とある村で
「リン、疲れたか?一旦戻る?」「んーいいよー戻らなくってファー」
大きな欠伸で話が途切れる。
疲れていないと思っていても、体が正直に反応してしまうものである。
「助け・・・て」突然の声にビックリする。
ここは、人里離れていた上に人がいないと思っていたから空耳かと思いたいところだったが、リンも声に反応していた。
振り向くと、そこにいたのは少女である。
年の頃は、リンより少し上のように見える。
服はぼろ布を纏っているだけであった。
近寄ってくる女の子の後ろから大勢の大人の男達が走ってくるのが見える。
体力の限界と言わんばかりに倒れ混む少女を抱えると、男達が近づいてきて怒号が飛び交った。
「手間かけさせやがって」「おい、そいつを寄越せ」みたいな感じである。
はいっと渡してしまうのは簡単なのだが、どうにもそういう感じにはなれなかった。
話を聞こうにも興奮する男達から要領が得られない。
ただ、この子が盗みを働いたということが読み取れるくらいである。
リンが、この子を助けたいと言ってくるので、この子をどうするのか聞いてみると、取り合えず村まで連れていき、処分を決めるとの事。
だったら僕らも着いていくと言うと、余所者には関係ないと言われたが、関係ないならこのまま連れていくと言うと、相談し始めた。
結果として僕も一緒に行けることになったのだが、「腰の物をこっちに渡してくれ」とのこと。後で返してくれるそうだが。
僕は、刀をみる。
炎の刀ではないが、僕が最初にこの時代に来たときに手にした刀だ。
加工を施し強化されていたので、手に取り加工し直し普通の刀にして素直に渡した。
すんなり渡されたのか、どよめきがあったが「着いてきてくれ」と言われ素直に着いていく。
歩くこと2時間ほどで、集落の様な村が見えてきた。
村に入ると、村人が集まってくる。
それを横目に、僕達は村のなかでも一番大きな家にと入っていった。
通された部屋で、女の子を寝かす。
水の入った容器に、少量の塩と砂糖を交ぜ、ごく少量のポーションを混ぜたものをリンに渡し、女の子にゆっくり飲ませた。
熱中症と水分不足には糖分と塩分が適量含まれる水が良いらしい。
顔色が戻り始めた頃、村長と思われる年老いた人物と刀を渡すよう要求した男性が入ってきた。
「で、そいつがあいつを連れていきたいのだな」「はい、そうです。お父さん」
「おい、お前。ワシの大事な村人を連れていこうなど出来ると思っているのか?」全然感情のこもっていない声でこんなことを言われてしまった。
「村に迷惑かけたんですよね。だったら」「だったらなんだ」
「僕が引き取ります」「ほーで」
「で、とは何でしょう」「そいつを引き取るのだろう?対価は?」
「対価ですか」わかるはずがない。
対価は時代で変わるし、下手すれば個人でも変わる。
ぶっちゃけよう「何となら交換してくれますか?」
ニヤリと笑われ「銭だな。1000枚頂こう」
お金だと思わなかった。
リンの時は、物との交換であったから。
簡単に出せるのだが、どうしようと躊躇していると、ジャラッと音がしてリンが1000枚お金を出しているではないか。
軽くフリーズする僕と、絶句する村長とその息子。
「これで良いでしょ?行こう」とリンが言うが「こ、この子がこんな感じですので一晩泊めてください。明日の朝には出ようと思います」
「だ、駄目だ。直ぐに出ていけ」「お父さん」
「ひ、一晩泊まっていくなら対価払え」「そーですね。そちらの刀を差し出すでどうでしょうか?」
「好きにしろ。ただし、早朝には出ていけよ」「はい」
と、交渉成立したので、女の子を引き連れて、女の子の使っていた家へと移った。
日が沈んだのであろう。急激に暗くなり、火の無い家の中は、真っ暗になってしまった。
女の子は、安堵したのか既に眠りモードである。
「ご飯はー」とリンが言い僕もご飯は食べたいところだが、リンまでウトウトし始めたので、3人分の布団を敷くと、僕も寝ることにした。
どの位寝ていただろう。
空腹で目を覚ます。
2人の寝顔を確認し、はだけた掛け布団を直していると、ガタガタという音がした。
木戸の方に目をやると、ユラユラする何かが動いている。
木戸を開けると、そこには村長の息子さんがいた。
「こんな時間に申し訳ない」「良いですよ。ここでは難でしょ」と快く家にあげる。
空腹を満たし損ねたが仕方のないことだ。
「そんな所にいないで、こちらにどうぞ」と布団の上に案内する。
松明替わりに持ってきた火は弱々しくも辺りを照らし出す。
庵に松明を置き、布団の上に座り込むも固まってしまった。
「や、柔らかい布団ですね」「それはどうも。で、どうしたんですか?」
「そ、そうでした。話しておかなくてはと思いまして」「何をです?」
「この娘、ソラについてです」「あーこの子ソラって名前なんですね」
「聞いてませんでした?」「えーまー。で、この子がソラがどうかしたんですか?そういえば盗人とか言ってましたっけ。そうは見えないのですが」
「盗人と言えるのか、これを見てもらって良いですか?」と、茶色い塊のようなものを取り出す。
手にするも固そうな物以外よくわからないが、匂いが漂い正体がわかった。
これは生姜で間違いない。
「これは?」「これは、ここ数年この村が密かに育てている物です。少量でも良い取引が出来るので大切に育てていたのですが、去年1つ足りなかったのです」「それをソラが盗んだと?」
「えーただ、ソラが言うには、植えるのを手伝っているときに懐に数個入れて植えていた。植え終えたとき1つ懐に残っていたのを気付かずに家に帰ってしまい恐くて返せなかった。種を持ってこけて半分に割ってしまった。仕方なく自分で植えたとのことでした」「で、育ったの?」
「はい、それが見事に大きく育ちまして、育ったものを返しに来たんです。ソラが」「良かったじゃん」
「それがそうもいかなくて。ソラが育てたものを見たお父さんが憤慨しまして」「何故?」
「私どもの育てたものが、今年は小さくてですね。怒ってたところにソラの物を見て、やれ盗人など自分だけ儲けようとしたなどと言い出しまして」「なるほど」
「しかし、今年はどうして小さく育ってしまったのか?去年同様丁寧に育てましたのに」「・・・それって同じ場所で育ててます?」
「えーまー。そうですけど」「んー連作障害」
「れん?何ですか」「えーと同じ場所で同じ物を育てると、段々育ちが悪くなる物なんですよ」
「そういうものなんですか?」「そういうものです。なので、少しずつでも場所を変えながら植えることをお薦めしますよ」
「そうなんですね」「えー所で、それ譲って貰えませんか?」
「駄目ですよ。お父さんに怒られてしまいます」「まさか、これが残り1つとかじゃないですよね?」
「そんなことありませんけど」「じゃ、良いじゃん。1000枚でも100万枚でも良いよ」
「そー言われましても」と言って生姜を持ち出ようとするので、つい首をトンってしてしまった。
見事に気絶する村長の息子さんを布団に寝かすと、寝ているリンとソラをバリアで囲み、屋敷へと移動した。
ソラが入れるか心配だったけど、何の心配もなくは入れた。
適当に寝かすと、僕は元の場所に戻る。
松明替わりに持ってきた火を消すと、木箱を造りそこに100万枚のお金を入れる。
エンちゃんに聞いたところ、自分と一緒なら地図で行ったところなら何処でも出入り可能とのこと。チートだよ。以前は入ったところからしか出られない感じだったけど、移動距離が延びたおかげで出来るようになったようだ。
生姜を収納すると、おにぎり弁当を食べ、バリアを張り村を出て次のダンジョンまでダッシュした。
ダンジョンに着いた僕は、直ぐに屋敷に移動すると、ゆっくりと爆睡するのであった。
あさの陽射しに、目を覚ますと、僕の傍らでリンとソラが仲良く覗き込んでいたのである。
「「お腹すいたー」」「だろうね」