不適合者
「おはよう。リン、ソラ」
「おはよータカにぃ」
「おっおはよう」
「ここで寝ちゃったか」玄関の入ったすぐの廊下で起きた僕は、自分に呆れていた。
僕は、布団を収納する。
「あっあれさっきまでここに」と慌てているソラの頭をワシャワシャと撫でて「食事にしよう」と奥へと連れていこうとしたのだが「軽く食べちゃった」とリンが言う。
ソラを見ると、顔を少し反らしながら頷いているので、お腹がある程度満たされてることがわかる。
お腹が空いている僕ではあるが、我慢できないこともないので、ご飯はいいやと思いふと、生姜があるのを思い出した。
「生姜、んーちょっとしまってくるからここで待ってて」と奥へといく。
農場の画面を見ると、どんどんと飼育や生産が進んでいて、どんなに頑張っても3人で消費できる量ではなくなっている。
生姜から生姜の種を製作し画面に預けることで、直ぐに生姜の生産が始まった。
画面を確認後、直ぐにリンの所まで戻ると、玄関で靴に履き替え外に出る。
目の前の光景は、建物の玄関から一気に森の中へと移動する。
またも、フリーズするソラをよそに、「あっダンジョン」と反応するリン。
「ダン?ダンジョンって」「あれだよ、あの黒い影みたいな入り口」
「影?黒い?何処?」見えてない様子。
僕は、落ち着いてソラをステータス画面から仲間に入れると、ダンジョンの入り口に近付く。
最初はダンジョンの見学程度をしてもらおうと思ったのだが、ダンジョンの入り口に書かれているダンジョン攻略するための人数が、2人になっている。
3人ではなかったのだ。
大きな木に張り付いている入り口を指し「ソラ、この木何だけど」「普通の木ですよね」と言う返事であった。
どうやらソラはダンジョン攻略できない人であるようだ。
ダンジョン不適合者という感じのものだろうか。
これは、想定外であった。
僕は、リンと顔を会わせどうしようか悩むものの、こんな森にソラを置いてダンジョン攻略も出来ないので、一旦屋敷に戻ることとした。
屋敷の奥へと進み、秋の季節の紅葉が見事な書簡の間を通りすぎようとしたとき、突然ソラが座り込んだ。
どうしたのか聞いてみると、目が覚めてからというもの、目の前にあるはずの無いものが突然出てきたり、消えたり、場所が急に変わったりとかなり困惑しているとのことだった。
その内馴れるだろう等と考えずに説明してあげたいのだが、日常を説明するのも一苦労なのに、非日常をどう説明して良いかわからない。
どうしようかと思い、こういう時に便利なエンちゃんに丸投げしちゃうのも良いかもしれないと、エンちゃんを呼び出してソラに説明を頼む。
エンちゃんに説明してもらう間、僕達は何をしようかと思うわけ何だが、「ダンジョン攻略よりも、出来るだけ近くに居てあげて」とエンちゃんが言うので、「この先の部屋で食事でも作ろう」ということになった。
食堂に入ると直ぐに画面をチェック。
先程の生姜が見事に育っている。そして、収穫もされていた。
生姜の収穫物は2つ。根生姜と言われる物と、葉生姜と言われる物だ。
と、僕にはよくわからないのが現状である。
根生姜は、最初に僕がもらってきた生姜と同じだろうが、葉生姜が気になったので出してみた。
緑色の茎の先端に着いたピンク色を放つ根っ子があるものだった。
どう食べるのか、リンに正確にはリンのスキルに聞いてみた。
考え事をするリンから出た答えは、そのまま味噌をつけて食べたり、肉を巻き付けて焼いたものを作ったり、酢漬けにしたものは、お寿司のガリにしたりするとのことだった。
「お寿司のガリか」と呟いていると、「お寿司って何?」と聞かれた。
「んー簡単に言うと酢飯に魚等の切身を乗せたものだよ」「美味しいの?」
「この前の海鮮丼どうだった」「美味しかった」
「海鮮丼を小分けにしたようなものかな」「へースキルで作れるかな?」
「リンなら出来るのでは?Mp沢山貯まってるだろ」「そう・・・だね」
「どうした?」「何かお寿司のランクって高いんだよね。寿司今ある物全部使って作ってみたい」
「全部?スキルでか」「スキルも使うけど、基本手で」
「き、気持ちはわかるけど今度にしよう」「何で?」
「種類多いし、ほら今日はソラもいることだし、ねっ。他ので」「むー良いよ。でも今度は絶対作るからね」
「わかった。じゃ、Gクラスのダンジョンが後2つだから、それが終わったらということでどうだ」「良いね絶対だよ」
「でも、そうすると今日はどうする?」「鰻なんてどう?」
「何処から出てきた」「ん、寿司ネタの1つなんだけどこれもランク高いし」
「確かに、串打ち3年裂き8年焼き一生って言うくらいだからね」「何かすごいね」
「スキルとMpでどうにかなるリンが凄いけどな」「まーね」
と言うわけで、作ることになった。
白いご飯は、何時でも炊けてあるから良いとする。
鰻を取り出すと、いつのまにか用意した桶に入れ、1匹ずつ取り出すと、リンの小さな手からニュルッと逃げ出せそうな程元気なのだが、不思議とリンの手から逃げれずバタバタしていた。
まな板から出ている串に頭を刺すと、驚くほど小さな包丁を取り出した。
鰻包丁だ。
鰻の背を自分の方に向けさせ寝かすと、頭に近い部分から包丁を入れ一気に尻尾まで裂く。
続いて、ゴキゴキと音をたてながら骨を切り離し、肝を取り肝の近くにある骨を透くと頭を落として、次の鰻を同じ手順で捌くのであった。
鰻のタレは、鰻の頭と醤油、酒と味醂、砂糖を交ぜスキルで一気に作り上げていた。
肝は、調味料と三葉を使いサクッときも吸い作っていた。
裂いた鰻に串を指し、素焼きに。
素焼きにした内の半分を蒸して、タレ付けまた焼いていた。
後は、ご飯に載せて鰻丼ときも吸い、鰻の白焼きはワサビ醤油を付けて完成だ。
僕は、喉をならす。
鰻は、専門店で食べたことないし、ましてや白い鰻とはなんぞやと思うのだ。
そこに、ソラが入ってきた。
どうやらエンちゃんの講義が終わったようで落ち着きつつもキョロキョロしている。
「ふ、ふつつかものですがよろしくお願いします」言わされたのかなと思いつつ「よろしく。色々慣れていってね」と僕。
「よろしく~」とリンが言うと何かが違うように聞こえる。
テーブルの上に並べられた食事を見てキョトンとするソラ。
「これ、何ですか?」という質問に、リンと僕は顔を見合わせ笑ってしまった。
その後、軽い説明をして食事になったのだが、箸の使えないソラに対し、エンちゃんが何かを企んでるような感じがヒシヒシと伝わってくる僕なのだが。
そんなことよりも、僕は初めての鰻の白焼きの美味しさに驚きを隠せず、ほっぺが落ちるのではないかと心配してしまうのでした。