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BODY HAMMER  作者: 有八一乃
chapter 3 交差
34/34

3-7

 それは傍観者がいたならば、さぞかし奇妙な光景に見えたに違いないであろう。


 総一郎、そして亮と耕の兄弟はそれぞれが赤黒い液体に包まれていて、その周囲を炎にも似た熱の壁が覆っている。


 熱の壁はコンクリートむき出しの地面を溶かす事も、壁を焙る事も無く、ただ三人の体を覆っているだけであった。


 彼らを包む液体は徐々に衣服も肉体をも巻き込み、同化していく。


 甲虫の外骨格のように変質した皮膚は、全身を覆っていた。


 関節部の隙間からは筋繊維が剥き出しで見えている。


 ただ、明らかに強化された繊維に脆弱さは無く、刃物どころか銃弾すら通すとは思えない。


 骸骨に模したようなシンプルな出で立ちの総一郎と、名倉兄弟の変身した姿は大きく違って見える。


 亮の巨体は更に膨れ上がり、その上から更に岩を張り付けて押さえつけている、そんな印象を持たせる姿をしていた。


 灰色の岩、もとい硬化した皮膚は一つ一つが大きく、その攻撃が脅威となる事は想像に容易かった。


 背の皮膚は全体を覆うように一枚に連なり、亀の甲羅に似た形状をしている。


 一方の耕は、姿形こそ変化はあれど背丈は変わらず、身体も細い。


 だが、他二人が剥き出しになっている筋繊維部分の周辺は白い毛で覆われている。


 更に特徴的なのは、先が地面に着く程に肥大した前腕部である。


 ハンマーを引きずるがごとく地面に擦り付けながら動く姿は、大きく変化の見えた亮と違い、予測のつかない不気味さがある。


 前傾姿勢で立つその姿は、猿を彷彿とさせた。


 肉体を包んでいた熱が消え、三人が対峙する。


「兄貴がフロント、俺がバックでいいか?」


「ああ、やろう」


 会話の後、耕は亮の背に移動する。


 亮の巨体に隠れ、姿は完全に見えなくなっていた。


 しばらく睨み合った後、亮が一歩出る。


 その動きと同時に、総一郎は駆けた。


 接近する前に、亮の背後から伸びてくるものが見える。


 耕が背から腕を伸ばし、手先を揃えて突きを放ったのだ。


 真っすぐに伸びてくる腕を、総一郎は上へ跳んで避けた。


 そのまま天井近くまで跳び上がり、亮の右側頭部へ回し蹴りを当てる。


 しかし、太い首が衝撃を吸収してダメージは少ない。


 総一郎は次の手に移った。


 両足の先を後頭部へ引っ掛け、上体を起こす。


 近づいていく勢いと同時に、手を伸ばした。


 狙いは目、目潰しへと即座に移行したのだ。


 硬化した皮膚が包む指先が近づく前に、亮の掌が間に割って入る。


 攻撃を止めた巨大な手は、総一郎の上半身を包むかのようにして突き放す。


 その力に逆らうことなく、押されるがままに総一郎は離れていく。


 再び、三体の間合いが開く。


 前方に亮、後方に耕の並びは変えずに立つ。


 総一郎は構える事無く、その光景を見ている。


 しばらく見合った後、総一郎の体がゆっくりと動いた。


 右足を前に出したと思った途端、一気に駆けて距離を詰める。


 そして完全に間合いへ入り込む前に、体を横へ倒す。


 兄弟の股の間をスライディングで抜けていく。


 耕が振り返る動きと同時に、長い腕を利用した異常なリーチでのバックブローを放つ。


 倒れこむ形で地面に伏し、総一郎がそれを避ける。


 体勢を整えようと体を起こすその瞬間、右側から風圧を感じる。


 間に合わない――と、体を丸めて右肘と膝を合わせて守りを固める。


 耕が回転した動きに連なる形で繰り出した、鞭のようにしなる左腕が総一郎の全身を襲う。


 肥大化した腕の掌底は、全身を打つ。


 防御ごと弾き飛ばされ、壁に衝突する。


「かっ」


 肺に溜まっていた空気が、一気に吐き出された。


 仰向けに倒れた総一郎の視界に、大きな影が見える。


 それが耕の固く組まれた、両手の拳だと気づいた時には動き出していた。


 総一郎が地面を転がり、回避した場所に拳が叩きつけられる。


 しばらく転がって距離を取ったのち、立ち上がる。


 立ち上がった視線の先に、亮の巨体が真正面に映る。


 巨体からは想像もつかない素早さで、耕の攻撃が避けられると同時に動き出していたのだ。


 斜め下から、突き上げるように左拳が迫る。


 せり上がってくる拳を両手を上下に組むような形で、総一郎が防ぐ。


 目の前で爆発が起こった――と、総一郎は思った。


 上ってきたのが拳だと理解していても、その威力は爆発に形容する他ないものであった。


 防いだ腕を軋ませ、亮のアッパーは総一郎の全身を吹き飛ばす。


 受ける構えが出ていなければ、戦いは終わっていた――そう思わせる程の力が、その一撃にはあった。


 室内の端まで飛ばされ、壁に激突する。


 体勢を立て直すことなく、総一郎はズルズルと地面へ崩れていく。


 容赦なく、追撃の為に亮が近づく。


 壁に背を預けて座り込む総一郎の顔面へ、右拳を突き出す。


 総一郎が、動く。


 近づく拳を柔らかく、包むように両手で触れ、外側へ軽く捻る。


 その動きに引かれていくかの如く、亮の全身は回転した。


 小手返し――を使い、総一郎は亮を投げた。


 回転する体の横を、壁にぶつかりながら不格好な三角跳びを使って逃げる。


 転倒した亮はすぐに立ち上がり、耕はその横に並ぶ。


「兄貴を転がすとは、中々面白い技を使うな」


「ああ、面白い」


 兄弟と距離を取り、三たび向き合う形になる。


 しかし、今までと違い総一郎は片膝をついたまま構えていた。


「……これからだろ」


「……ああ、これからだ」


 亮の問いに、総一郎が答える。


 実力もあるうえで、二対一であることを「卑怯」ではなく「勝つ手段」として捉えている。


 どう戦うか――総一郎は見合いながら、必死に息を整えて思考を巡らせていた。 


 そんな中、室内に緊張感の無いエレベーターの到着音が響く。


 更に、甲高い金属音と共に銀色の筒が三人の横を転がっていく。


 筒――スモークグレネードは煙を吹きだし、瞬く間に部屋中を覆いつくした。



 『4番』が膝をつき、向かい合っている二体はゆっくりと周囲に目を向けている。


 暗視装置を通して見える姿は、伊達が遭遇した事の無い状況であった。


 何より亮や耕のように変化の大きなケースも少なく、更には実力も体験済みの4番目が苦戦を強いられているという事は、予想外であった。


 三体同時に出現しただけでなく、未知数の相手に立ち向かわなくてはならない現状は、伊達だけでなく隊員達にも多少の動揺を誘った。


『怯むな、接近戦に備えろ』


 三雲の言葉が耳に届き、隊員達はそれぞれナイフを手に接近していく。


「興が削がれたな」


「全くだ」


 亮が天井を二度、軽く突く。


 それは、ドアをノックするような動作であった。


 直後、天井の中心部が崩れ落ち、その場に何かが落ちる。


 舞い上がる砂ぼこりの中、落下した人型が立ち上がる。


灰色の皮膚と強化された肉体は総一郎より細く、貧弱そうに見えた。


 頭部は上部が大きく、目の部分は触覚が伸びている。


 右腕には天井を破壊した、楕円形の盾が前腕部を覆う形で装備されている。


「後は、頼んだ」


「やっぱ備えあればって奴だな。オイ! 生きてたらまた会おうぜ」


 兄弟は天井に開いた穴を軽々と登っていく。


 その姿を薄くなっていく砂ぼこりの中で見つけ、総一郎が追うために体を起こそうとした瞬間、降り立った男が跳ねた。


「ちいぃぃっ」


 殴る、というよりは盾を押し出して突く形で総一郎へ攻撃を仕掛ける。


 二度、三度と盾で突く。


 総一郎は不意を突かれた事、先程の戦闘でのダメージが尾を引いて動きが鈍っている事もあり、捌けずに防ぐ事しか出来なかった。


 その姿を見て、男の突きが大振りになる。


 隙を逃さず、突き出された盾を外側へと右手で受け流し、近づいてきた男の腹部に左の拳を当てる。


 膝をついたまま力を込め、上半身を回転させて拳を押す。


 密着したまま放たれた一撃、寸勁――が男の体を弾き飛ばした。


 不完全な体勢から放った攻撃だったが、総一郎にとって悪くない結果を生んだ。


 男は室内の端へと飛ばされ、壁に寄りかかり立ち上がろうとしている。


 距離が詰まる前にと、総一郎は勢いよく息を吐き、吸う。


 呼吸を整えようとしている中、突き出していた腕を折りたたみ、後方から迫ってくる攻撃を防いだ。


 伊達の横から薙ぐようにして放たれた蹴りが、総一郎の体を腕ごと揺らす。


「くっ」


 伊達の小さな舌打ちが聞こえると同時に、総一郎は口を開いた。


「あんた達に頼みがある……奴を倒したい、協力してくれないか」


「何!?」


 予想外の提案を聞き、伊達が蹴り足を戻しゆっくりと下がる。


「俺は先程の戦いでダメージを負い過ぎた。今のままでは奴を倒しきれない」


 総一郎は立ち上がり、太腿あたりの皮膚を溶解させ、器具を取り出す。


「それと、俺の体を維持出来るのは残り5分ほど……その後どうなるかは、アンタらも見た事があるだろう」


 伊達の脳裏には以前対峙し、小隊全員で必死に食らいついていた相手が突如溶解し始め、そのまま消滅していく姿が浮かんでいた。


「俺の攻撃に合わせて動いてくれればいい、それで――」


 言い終わる前に、二人は耳障りな羽音が近づくのを感じた。


 ほとんど反射的に、左右に跳ねる。


 滑空する形で、男が盾を突き出して攻撃を繰り出してきたのを、二人は避けたのだ。


 男は少し離れた壁際で着地し、振り返る。


 肩甲骨の皮膚が裂け、そこから赤い羽根が生えている。


 昆虫の羽根に似たそれは短いが、室内を飛行するには十分であった。


 更に盾の下半分は膨らみ、赤黒く染まっていく。


 その様は、蚊の腹が血で膨れていくように見えた。


 液体は盾の先から溢れ、細長い口吻のような武器を形成していく。


「協力して奴を倒すか、俺が死ぬのを待つか……アンタ達が決めてくれ」


 首の隙間に打ち込み、器具を戻しながら総一郎はゆっくりと伊達を見た。


 三雲の指示を聞いている時間は無い――伊達は、自身の直感に従う事にした。


「分かった。ただ、一つ条件がある」


「……出来る範囲で聞く」


「お前に合わせて戦うなんて器用な真似は出来ねえ。だから……お前が合わせろ!」


 言い終わる前に、伊達が走り出した。

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