アイン・エリディス
エリカが向かった扉の先を見つめる。
そこには既に扉はなく白い壁に戻っていた。
兆候はあったのだ。
彼女は産まれてすぐの時は真っ直ぐで綺麗な髪をしていた。
その髪の一部が渦巻き螺旋状になったのは今回の話が原因であった。
(神から教わったが確かドリルという名称だったか)
なぜアレをドリルというのか分からないがそういうものらしい。
神と会話をしていた時にうっかりその思念が下界に漏れてしまいいつの間にかあの髪型をドリルというのが定着した時には焦ったものである。
(まぁ、下界のものにも意味は伝わらず名前だけが浸透しただけなので問題はないが・・・しかし)
ドリルのことは一旦傍において先程の会話を思い出す。
(不思議なことに驚きつつも取り乱さない胆力。
淑女としての礼儀。
少しの情報で解決策と問題を提示する頭の良さ。
彼女が王妃になってくれれば安心だったものを)
そして今度は婚約破棄を宣言したシグルドについて考える。
(前世の呪いがあるから一概にアレが悪いとは言えないのだが・・・状況が不味すぎだな。
表向きは婚姻を結んだ後に妾として迎える手もあっただろうに。
よりによって公的なイベントで破棄と平民との婚約をぶちまけるとは)
やれやれと思いつつもまだ希望がある事に心から安堵する。
(エリカ嬢ならばきっと成し遂げてくれるだろう。
しかし、前世の呪いか。
厄介なものだ)
そう言って過去の事件に想いを馳せる。
(敵対する貴族の家の子供同士が愛し合い、親に引き裂かれた事を根に思ってお互いの一族を虐殺。
その時に出た死体を生贄にして次の生で結ばれる事願い心中。
あまりの凄惨な事件に口外禁止されいつの間にか人々から忘れられた事件だったが、このような形で呪いを国中にばら撒くとは思いもしなかった)
心中した2人は次の生で結ばれることを願いながらも世界を呪っていた。
その為に記憶は受け継がず、王族と平民という形で出会い国を滅ぼすキッカケを作る事になったのだろう。
(しかし、エリカ嬢の考えには驚かされる。
まさか自分で引き取って教育を施すとは・・・彼女からしたら自分の婚約者を奪った泥棒猫が相手だろうに。
だが、そこまで徹底的に公私を分けられるからこそ信じられるというものだな)
そしてふと神に言われた言葉を思い出す。
(メリル嬢は物語の主人公・・・女性の場合はヒロインと言ったかな?
そのようなものだとお話になられていたな。
ヒロインと王子様が結ばれてめでたしめでたし。
そう結論づけられた存在だと。
では、新たに紡がれる物語は何という話になるのか。
時間を逆行した令嬢がヒロインを1から教育するということことだから、さしずめ逆行令嬢のヒロイン育成計画と言ったところかな?
そんな能天気な事を考えている場合でもないのだろうが・・・エリカ君なら上手くやってくれると信じるしかないのだろうな)
そう考えて再び祈る。
どうか王国の滅びを防いでくれと。
強引ですがタイトル回収回です。
私達が考えるドリルというものはこの世界にはありませんが、言葉だけが下界に漏れてしまい螺旋状のものをドリルという文化は出来たという設定です。