メリル・ブラウン 1
私の名前はメリル・ブラウン。
母のマリアと二人暮らしのどこにでもいる普通の平民です。
父は私が産まれてすぐに亡くなったそうです。
母は私を守るために毎日遅くまで働いています。
その為、私は近くの修道院に預けられて過ごしていました。
その修道院では子供を集めて勉強会をしていたので、私は今は無理でも将来母に育ててもらった恩を返して楽をさせてあげようと必死に学んでいました。
なぜ過去形かと言うと信じられないような人生の転機が私に訪れたからです!
その日も真面目に授業を受け、講師役の神父様に質問したりと勉強を頑張っていました。
そして、授業が終われば母が迎えに来るまでここで待っているのが常でしたが、その日は違いました。
授業を見て私と話したいという方がいらっしゃるそうです。
神父様の話ではその方は裕福な商人の娘であり、この修道院に多額の寄付をしつつ自分の所で雇える人材を探されにきたそうです。
上手く気に入ってもらえれば私のような幼い身でも雇ってもらえるかもしれないと神父様は仰います。
私は将来的にそのようになれたらという意向はありましたが予想外に早くきたチャンスをものにしようと気合を入れます。
目的の応接室に着き神父様が扉をノックします。
扉をあけて中に入室する神父様に続くと、そこには優しそうなお祖父様と並んで座る少女がいました。
少女は見た目こそ商人の娘のような上等ではあるものの装飾品の無い平民と言うべき格好をしていました。
しかし、長く美しい金色の髪。
透き通るような青い瞳。
そして全身から溢れる気品が彼女と平民という立場を結びつけません。
(本当に商人の娘なの?)
私がそんなことを考えていると彼女は自分の名前をエリカ・クロードと名乗りました。
(エリカ・・・クロード?
それって確かに公爵家の名前では?)
私がそう考えていると神父様は唖然としながらも証拠となるものを見せてほしいと頼みます。
無礼な気はしますがこの国での貴族語り極刑であり、騙された側にも罰があるので当然です。
すると隣のお祖父様が懐から一枚の手紙を取り出しました。
その手紙の裏側には家紋が施された封がされています。
きっとあの封がクロード家の家紋なのでしょう。
彼女は間違いなく公爵令嬢なのでしょう。
(そんな方が私に一体何の用があるというの?)
事前に聞いていた話と違ってきており頭が混乱しそうです。
それを何とか落ちつかせようとしている間にも話は進んでいきました。
エリカ様は私を将来の侍女・・・それも筆頭侍女として迎え入れたいということでした。
信じられないような話に驚きます。
とても良い話に思わず返事をしそうになりましたが母の顔が浮かんできました。
その辺りの商人の家に働きに行くのと違い公爵家に仕えるということは貴族街に入るということでしょう。
私を身を削って育ててくれた母を一人平民街に置いていくわけにはいきません。
私がその事を伝えるとエリカ様はニッコリと笑って母も一緒に召抱えたいと仰ってくれました。
私は目を開けたまま夢を見ているのでしょうか?
こんなに自分に都合の良い話しがあるはずがありません。
しかし、話しが終わって去っていくエリカ様の後ろ姿を見ながら自分の頬を抓ると痛みを感じます。
私は神父様と顔を合わせ頷きます。
いま二人の心は一つになっているはずです。
この嘘のような話を必ず母に信じさせようと。
そして数日後・・・私と母は本当にクロード家に召抱えられることになりました。
この時のメリル視点はここで終わりですが、これからも度々メリル視点は登場する予定なので1です。
彼女はこのように満足な勉強ができなかったにも関わらず貴族学校の特待生に選ばれているのでとても優秀です。
 




