23件目 私の好きな人が私の気持ちに気づかない件について。
僕は結衣さんが寝ている間におかゆを作る。
今回は卵のお粥にしてみることにします。
卵はスーパーで一番良いのを買ってきました。
月末で、やばいくらい苦しいんですけど、まぁ……真冬がどうにかしてくれることに期待します。
「とりあえず作りますかね!」
***
用意する食材は、ご飯、水、塩、真冬が今朝作ってくれたダシ、醤油、買ってきた卵、ネギ
「まずは……とりあえず鍋に水を入れて、ご飯を入れる……」
ちなみにレシピは真冬がメモしてくれてたんです。
やっぱり真冬は凄い妹です。
「で、その間にネギを切っておく」
これも真冬のメモに書いてある。
メモの端っこに時間は『有効活用!』とも書いてあり、流石は真冬だと思わせてくる。
抜かりがない。
まぁ真冬って僕の周りの女の子の中で多分、一番主婦力がありそうですよね。
アイリさんは論外として、委員長と、陽菜はできなそうですし、茜も……まぁ、いいお嫁さんにはなるんじゃないですかね。料理以外は……
考え込んでいるうちに少しずつ沸騰してきている。
「……次は沸騰してきたら弱火にする」
この時に、ダシ、塩、醤油を適量入れておく。
真冬の作ったダシは基本的になんにでも合うんですけど、何のダシなんでしょうか?
まぁどうでもいいことなんですけどね。
次に、
「水気がなくなってきて、粘りが出てきたら卵を入れる……っと」
粘り気が出てきた時にっていうのがポイント! ってメモに書いてある。
そういえば、僕と真冬が風邪を引いた時に、よくこのお粥をお母さんがつくってくれました。
まぁお母さんのことは置いておきましょう。
「それで、そのあとはかき回して蓋をして蒸らす」
いつもならもう帰ってきている時間なんですが……
また部活の応援でも頼まれているんでしょうか?
「一分くらいしたらネギを入れて完成!」
時間的には30分くらいだろうか。
もっとも時間なんて測ってなかったんですけど。
「とりあえず結衣さんのところまではこびますかね」
***
「結衣さんご飯ですよー……ってまだ寝てますね」
「…………」
結衣さんの息遣いはだいぶ穏やかになっていた。
「熱は……」
結衣さんのデコと僕のデコを手で触り比べる。
……少し熱があるくらいだろうか。
とにかくだいぶ下がっていた。
まぁあとで体温計を渡すとしましょう。
細かい体温まではわからないですから。
でもとりあえず一安心ってところですね。
「結衣さんーご飯ですよー」
「んーあと五分……」
寝言? というか、いつも通りの返事だ。
「結衣さんご飯冷めちゃいますから。ほら、早く食べてください」
「んー……起こして……」
「仕方がないですね」
僕は結衣さんを起こそうとする。
まぁ、だいぶ治ってきてるとはいえ、まだ病人ですからね。
今日はとことん甘くします。
「はいこれで良いですか?」
「うん……ねぇいっくん……」
「はい、スプーンですよ」
「ねぇいっくん」
「どうしました?」
「食べさせて……ほしいな」
無意識だろうか、上目遣いでそう言う結衣さん。
まぁ、昼もだったのでこれくらいの耐性はついてますけどね。
「はい……あーん」
「あーむっ」
とりあえず完食するまで食べさせてあげた。
「それじゃあ、結衣さん寝といてくださいね」
「…………」
結衣さんは無言だが、僕は気にせず立とうとする。
すると静かに結衣さんは、
「体……」
「体?」
「体……拭いてほしいな」
「か、か、体!?」
僕はまたしても一気に鼓動が早くなる。
「うん……汗かいちゃったし……」
そう言うとすぐに、ボタンを外し始める。
「いやいやいやいや! 駄目だよ! 僕男だし!」
「男とかじゃなくて、いっくんだから頼んでるんだけど……」
「それにもう全部脱いじゃったし……」
結衣さんの方を見てみると、たしかにブラと服が床に落ちている。
「いやいや、全部脱いじゃった……じゃないですよ! 早く服着てください!」
僕は真っ赤になりながら、そう言うと、結衣さんを見ないで、ブラと服を渡す。
すると結衣さんはため息をついて、
「……やっぱり駄目か」
どこか残念、いや悲しそうな顔をして、服を着始めた。
「ゆ、結衣さん?」
「…………」
何も言わずに服を着終わる結衣さんは、僕の方を全く見向きもしない。
「おやすみいっくん……」
そう言うと結衣さんは布団に潜った。
「…………」
その時の僕は急に布団に潜った結衣さんに呆気にとられ、何も言えなかった。
***
いっくんが私の気持ちに気づかないというのは分かっている。
でも悔しい。本当に悔しい。
私が好きになって、片想いして、約十年。
毎日毎日、アプローチして、色仕掛けして、振りまかせようとしてるけど、いっくんは振り向かない。
それどころか茜ちゃんという彼女まで作る始末……
「……いっくんのバカ……」
私はそう呟いて、夢の中に堕ちていく。
また明日も頑張ろうと決意して……
今回のメインは『結衣さんの気持ち』ということになりました。
いつもは話のタイトルに『〜件について!』としているんですが、今回はあえて『〜件について。』という形にさせていただきました。
ハーレム物ですが、少しずつ一人一人の心の闇の部分というのを書けていけたらな、と思っています。
(シリアスな部分が少し増える予感……
ここまでお読みいただきありがとうございました!




