死神達の話し合い
ここは、会議室。
死神のお偉いさん達が集まり会議をしている。
議題は、魂を二つにされたうちの1つ時空間に入った魂についてであった。
円卓の大きな机の回りに十数名の死神が話している部屋の隅で固まっている2名の死神がいた。
2名の死神とは、魂を二つにした若い死神とその先輩にあたる2人である。
最高責任者である死神が、この時代に残った少年がどうなったか訊ねてきた。
先輩が答える「昨夜遅く目を覚ましたので、事実を理解させました。朝方自らスキルをつけ終えましたので、問題無いと思います。また、重ねてこの報告を持ち任務完了とします。」
「あいわかった。ご苦労・・・ということは」
「やはり問題は、時空間に入った魂だな。何事もなく消滅してくれたらいいが。」
「それは、望みが薄いな。このまま放っておくわけにもいかないし。」
恐る恐る若い死神が「自分が確認してきます。」と言ったが、怒鳴り声が返ってきた。
「お前に時空間に入った魂の後を追跡できるのか?それに時空間に入ったらもとの時間に戻れなくなる可能性が高いんだ。」
死神でも、時空間は自由に出入りできないようだ。
一方会議室の出入り口外側で、番をしている2名に近づいて来る杖をついた老婆の死神があった。
その老婆は、「そこを通してくれんかの。」と言った。
「今は会議中ですので、お通しするわけにはいきません。」
「そうだぜ。ここは通れないからとっとと帰りな。」
「こやつは誰に向かって口をきいてるのかね?」と老婆が言う。
ハーっと老婆をにらみつけようとする方を、一発拳骨をくれたもう一人の死神が姿勢をただし「申し訳ございません。前の最高責任者にして現相談役のオババサマとお見受けします。」
「ウム。そのオババが自ら来ているのだ。いいから通せ。」
「しかし、・・・」ガチャと音がして、部屋の中から扉が空いた。
「お前等、うるさいぞ。会議中なのだから・・・オババサマ。」
「中に入らしてもらうぞ。」といって部屋の中に入っていった。
円卓の机にいた死神達が一斉に振り返りる。
最高責任者である死神が「相談役この様なところへ何しに・・・」と聞くとオババが「この度は、孫が迷惑をかけてすまなかったのー。どうなっているのか状況を説明してもらえんかの。」と言うので、机の上に映像を流しながら説明した。
「はて、この斬られた少年に見覚えがあるようなないような。まーいい。この任務ワシにやらせてくれんかの。」
「オババサマがしていただけるのならば有難いのですが、そのー色々と大丈夫なのですか?」
「ワシは後1年ほどで寿命となる。それに死んだところでチリとなり消えていくだけだ。おそらくこの時代には戻れんだろう。孫がしたことじゃて、ワシが責任とっても問題あるまい。それに、あまり時間が経つと魂の追跡が出来なくなる。後魂の行き先に心当たりもある。本日現時点をもってワシは相談役を辞任する。孫よ、二度とこの様な事をするでないぞ。後は、任せた。」
そう言うとオババが鎌を振り上げる。
一同立ち上がり「いってらっしゃいませ。お気をつけて」と言うと、オババは鎌を振り時空間を開き中へと入っていった。
静まり返る会議室の中、しばらくして最高責任者が「今回の件は不問に処す。これにて解散。」と言う言葉により皆が会議室を後にした。
若い死神は、目の前の出来事についてゆけず皆が会議室を出ていった後で座り込んでいたのだった。
時空間に入ったオババは、魂の通過した痕跡を探す。
と言っても、時空間に入り込む魂など皆無に等しいのですぐに判った。
魂が肉体から離れて約1日たっているので十分な距離を移動していると思われる。
しかも、さ迷う様な動きをしていない所を見ると何らかのところへ引き寄せられているのだとオババは思った。
そして、オババには心当たりがある。
あれはオババが若かれし乙女だった頃、時代は平安あたりになるだろうか。
とある商人の船が転覆して多数の死者の魂を回収する任務に行ったときの出来事である。
ある島の浜辺にうち上がった死体から魂を鎌で刈っていたとき、リストにのってない1人の少年の魂まで刈ってしまった。
間違いに気づいたので、体に戻そうとしたとき、魂の方から提案があった。
魂曰く、船に乗っていた両親を亡くし兄弟もいないので、このまま生き返っても生活できないと思う。
このまま死なせてもらうか、あるいは魂のままあなたと一緒にいたいとの事だった。
「なぜ私とともに?」と聞いたところ、一目惚れだそうだ。
とは言うものの、この少年転覆事故の時に受けた傷が元で後1ヶ月ほどの寿命しかない。
なので、私はこう提案した「ソナタの体に秘術を施し、魂を戻せば私が生きている間は不老不死になれて、私の友達として生きて生きていけるがどうだ?」と。
「不老不死などと、生き地獄です。体に秘術を施し僕が寿命のある間は、腐らないようにしていただければ、幸いです。」と言ったので秘術を施し岩の形をした殻のようなものに体を納めた。
そして、1ヶ月が過ぎて無事少年の魂を成仏した私は、秘術を施した体の秘術を解き墓を建てようとして戻ってきて驚愕した。
体はおろか、岩の形をした殻ですら綺麗に消えているのだ。
痕跡すらなく、周辺をくまなく探したが見当たらないので諦めた。
そして、なかったものとしてその場を去った。
オババがそんな昔の事を思い出しながら魂の追跡をしていると、1つの歪みから外に出る痕跡が見えたのでオババも外に出る。
さらに追跡を続けると、島の上に着いた、そう例の島にだ。
島の浜辺に降りたオババは辺りを見渡す。
船の残骸やら死体やらあったはずだが、島の住人により火葬されて埋められているようだった。
改めて目の前にある岩の形をした殻を見ているとヒビがはいり中から少年が出てきた。
少年は、老婆を見つけるとこうきりだした「ここはどこでしょう?というか、あなたは死神ですよね。僕は死んだのですか?」と。
「お主は、死んでない。」
「どうなっているのか説明して頂けますか?」
「ウム。お主の魂は死神の手違いにより体を離れて時空間に入った。その後この体に漂着したようだな。ここは、お主が住んでいた時代を遡った平安時代と呼ばれる時代で相模湾に浮かぶ島じゃ。」
「もとの時代には」
「戻れん。ワシも戻れん。」
「どのように生きれば良いのです?」
「その事なんだが、お主には死神からのお詫びとしてレベルとスキルを解るようにしてあるのでそれを駆使してほしい。」
「どのようなものなんですか?」
「ウム。知識をあげよう。」そう言うと少年の頭の中にレベルとスキルの知識が流れてきた。
[種族]人間
[名前]鷹之助
[性別]男
[職業]無職
[Lv]1
[Hp]33
[疲労度]0
[Mp]33
[体力]15
[知力]20
[力]10
[敏捷]6
[器用]3
[スキル]持ち物1・装備1・加工1・スキル取得1・職業変更1・収納1・農作1・鑑定1・日本語65
[特殊スキル]不老不死
名前は体の持ち主の名前らしい。
変えてもいいそうだが、気に入らない名前でないのでそのまま使うことにした。
そして、農作のスキルと鑑定のスキルは、農作物を育てる本と鉱物の本が時空間を通っている間に魂と融合してスキルとして発動できるようになっていた。
そして、秘術を施した体は不老不死になっていた。
不老不死と言っても、首をはねられたり胴を断たれたら死んでしまう。
ただ、猛毒を盛られたとしても死ぬことはないなかなかのチートなスキルである。
オババが言うには、治安が良くないから剣術のスキルを取得する事をお薦めしてきた。
そして、剣術スキルを取得するなら、プレゼントできるものがあるという。
剣術スキルを取得すると、オババが浜辺の砂の中から一振りの刀を取り出して手渡してきた。
船が転覆して、それでも何とか海水に浸けずに守り抜いたものの、力ついて亡くなった侍の物らしい。
鑑定スキルを使用しても(鉄の刃物)としか出てこない。
これは、鑑定スキルが低いからである。
最後にオババがレベルとスキルを鍛えるのに取って置きの場所があるとのことで島にある神社を探すようにいってきた。
僕は、神社を探して歩き出す。
ある程度僕を見送ったオババは、何か呪文のようなことを呟きながら鎌を振り上げる。
辺りが眩しい光に包まれしばらくするとおさまった。
すると、オババが空へと飛んでいくのが見えた。
二度と会うことはないだろうと思い、神社に向けて足をはこぶのだった。