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BODY HAMMER  作者: 有八一乃
chapter 2.変心
22/34

2-3

 時刻は二十一時、まだまだ人通りの多い歓楽街の中で三雲と銅、そして数人の捜査員らは緊張した面持ちで歩いている。


 明らかにその場の雰囲気から浮いた彼らは周囲から困惑の目で見られているが、気にする事なく反応のあった路地へと近づく。


 目前に迫る路地裏から、一人の男が現れる。


 この場には似つかわしくない、小柄な少年であった。


 以前の事件も犯人は高校生であった。三雲は警戒心を解く事無く、冷静に少年へ近づいた。


「すみません、少しいいですか?」



 多々良は驚きの表情で前に立つ三雲達を見た。


 声を掛けられた事もだが、反応を感知してからの対策部の動きが予想以上に早かったからである。


「えっと……なんでしょう」


 三雲らも、彼の小柄さと困惑を含んだ返事に思わず警戒を解いていた。


「呼び止めてすまない。怪しい者ではないんだ」


 銅が前に出て警察手帳を見せ、会釈をする。


「聞きたいんだが、この路地で誰か見なかったか?」


 多々良は路地へ振り返り、首を傾げてみせる。


 三雲らは視線を奥に向けるも、暗闇の中にうごめくものは無い。


「いえ、奥までは行ってないので……少し前にものすごい勢いで走っていく人なら見ましたよ。入口の方へ行ったと思いますけど」


 捜査員らはその言葉と同時に、確認のため移動を開始した。


 銅は一礼して、その後ろへ着いていく。


「ありがとう。余計なお世話かもしれないが、ここは危険だ。君が来るような場所じゃない」


 三雲の助言に、多々良は笑みを浮かべた。


「そうですね、ちょっと迷っちゃって……友達が来るので、彼を頼りに帰ります」


「ならいい。気を付けて」


 三雲はそう告げ、入口へと向かう。


 その背を少し眺めたのち、多々良も安心したように息を吐いて、ゆっくりと同方向へ歩き始めた。



 入口には、それらしき人影は無い。


 横切って出て行く者の足取りはおぼつかず、こちらに見向きもしない始末である。


 それらを確認していた捜査員も、流石に呆れの混じった表情で周囲を見ていた。


「どう考えても、この周りにはもういないみたいだな」


「ええ」


 二人の視線の先に、パトカーが見える。


 甲高い、唸るようなサイレンを鳴らしながら、人混みを蹴散らして歓楽街を進んでいく。


「これからビルの周辺を封鎖してもらって、回収班と清掃班を入れます」


「とりあえず、諸々はそれからってとこだな」


 パトランプとネオンの光を浴びながら、二人は現場へと戻っていく。



 二人の横を通り過ぎ、多々良は武田と合流する。


「二人乗りは……流石にやめとくか」


 武田の苦笑いに、同調するように笑いながら頷く。


「帰ろう、今日はもう現れない」


「だな」


 スクーターを押しつつ、歩き始める。


「帰って飯食いてぇよ」


「そういや僕もまだだった、早く帰ろう」


 歓楽街から、先ほどまでとは違う困惑の混じった声が聞こえていた。



 男は自分の見た光景が未だ信じられずにいた。


 この世の物とは思えない存在が、事務所にいた人間を全て殺してしまったのだ。


 ドアを開け、状況を見た直後にはすぐに走り始めていた。


 震える手でスマートフォンを操作し、電話を掛ける。


「も、もしもし……」


 信じてもらえるとは思えないが、男には最早すがる先が一つしか無い。


 駅へ入り、ホームへ真っすぐ歩きながら言葉を紡ぎ、説明を始める。



 福島美奈は、これ以上ない驚くべき光景に自宅のドアを開いたまま、固まっていた。


 点いているはずの無い廊下の淡い黄色のライトは輝き、それに照らされているのはここにいるはずの無い男であったからである。


 二年前に別れたはずの、役者崩れの元恋人・柴田が部屋に上がり込んでいたのだ。


 以前使用していた上下のスエットを、処分していなかった事をこれ程後悔する日は無いだろう。


「おう、悪いな。上がってる」


 そう告げると、何事も無かったかのようにキッチンへ移動した。


 ドアを閉め、素早く靴を脱いでキッチンへ向かい調理を再開する柴田にローキックを放つ。


「上がってるじゃ……ないでしょ!」


「痛ってえ! 火扱ってんだぞ俺は!」


「勝手に家に上がっといてその態度? ってかどうやって入った訳?」


 柴田は律儀に火を止め、ズボンから合鍵を出す。


「これ。まだ鍵穴変わってなかったから」


 スウェットの処分などどうでもよくなる程、鍵穴を変えていない自身の浅はかさを福島は後悔していた。


「だからって連絡も無しに入らないでよ」


 柴田は気にする事なく、火をまた点けた。


「悪い。色々あって急いでたんだ」


「何? 女と揉めた?」


「……まあ、そんなとこ」


 どうせ本業じゃない所で女から金をせびって暮らしていて、遂に追い出されたとかそういう理由だろうと、福島は嘲笑の声を上げた。


「悪いけど、お金なら無いよ」


 忠告しつつ、キッチンから離れてリビングへ向かう。


「金じゃねぇよ。少しの間泊まらせてくれ」


「それくらいなら、いいけど」


 リビングは一目で全体を見渡せる程の広さだが、テレビの横には観葉植物が置かれていたり棚の上には動物を模した小さなフィギュアが置かれている。


 最近購入したテーブルとソファも投げ捨てた服が置かれているなんて過去を想起させる状態で無く、安堵の息を吐いた。


「おう、悪いな。今ってまだ一人か?」


 一人か? じゃあ無いだろ――福島は余りの無神経さに何故こんな男に惹かれていたのか、自分の見る目の無さに失望していた。 


「じゃなかったらアンタを今すぐ追い出してる」


「だよな」


「だよな、じゃねーだろ!」


 福島はソファにあるクッションを掴み、投げる体制に入る。


「待て待て! 火! 火使ってるから!」


「ウチの火だ! 金払え!」


「飯作るから! そこを何とか!」


 二人のやり取りの間で、ケトルの湯が沸いていく。



 多々良が家の戸を開く頃には二十二時を越えていた。


 音に反応して目を覚ましたのか、リビングから男が顔を出す。


 四十程の、ウェーブの掛かった髪と白い肌が印象的な男は、息子の姿を確認して眼鏡の奥にある優しげな眼を細めた。


「おかえり。ご飯温めるよ」


 多々良も靴を脱ぎながら笑みを返す。


「自分でやるから大丈夫だよ」


「ごめんごめん、僕らもいつの間にか寝てたみたいで」


「先に寝てていいよって、いつも言ってるのに」


 申し訳なさそうに言うと、父は優しく頭を撫でた。


「とはいえな……あ、風呂沸かしてくる」


 入れ替わる形で、リビングへ入っていく。


 テーブルに突っ伏して寝ている母の横に置かれた自分の食事を持って、多々良は隣接しているキッチンへと移動した。


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