ボランティアという依頼5 鷹仁
西に向かう電車の中数時間、僕はひたすら不法投棄されていた物を修理していた。
家電製品は、比較的楽だ。
基板さえしっかりしていれば修理し、基板がダメなら諦め資源や修理する材料へとまわす。
家具類も直していく。
継ぎ足ししたり、ばらしたり、目まぐるしい。
次は、人形か。
一部のフィギアもそうだが、絵で描いた服ではなく本物の生地を使っているけど、修復できないくらいボロい。
なら、大量に捨ててあった着物を加工しよう。
価値もわからず棄てるから、西陣織や大島紡ぎなど存在する。
無造作に捨ててあるとはいえ、重ねてある部分は他の物を犠牲にする形で守られていた。
ただただ腐るのを待つだけの着物にとって、一部だけとはいえ日の目を見るだけでも、救われるのかな。人のエゴかな。
しかし、これはこれで楽しい。あっ着物足りない。
洋服の生地でもいいかなー。
スーツの、学生服の生地をって、日本人形が現代人形になってしまった。同様に外国の人形やフィギアも直していく。
最後に残ったのは、プラモデルである。
プラモは、数もだが、種類も多い。
元々、作られていて、壊れているものは今回破棄処分とした。
その上で、未開封のプラモを選別する。
もっとも多いのは車や飛行機、電車など現在の使用されている乗り物だ。次に多いのがアニメなどに出てくるロボットや船等である。
戦時中に使われた戦車や戦艦、戦闘機等に続き、世界遺産建築や駅、日本をはじめとした城など多岐にわたる。
1つ1つ丁寧に作る気はない。
取り出すーバラすー組み立てるーMp加工による表面変色加工による色付けで修了。
所要時間やく3秒、1時間で1200個ほど作るペースで作ってたら全部作り終えてしまった。
若干の仮眠をとると、目的地の広島についた。
電車を降りると空には、太陽が居なくなりすぐに暗くなりそうだ。
駅を出て、空を見ると真っ暗であった。
「で、どちら様?」「お待ちしてましたわ。ささっこちらでございます」
数人の男性に囲まれた中に1人、女性に声をかけられる。
その女性は、僕の手をとるなり引っ張られるように近くに停めてあった車に押し込まれた。
既に運転手がおり、もう1人助手席に若い男性が乗っている。
さっきの女性も、後ろの席の僕のとなりに反対側の扉から入ってくる。
次の瞬間、僕は襲われた。
そう、襲われたのだ。
その女性に。
女性の激臭に。
さっきまで、全く気付かなかった。風向きとか偶然が重なっていたのだろう。
ただ、今は車という小さい密閉空間である。
1分は耐えた。2分は耐えれず窓を開けさせてもらった。
3分で絶えた。車を停めてもらい迷わず外に出る。
外の空気が美味しい。
「大丈夫ですか?」最初に声をかけてきたのは助手席にいた若い男性だ。
「なんとか・・・」
「ちょ大丈夫?酔った」こんな短時間で車酔いは無いだろうし、女性も心配そうな顔をして声を掛けてくれるのだが、大丈夫ではない原因がアンタだとは言えず困る。
「悪かったな。小僧。そのなんだ、こいつが臭くて」運転手が一応謝ってきた。
小僧と言われたショックより、原因をしっかり指摘してもらえて嬉しかった。
納得いかないオバサンは運転手に食って掛かる。
「臭いってなによ。いい匂いでしょ。使ってるの香水高かったんだから。満遍なく振り掛けてあるし、化粧だってバッチリよ。女性のたしなみよ」と、自覚ある正当化のような論理。
「何が女性のたしなみだ。ただの公害だ」ズバリ正論。
って、僕はこんな茶番を見に来たわけではないのだが、と思っていると肩を叩く若い男性がジェスチャーで着いてこいという。
こっそりと言い争いしている2人から離れていき、小路に入ると近くの駐車場に停めてある車に乗り込んだ。
「もー逃げられたじゃない」「いいから早く探せー」外から声が聞こえる。
「お姉ちゃん車だそう」「うん」助手席にいた女性から声がした。
「そろそろ説明願えますか」「まず、俺達は名乗らなくていいと聞いてるのだが」
「名乗らなくていいですよ。僕がなにをやればいいのか知りたいだけですから。それと、何で僕の争奪戦みたいなことが起きてるか、僕が納得すれば本当の説明までしなくてもいいですよ」
説明によると、今まで関わってきたのは、全て広島の役所の人間であること。
今回、僕にして欲しいことが、建物の撤去か使わなくなった農場の再興かで揉めたとのこと。
決断のでないまま僕が到着したから、早い者勝ちになってしまったとのこと。
「それとー」と話は続いた。
今、車を運転中の女の人は、助手席にいる女の人の実の姉だが、一般人であるとのこと。不味くないと思ったけど続きがあった。
ライセンス保持者ながら、ダンジョンを攻略したことがないということだ。
これを期に攻略してみたいから手伝って欲しいということであった。
「これって公私混合では?」「そうとも限らない。もし、ダンジョン収入が増えるなら嬉しい限りだ」確かにその通りだと思うけど。
「今日はもう遅いですし、明日でもいいじゃないですか?どこかいきたいとこあります?せっかく広島に来たのですから」運転手が声を掛けてきた。
何処か、ポピュラーだと原発ドームに厳島神社かな。
軽い気持ちでそう言ってみると、ライトアップされてる時間だし行こうということになった。
原発ドーム。
平和を語る上で、欠かすことのできない建物の1つ。
「中はどうなってるのかな?」「あーそれだったらグルグルするマップで見れますよ。さすがに中には入れてくれませんがね」
後で見てみようと思いつつ、二度とあってはならないドームを目に焼き付けて後にした。
移動し、フェリーに乗りさらに移動すると見えてきた。
厳島神社。
流石に中に入ることは出来ず、ライトアップされてる神社を少し遠くから眺めるだけであった。
海に浮かぶ社や鳥居は見事であり、ちょっとした幻想を見ているようだ。
「ライトアップってあの鳥居から社にかけて海の上を道でも照らすように青くライトアップされるんですね」「「えっ」」「私にもそう見える。そんなことはないと思うけど」
どうやら、僕とお姉さんには見えているようだ。
不思議に見ていると、青い道のようなライトアップは、徐々に延び始め、僕たちの方に向かってくる。
そして、目の前で円盤になった。
「乗れって事だと思うけど」「そっそのようですね。どうします?」
「正直嫌な感じがしませんね。良いようにはならなくとも、悪いようにはならないでしょう。乗りましょう」「何言ってるんだ」「お姉ちゃん大丈夫?」「大丈夫よここで待ってて」
僕達は乗り込んだ。慌てて追いかけるように近付いてきた2人だが、何かに弾かれて入ってこれなかった。
弾かれた2人は、キョロキョロとするところを見ると、既に僕たちの姿が見えていないのであろう。
円盤が動きだし、レールに沿って鳥居を潜り社と鳥居の丁度半分位のところで止まる。
すると、社からゆっくりと出てくる人影があった。
いや、人の形をした何かだ。ただしすごく神々しい。
真っ白い巫女姿に青い模様と帯をした3人の姿だ。
『力ある者が近付いて来たと思ったが、ソナタか』「僕を知ってるんですか?」
『ちょっと昔な。まーお主は知る必要の無いことだ』「心当り無いのですが、深く聞かない方がいいですね。田心姫神様」
と、ここまで話を交わしたのは、僕から見て左にいるお方だ。
日本の神々の中で、三姉妹の神様は宗像三女神だけである。
その3人の内、僕の目線で見ると左側の女神様は、真ん中と右側に比べると顔が小さく可愛い感じが受ける。
真ん中は、顔が整いすぎてるように見える。
右側は、丁度その中間で、人間の僕から見たら美しい感じを受ける。
平たく言うと、左側から、可愛い美人、綺麗美人、美しい美人だ。
3神の中で一番美しいとされている女神は、右の市杵島姫神であると思うので、必然的にそう思ったのだが只の感だ。
間違ってたらどうしよう。
『男、何しに来た?』「僕ですか、只の観光です。ボランティア付きですが。湍津姫神様」
『あーそうか』どうやら湍津姫神様は、興味を失ったようだ。
『男の方は観光であろ。女、望みがあるなら聞こう』「えっえー私。そんな恐れ多い」
『何、恐れ多いなんてあるものか。シナリオは出来上がってるのだ。此方のシナリオ通りに進み、条件通りにすればソナタは安泰であろう。男は手伝ってやれ』
どうやら、全てお見通しの市杵島姫神。
その発言に、僕は最大級の嫌な予感しか出来なかった。