけど、どんな状況なの、これ?」


パーリアとシルスは、少し離れた所に倒れていて、当主の男は、僕の足の下だ。


「僕が歩いていたら、この三人と遭遇して、いきなり魔法を放たれました。それで、応戦して倒したんですけど、僕の反撃がつい過激になっちゃいまして、そこを兄さんに止められました」

簡単だけど、大体こんなところだと思う。


「へぇ、反撃が過激にねぇ? なに、殺そうとでもしたの?」

面白そうに笑いながら言う台詞じゃないと思うけど。本当に、この人はぶれない。


「意識して殺そうとしたわけじゃないですけど、まあ別に死んでもいいや、くらいには、思ったかもしれないです」


「ふぅん、そう。でもまあ殺す前で良かった。逮捕しに来たのにすでに死んでました、じゃただの無駄足だ」


「……逮捕?」

兄さんが、つぶやいた。


「そう、逮捕だよ。君の所の領地の代官が、脱税とか横領とか、収賄とか、色々やってたんだよ。何年にもわたってね。で、収支報告とかそういうの、全部当主を通しているはずだろ? そうである以上、当主も同罪だと見なす」

王太子がにっこり笑って、父を見た。


「話は聞いてあげるけど、確定した罪は動かないよ。バリー・ウォーレンサー、領地没収だからね。貴族位は取り上げないけど、貴族としての生活はもうできないだろうから、子供達と今後の生活をどうするか、今から考えておいたら?」


「そ……、そんなものは知らん! ……な……なぜ……私が……!」


「今、君の罪を教えてあげただろう? ――ランディ」


「はい。――お前達、当主とパーリア、シルスの三名を連れて行け」

他にも誰かいるな、と思ってけど、義父さんの部下だったんだ。


「待って下さい! 俺は!?」


兄さんが慌てたように言うけど、この前話したことだ。兄さんは、あいつらと一緒には行かせない。


「――……コリンティアス!! きさまか!! どこまで邪魔をする!!!」

何やら男が叫んだけど、すぐに猿ぐつわをされていた。


「忌み子が、ふざけないで! 離しなさいよ! 悪いのはあいつよ!!」


「兄上、助けてよ! 忌み子なんかにだまされてちゃダメだ!!」


ついでに、パーリアとシルスも叫んで暴れたけど、強引に連れて行かれた。

それを冷ややかに見送る。


だけど、兄さんが後を追い掛けようとするから、僕は手を掴んで引き留めた。

「――……グレン!?」


「フランルーク。君にも後で事情の確認はしなきゃいけないけど、君はあの三人と一緒には行けないからね」

「……どういうことですか」

笑っている王太子に、兄さんの声は戸惑いが強い。


「君ほどの実力の持ち主を田舎に籠もらせるほど、我が国は無欲にはなれない、ということだよ。満足しようと何しようと君の勝手だけど、ちゃんとこのまま学校を卒業して、我が国のために働いてくれ。

 ――まあ犯罪者の息子ってレッテルが貼られることになっちゃうだろうし、しばらく監視付きにもなるけどね」


「…………監視?」

「そう。そこにいる、君の弟の事だよ」

僕を見た兄さんの目が、大きく見開かれた。



 ※ ※ ※



「ランディ、フランルークの後見をしてくれる気、ないか?」

笑う王太子だけど、話が唐突すぎて分からない。


僕はそう思ったけど、義父さんはそうでもなかったようだ。

「……断ってもよろしいでしょうか?」


「別にいいけど。そうすると、他を探すことになるよ。フランルーク、結構妬まれているから、他だと、どんな扱いを受けることになるかは分からないな」

義父さんは、大きくため息をついた。


「……分かりました。引き受けますよ」

「君ならそう言ってくれると思ったよ。――グレンが監視役を務めるのも、いいよね?」


「――殿下!!」

「……監視役?」

義父さんと、僕の声が重なった。


「そうだよ、監視役だ。フランルークは、犯罪者の息子って立場になるだろ? 流石に完全に自由にはできないよ。だから、監視役が必要なんだよ」


「……それを僕にやれってことですか」


「そうだよ。真面目な奴だから、大人しくはしてるだろうけど、家族を気にして一時脱走、みたいなことはしかねない。実力があるから、できちゃうしね」


「それを言ったら、僕だって変わりません。この間完敗したの、忘れたんですか?」


「……あれって完敗なの? 結構いい勝負してたように見えたけど。

 まあ、それは今はいいや。実力じゃ確かにあいつが上だろうけどね。でもさ、監視役が監視対象を一時的にしろ逃したりしたら、監視役が罰を受けることになるんだよ。――そしたらほら、もうフランルークは逃げられないだろう?」


思い切り意地悪く笑う王太子に、僕は多分顔が思い切り引き攣っていたと思う。

義父さんには、嫌だったら言え、と言われたけど、結局僕は引き受けた。



 ※ ※ ※



「そういうことだから。兄さん、これからよろしく」

さらに、兄さんの目が見開かれた。


「……ま……待ってくれ、それは……。殿下、私も父達と同罪でしょう? だから……」

「君に拒否権はないよ、フランルーク。これは決定事項だ」

冷酷なまでの王太子の声が響く。


唇を噛みしめる兄さんに、義父さんが近寄った。

「これから、私がキミの後見を務めるよ。――もう、父親のことも妹や弟のことも忘れなさい。キミは十分彼らを思って行動してきた。それを無碍にしたのは、あっちだろう」


でも、兄さんは首を横に振った。

「――どうして? もういいよ、兄さん。そこまでする必要ない」

僕も言ったけど、でもやっぱり兄さんは首を振って、そして口を開いた。


「……あいつらと同じになりたくない。忌み子ってだけで、グレンを見捨てたあいつらと、同じになりたくない。あいつらを見捨てたら、俺も同じだ。だから、俺をあいつらと一緒にいさせて下さい……!」


言葉が出てこなかった。

色々間違ってるとしか思えないけど、あいつらと同じは嫌だという気持ちだけは、分かってしまった。


それなのに、

「うわ、真面目って面倒くさい」

王太子は、心底バカにした顔をしていた。


「言ったでしょ。一緒には行かせられない。君の気持ちがどうあろうと、これは決定事項。どうしても気になるんなら、監視されている期間、せいぜい真面目を続けることだね。そうすれば、期間が短くなることもあるだろうし、あいつらの様子も見に行けるでしょ」

一応、これは慰めているうちに入るのか?


「じゃあ、ランディ、グレン。後は頼んだよ」

去って行く王太子の後ろ姿を見ながら、僕たちも立ち上がった。


「兄さん、行こう?」

手を引っ張れば、兄さんは素直についてきた。


兄さんは、ほとんどしゃべらなかった。



人間と精霊は契約すると、どっちかがいなくなる(大体、人間側の死)まで契約は切れません。

ところが、何かがあって不和を起こしてしまうと、精霊の力を借りられなくなります。

ウォーレンサー家の三人はその状態で、上級以上の魔法は発動できなかった、という裏設定がありました。

精霊の力を借りなくても、普通に特級魔法まで発動できるフランルークも、グレンも、かなり規格外です。

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