ボランティアという依頼3 鷹仁
飛行機が着陸した。
北の大地、北海道から一変して南の島沖縄。
空港での手続きを終え、外で待っている車に乗り込む。
「改めて。私は公安の者でございます」「今回は最初から公安が出てくるんですね」
「えー北海道では、急すぎるのと規格外の出来事で公安も後手後手になってしまいました」「それで、北海道では最後の方に出てきたんですね」
「そーなんですよ」「それで、今回は何をすれば良いのです?」
「今回といいますか、今回を含む残り全て撤去作業をしてもらいたいとの事でしたよ」「撤去ですか」
「えー直ぐに撤去しなければならないという物ではないのですが、撤去するのに色々問題がある建物でして」「問題とは」
「石綿ですね。聞いたことありませんか」「何となく。石綿を吸い込むと肺をやられるみたいな感じですよね」
「細かくは知りませんが、そういうことです」「で、何で僕が撤去することになったんですか?」
「さー上の考えてることは、わかりかねます」「そーですか」
車は街と思われる所を走っている。
大きな集合住宅が見えてきた。
それを数えると5つくらいはあるだろうか。
「ここがさっき話した撤去してもらおうとしている建物に住んでた人達が移り住んでいる所です。全員ではありませんがね」「というとこの規模の建物を撤去しろと言うのでしょうか」
「えーその通りです。よくわかりましたね」「えーまー」
自分が買わされたマンションより大きさだけで言えば大きい。
それに1つでなく、複数撤去するってどんだけだろうと思ってしまうのは無理もないと思う。
ふと外を見ると、急激に家が少なくなり、舗装されてる道路を走ってはいるが木々が生い茂る所にきていた。
そして、目に入るは、大きな建物が6棟ある壁で囲まれた集合住宅跡地である。
立ち入り禁止の看板の向こうは、雑草で覆われ所々木も生えている有り様だ。
「お願いします」と言われ、正気かと思ってしまう。
しかし、出来るだろうと思っている自分がいて、今度は自分が正気では無いと混乱しそうになった。
「そうそう」と話しかけられ、思考が止まる。
「ハブがいたら・・・」いたら何だろう。ハブ酒でも作れと言うのだろうか?
「ハブ酒作って。これハブ酒用に用意した」透明感ある液体の入った物を渡してくる。しかも3本。
この人は無茶を言うのが好きなようだ。もう何でも良い。
僕は、薄くバリアを伸ばし、壁ごと集合マンションを囲む。
バリアの中は、手に取るようにわかる。
「まずは、ハブを」順番逆と、つっこみたい。
ハブを5匹バリアの中から取り出すと、3つの瓶に詰め込んでみる。
一番大きいの1匹と、後は2匹づつだ。加工も忘れず続ける。
他の生き物は逃がして良いとの事だったので逃がし、地中にある基礎部分から含め全て収納した。
ハブ酒が出来上がる頃、目の前の建物は綺麗に無くなり基礎部分がすっぽりと抜けてるだけの土地へと変わる。
今回の報酬は、回収物の全て。
廃コンクリートや金属類は再利用できるから業者に売れる。
修理すれば売れるであろうものは、自分の店に持ち込むとして、沖縄特有の置物等喜ばれるかもしれないと思う。
ただ、問題の石綿は今回破棄してしまおう。
リサイクルできないものは、燃える物が意外と多いというのも不思議に感じたものだ。
人がスポッと落ちてしまいそうな穴は塞ぎ、これで依頼完了だ。
「あっ終わってる」間の抜けた言葉は、ハブ酒に気をとられてた今回の運転手。
思考が追い付いてこないのか、遠い目になってしまい、或いはハブ酒が飲みたいだけか「次の目的地に向かいますか」とだけ言葉にする。
僕自信、沖縄は始めてだし、依頼が終わったのであれば観光やご飯を食べたいなと思うのだが、沖縄ってゴーヤとか海蛇とか食卓に並ぶのだっけと勝手な想像すると食欲も落ちるってもんだ。
「つ、次って何処ですか?」まだ午前中だが、沖縄を発つことにした。