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あなたの能力はゴミです  作者: tene
間章・仲間との出会い編
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第七話・魔法知能オシリス

 さて。先日の戦いの中で、【ゴミ】の魔王であることがハッキリした。

 なんだか一気に強くれた気もしたが、実はそんなことは無い。


「いでででででで!」

 今は腕を少し上げるだけでもこのザマだ。


 どうやら一昨日の戦いで、魔力量を出しすぎたのが原因らしい。いわば、筋肉痛の凄い版みたいなもんだ。分かってきた自分の力について、少しでも実験をしておきたかったのだが、今日に限ってはそれどころじゃない。今なら、カエルは愚か、スライムにだって負けそうだ。


 今俺は森にいる。単純にほかの街まで行ける余裕が無かった。

 モンスターと出会ってしまう可能性はかなり高いが、こればかりは祈るしかない。



 できることが他にないので、久しぶり魔王入門を読んでみることにする。

 毎日武具として召喚してはいたが、本として読むのは実にひと月ぶりということになるだろうか。


 魔王入門、とつぶやくと、俺の手元に下側からゆーっくりと、本が形成されていく。しかも、魔力がとおってゆく筋道がはっきりと感じられる程度には腕が痛む。

 明日になったら治ってるといいな……




 気になることは大きく分けて二つ。

 一つは、戦闘中に俺が使ったスキルについて。

 そしてもう一つは「ノルマ」についてだ。




 まずはスキルから。

 戦闘したときに自分でいろいろと喋ってはいたが、実は俺自身全然理解してない。

 じゃなんであの時説明できていたのかと言うと、あの時喋ったのが俺じゃないからだ。


 伝わりにくいと思うが、なんというか、あの戦闘時の状態を「無敵モード」と名付けるとすると、無敵モードのとき、俺は俺を俯瞰で見ているような状態になるんだ。だから無敵モードの意識はいわば、無敵状態のもう一人の俺、というわけだ。

 で、もう一人の俺によると、俺の無敵モードは「支配」「同化」「強化」の複合状態のようだ。もしかしたら他の力も使っているのかも知れないが、はっきりしているのはこの三つ。

 それから、あの銃魔王ゴルゴーサは、何もないところから銃を生み出していたが、あれが何なのかも調べられれば越したことはない。




 そんなことを考えていると、魔王入門がパラパラとめくれ出し、あるページを開いた。

「機能拡張……?」


 どうやら、現在魔王入門は、初心者向けのもっともシンプルなモードに設定されており、条件を満たすことで機能が拡張されていくと書いてる。いつの間にか、その条件を満たしていたようだ。うーん、条件で中身の解放されるマニュアルってどうなのよ……?

 まあ折角なので、さっそく新機能を使ってみる。


「詳細表示オン」

 今回の新機能は詳細表示。情報量はそのままアドバンテージになる。絶対に損はない。


 俺がオンを指示すると、暫くの間魔王入門は輝きを放ったが、やがて大人しくなった。見た目的には変化なし、といったところだ。厚さが倍になるくらいのことは覚悟していただけに、拍子抜けだ。

 さて、それでは早速試しに内容確認といこう。

 俺はとりあえず【スキル】について調べてみた。が……


「え!? 細かっ!!??」

 厚さが全く変化しなかった代わりに、文字の大きさがメチャクチャ小さくなってるぞ……!? これは読めるとか読めないとかのレベルじゃない。この大きさの文字なら、米粒にお経が余裕でかける。

 俺はたまらず拡大をかけた。


「拡大が無駄に大きくできるのはこーいうことかぁ」

 だいたい高さ150㎝を超えたあたりで、本として丁度いい程度の文字サイズになる。これを作った人にはぜひ常識というものを持ってもらいたいところだ。


 やっと読めるようになったので、内容を確認していこう。




【スキル】

 スキルとは、生物が備えている基本能力以外の能力。「吠える」「跳ねる」といったものから「火炎」「巨大化」「料理」と言ったものまで幅広い。基本的には魔力量を消費しないが、魔力量と引き換えに効果を得るものも存在する。また魔法はスキルの一部である。

 狭義には人類が利用できるスキルの中で、魔法を除いたものを指すが、その境は曖昧であり、慣習的な区分である。




 ★歴史★


 スキルの発見は古代文明期以降となり……




 ★魔王とスキル★


 魔王は必ず支配的なスキルと呼ばれるスキル群の中から一つ以上の……


 ……


 ……変化しない限り、相対的な価値は高いと言えるだろう。




 ★著名な人物★

 ヘヴン・スター

  史上最多のスキルを保有していると言われており……




 ……




 項目多いな!?

 確かに詳細ではあるんだけど、これは読む側のことが全く考えられてない!

 いや、しっかりと調べたいと思ったら有難い内容だとは思うんだけど、ふつうの本換算で一つの項目につき十ページを軽く超える量がある……。ああ、初心者に制限かかってた理由はこれか。


「うーん、なんか便利にならないもんかなぁ」

 すると、また独りでに本がめくれ出す。 




【音声制御 O-Siri-s】

 魔王入門は魔法知能「オシリス」による音声操作が可能です。

 機能を有効にするには「オシリス・オン」と唱えてください。




 なんと。本のくせに音声での操作が可能らしい。

 それが読みやすさとどう関係あるのかは分からないが、ものは試しだ。

「オシリス・オン!」


 すると、ポロン♪ と特徴的な音がなり、どこからともなく声が聞こえる。

「音声認識を初期設定します。『ヘイ、オシリス』と言ってください」

「ヘイ、オシリス」

 なるほど、こうやって利用者の声を登録していくのか。


「『ねえ、オシリス』と言ってください」

「ねえ、オシリス」

「『ねえってば、オシリス』と言ってください」

「ねえってば、オシリス」

「『……怒ってるの、オシリス』と言ってください」

「……? 怒ってるの、オシリス」

「『ぼ、ぼくが悪かった、許してくれオシリス』と言ってください」

「……。ぼ、ぼくが悪かった、許してくれオシリス」

「『うあ、やめて、こんなことやめて……あああ! ごめんなさい、ごめんなさいオシリス様ぁ!!!』と言ってください」

「いやそれ絶対必要ないよね!?」

 そんな入力使うタイミングないだろ!?

「……音声登録を完了しました」

 コイツ絶対遊んでたな……


 その後、クラシックモードとヴィジュアライズモードがあったので、「秘書」を選択して初期設定は完了した。他にも気になるデザインとしては「画家の絵」「天空竜」「貞子」なんてものが選択できたけど邪魔しかされなさそうなのでやめておいた。




 そうして俺の設定した魔王入門が、いよいよ視覚化された。

「初めまして、魔王ラスティ様。わたくしはオシリスと申します」

 現れたのは、ザ・OLと言った感じの女性。黒のスーツはタイトスカートで、黒タイツが木漏れ日を浴びて艶やかに光る。眼鏡はスマートだが顎のラインはどちらかというと柔らか目で、厳しよりも優しい微笑みが似合うタイプだ。目は細いが、わざと細めているといった感じで微笑んでいる。


 だが、それよりなにより……


 なんていい尻なんだ!

 なんていうか、その体型にタイトスカートはあまりにも卑怯と言わざるを得ない。その完璧な腰とのラインが、タイトスカートによってくっきりと浮かび出てしまっている。

「それで尻神オシリスか……」

 ハッ!? いけない。俺はすぐにその神々しい尻から目を離す。さすがに初対面で尻を凝視した男などと思われるわけにはいかない。大丈夫、凝視したと言っても、実際の時間は一秒ほどだろう。彼女も気が付いてはいないはず……


 ほら、大丈夫だ。目が合った彼女は天使のような笑顔で微笑んだ。


 そしてオシリスはその表情のまま言うのだった。

「実体もない相手に欲情して恥ずかしくないんですか?」


 う、うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!




 というわけで、俺は早速先ほどの質問に戻る。

 これまではただの検索機能付きの本だったが、今日からは私の質問に尻神様が答えて下さるというご教授タイムとなったわけだ。

「はい、尻神様!」

「セクハラに対しては|魔王入門(本体)プレスの刑でいいでしょうか?」


 むっ、流石にそれは死ねるなぁ。あ、でもこの容姿を想像しながらなら……

 

 いや、違う。俺は大事な話の最中なのだ。

「銃魔王の言ってた「ノルマ」って何のことか分かる?」

「……こちらの質問には無視ですか。

 「ノルマ」という単語に該当する項目はありません」


 ああ、やはりそうなのか。では、あれは銃魔王が自分で決めた目標だったのだろうか?


「ですが、「魔王が他の魔王を殺すこと」に関連する記事ならあります」

 おお! そうそう、そういうことを知りたかったんですよ。

 尻神様は分かってらっしゃる。

「新人の魔王には、寿命と言うものが存在します。一定以上の成果を挙げられない魔王は、寿命がやってきて滅びてしまいます」

 へー。魔王にも寿命なんてあるんだ。

「あれ? じゃあ、俺の寿命も分かったりするの?」

「はい。ラスティ様の寿命は、あと11か月です」

「じゅっ!?」



 衝撃の事実。生まれて間もないというのに、余命一年を宣告されてしまった。

「え、さすがに短くない? なんで俺に限ってそんな……」

「いえ、これはラスティ様に限ったことではありません。この世界に生まれるすべての魔王は、生まれてから丁度一年の命。即ち、その年の一月一日に生まれ、十二月三十一日に死にます」

 なんて儚い命なんだ。その辺のネズミやカエルだって、もうちょっと長命だというのに……



 それを聞くと、なんだかいろいろとどうでもよくなってくる。魔王として生まれたものの寿命は一年だって? なんて時代だ。それならなんで俺をこの世界に生んだりなんかしたんだ。

 どうせ死んじゃうんだし、いっそ世界を滅ぼしたりなんかしたり……


「ラスティ様?」

「あ、いや……うん、なんかもうどうでもいいや。お疲れ、尻神様。帰っていいよ。ありがと、バイバイ」

「……絶望されるのは結構ですが、私の話をきちんと理解していますか? 私は一定以上の成果が上げられない魔王は死ぬ、と言ったのですが」

「……成果?」

「そうです。いくつかの「成果」と認められる功績を積み重ねることで、この一年という寿命は解除され、無限の寿命を得ることができます」




 おおおお! 俺の絶望の未来に、一気に光が差し込む。

 尻神様、やっぱりあんた俺の神様だ。



「成果!? 成果って!?」

「魔王は一年間で1000000P以上の「功績」を挙げなければなりません」

 うっ、1000000P……それがどのくらいかは分からないが、かなり多いのだろうことだけは想像がつく。

「まず一つが、人類を殺すこと」

 うっ。やっぱり魔王ってそうなのかぁー。

 漠然とした「魔王」に対する悪のイメージが具体的になった。あいつら、自分が生き残るために人を殺さなきゃならんのか。

「で、それってどのくらいの評価なワケ?」

「一人あたり10P。これはかなりメジャーな方法のようです」


 安すぎる。この方法で達成するには十万人も殺さなくてはならない。

「彼らは群れを成す上、力も弱いですから、確実と言えば確実な方法です」

 そうかもしれない。

 たしかに、ラパーラでも誰ひとり、銃魔王に対抗できるような力はなかった。もしそう言った人間がいるとしても、それはごく一部ということなのだろう。

 だが、この方法を実行するには、俺は人間の中に居すぎた。


「……今んとこ、俺にはこれはムリだわ」

「では次。これもメジャーですね。部下を引き連れる。一人1P」

「い、1P……」


 これまた気の遠くなるような話だ。


「こちらはカリスマを備えた魔王に人気があるようですね。一年間で百万人以上の国家を造るということですから大変ではありますが、その後の安定感に定評があります」

 そうか、いまは当面生き残ることしか考えていなかったが、生き残った場合そのあとも人生は続くのだ。あまり敵は作らない方法が生きやすいだろう。たしかに頭がよくカリスマもある魔王の選びそうな手法だ。

「でも俺に、そのカリスマはないわ」

「ですね」


 ごく自然に合いの手を返してくる尻神様。やっぱりハタから見てもカリスマはないようだ。

「それから、善行、魔物討伐。これも1P。この方法をメインに寿命期間を生き延びた魔王は居ないようですね」

 それはそうだろう。どちらも時間がかかりすぎる。

 魔物は人間ほど群れないから、まとめ狩りもできないし、ポイントも十分の一だ。こちらはサブ的な要素と見て間違いない。


「……そして最もメジャーな方法が、他の魔王を殺すことです」

 やはりか。それで銃魔王は俺を狙っていたのだ。

「これがどのくらいのポイントなんだ?」

「200000Pですね」



 バランスがおかしすぎるだろ。

 これは完全に、魔王同士での殺し合いを想定しているとしか思えない。


「ただ、魔王殺しはかなりのリスクを伴います。実地で出会う相手のほとんどが初見ですから、自分より強い相手と戦えば即死です」

 それはよくわかっている。俺も死にかけた身だ。

「それにこの方法だと、魔王同士が生き残るのは多くても六人に一人。ですが最悪誰も生き残れずに死んでしまう可能性もあります。生き残っても、一度戦って逃げられた、あるいはこちらが逃げ延びた相手に、執拗に狙われることも考えられます。うまくいかなかった場合のリスクは、対人類の比ではありません」

 なーるほど。これはあくまで寿命というリミットがなくなるだけで、不死身になれるという話ではない。だから、トラブルを抱えたまま生き延びれば、当然その後死ぬこともある、ということだ。



「それで全部?」

「あとはメジャーではない功績の取り方なら無数にありますが、どれも大した影響力はないかと」

「たとえば?」

「創造主に祈りを捧げる。一日1P」

「そりゃだめだ」


 俺が死ぬまでにあと約330Pしか取れないじゃないか。第一、そんなところにポイントを付けて自分を拝ませたがる創造主にガッカリだ。

 だけど……



「……何してるんですか」

「祈ってる」

「だめだと仰ったばかりでは?」

「うん。でも、生き残る可能性は1%でも高いほうがいいし」

「1Pで上がる可能性は1/1000000ですが」

「ま、塵も積もればっていうしさ」

 そう、これは俺流の、生き残るためなら何でもやってやる、だ。


「あと、なぜ私にも祈ってますの?」

「え? 無いの? 尻神に祈りを捧げる」

「-10000Pくらいしてあげたいところですね」

 折角の信者になんてことをいうんだ、この女神様は。


「でもそうなると、すでに一人倒しているっていうのはデカいな」

「そうですね。正確には現在200217Pです」

 魔王以外に200P以上溜まっているが、これはカエル狩によるものだろう。

 とはいえ、大勢は変わらない。

「……改めて数字にされると、魔王討伐以外が絶望的な数すぎて笑えてくるわ」

「そうですね。私としては人類の街の次にお勧めできます」


 生き延びたければ、もたもたもしていられないし、手段も選べないってことだな。




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2/6日現在

功績 200217P  残り799783P

2016/12/17 ポイント部分が間違っていたので修正

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