過去への道
「さて、エリカ嬢との話は大変有意義であり楽しい時間ではあるのだが、もうそろそろ時間らしい」
アイン様から見て左手の壁を指差す。
そこには今まではなかったはずの扉があった。
扉は1人でに開かれていく。
「そこから先が過去へとつながっている。
何度も同じことを言うのは心苦しいがエリカ嬢。
どうか、王国を。そして私のバカな子孫のこともよろしく頼む」
アイン様は立ち上がると直角に腰を折り私に頭を下げられます。
私は慌てて立ち上がりアイン様がそのようなことをされる必要はないと言おうと思いました。
しかし、それはここまで真摯に王国のことを思い私に託すアイン様の気持ちを蔑ろにしている行為にも思えました。
なので立ち上がりこそ慌ててしまいましたが淑女としての礼を崩さぬように努めながら
「必ず滅びの運命から救ってみせますからどうぞご安心ください」
と余裕たっぷりに答えました。
私の言葉を聞いたアイン様は顔を上げます。
「それを聞けて安心したよ。
君の2度めの人生に祝福があらんことを祈らせてもらう」
そう言ってアイン様に優しく微笑まれました。
一瞬だったので気のせいだったのかもしれません。
白い影の顔の部分にほんの僅かな時間だけシグルド殿下によく似た、しかし全く似ていない精悍な雰囲気を宿した青年の笑顔が見えた気がしました。
「ありがとうございます。
必ず務めを果たしますわ」
私はそう答えて扉の奥へと足を踏み出します。
背後では扉が閉まる音がしました。
扉の先には白い壁と道があります。
私がその道を歩いていくと壁に今までの人生の思い出が映っては消えていきます。
婚約破棄の宣言をされた卒業式。
生徒会長として過ごした学校の記憶。
その学校の入学式。
時期王妃としての教育の日々。
王子との婚約。
思い返せば我ながら何と固く面白みのない人生だったのでしょうか。
メリルさんに次期王妃の役割を譲れば少しは自分の時間というものが出来るのでしょうか?
しかし、それではメリルさんを犠牲にするだけですわね。
メリルさんをサポートしつつ余裕というものを確保することにしましょう。
私がそんな将来設計を描きながら遡っていくと、私の視線はどんどんと下がり歩幅が短くなっていきます。
そして行き止まり。
そこには真っ直ぐな金髪を背中まで伸ばした青い瞳の少女がいました。
少女はにっこりと笑うと私に手を差し伸べます。
私も全く同じ背丈の少女に笑いかけながらその手を取りました。
握り合った手の中から光が生まれ私達を包んでいきます。
そこで再び私の意識が途切れました。
ここまでがプロローグとなります。
次回アイン様視点を挟んでから本編開始となります。