目覚めからの一手
私は意識を取り戻すとゆっくりと目を開けます。
そこには見慣れた天井がありました。
身体をゆっくりと起こし見てみるとそこには小さな子供の手と足がありました。
もぞもぞとベッドから降りて部屋にある鏡に向かいます。
そこには先程の廊下の行き止まりで待っていた少女・・・幼い頃の私の姿が映っていました。
「本当に子供の頃に戻ってきたのね」
現実感のない話ではありますが先程の不思議な体験のおかげで混乱はありません。
ふと寝間着のポケットに硬いものがある事に気付きます。
探ってみるとそこには剣を咥えた獅子が彫られた金の懐中時計がありました。
私はそれを握ると再び己の使命を全うする事を誓うのでした。
そうして時間が過ぎていった頃にコンコンとドアをノックする音と呼びかける声が聞こえます。
「おはようございます、お嬢様」
「ええ、おはようモニカ。
もう目が覚めてるから入って支度を手伝ってほしいわ」
私がそう答えると失礼しますと言った後にドアが開き赤髪の女性が入ってきました。
彼女の名はモニカ。
私の専属のメイドだった人だ。
過去形だったのは彼女は私が6歳の時に結婚して退職してしまったからです。
彼女が私のメイドをしているということは私は5歳なのでしょう。
「今日のお召し物は如何致しましょうか?」
「貴方に任せるわ。
ただ、今日はお父様に正式なお話がしたいので普段着よりは格式のある服装を選んでもらえるかしら?」
流石にこの時にどんな服を持っていたのか覚えていないのでモニカに任せる事にしました。
しかし、お父様に今回のことをお話しして協力を仰ぎたいのでそれに相応しくない服装は除外するように頼みます。
「は・・・はい、かしこまりました」
モニカは一瞬呆気に取られつつも直ぐに真面目な顔になり服を選び始めます。
そういえば今の私は五歳でしたわね。
五歳の子供がこのような指示を出す事に驚いたのでしょうが、直ぐに指示を思い出して行動に移すのは流石にプロと呼ぶべきなのでしょう。
「こちらで如何でしょうか?」
彼女が取り出したのは水色のシンプルなドレスです。
華美な装飾はないものの仕立ての良いものですのでお父様との会談には向いているでしょう。
「それで構わないわ。
それじゃお願いするわね」
私はそう言ってモニカに着替えを手伝ってもらいます。
そして化粧台の前に座ると寝起きで乱れた髪を整えてもらいました。
「今日のお父様のご予定は分かるかしら?」
「本日の旦那様は自室で政務をなされるご予定ですね。
お嬢様が会いに来られるとお伝えしましょうか?」
モニカの問いに私は首を振ります。
「政務をしている時間を邪魔しては国益を損なう可能性がありますわ。
申し訳ないけれどお父様の執事にご予定を正確にお聞きし、空いている時間を聞き出してくれないかしら?」
「わ・・・分かりました。
それでは早速行動に移らせて頂きます」
モニカはまたも驚いた顔をした後に一礼して部屋から出ていきました。
「さて、私は面会予約のお手紙を書かなければ」
私は時間のところだけを空けて面会希望のお手紙を書いていきます。
そして便箋を用意しているところでモニカが帰ってきました。
「失礼します、お嬢様。
旦那様は午前中に集中して仕事を終わらせるそうですので午後からいつ部屋に来ても良いとのことです」
「分かりましたわ。それでは少しお待ちなって」
私は手紙の空いた部分に午後の2時と書き込みその手紙を便箋に入れて封蝋します。
「それではこの手紙をお父様に届けてちょうだい」
しっかりと封蝋された手紙を見て3度目の驚きを見せるモニカですがまた直ぐに気を取り直すと先程と同じように一礼してから部屋を出ていきます。
「さて、お父様がこの行動で少しは興味を持ってくださると良いのですが」