何故か悪魔がついてくる
タイトル詐欺? 知りませんね……
俺にはなぜか悪魔が憑いている。
なぜか、ということがある意味を語るとしたら覚えていないというのがあるからであり、導入部分など割愛する。
そんな今年高校一年生になった俺は、悪魔が憑いているという現状普通に生活ができている。
理由は簡単。悪魔たちが人間の姿に成って誘惑しているのを俺が悉くスルーしているからである。
現在俺の周りには十二柱の悪魔がいる。全員が全員俺の魂を狙っている。
そこまで俺は何かしたわけではないのだが、なぜか悪魔たちの格好の的になっているらしい。最初に来たやつがそんなことを言っていたような気がしなくもない。
もはや曖昧なのだ。そんな些末事がどうでもよくて。
「おいモテ男」
下種な声で誰かに呼びかけているのが聞こえる。モテ男なんてこの近くにいるんだなと思いながらやっていた授業の準備を続ける。
周囲の視線がこちらに向いているのが雰囲気で分かるが俺がモテ男などと何を勘違いしているのだろうかと言いたくなる。
「お前だよ! いつもいっつも最初無視しやがって!!」
嫌な目立ち方をしているのは百も承知だというのは自覚しているのであえて知らないふりをする。
そもそも目立つのは悪魔たちが人の姿、しかも美少女になって学校に来ているからである。それはもはや俺のせいではなくあいつらの行動の結果。そんな他人の結果を押し付けられたところで俺が反応する理由になるわけがない。
なのでそのまま言葉を発さずに準備を終えた俺は席を立つ。
すると遮る野郎たち。いつものことなので、欠伸をしながら「授業の準備しなくていいのか」と言って通り過ぎようとする。
が、案の定肩をつかまれたので俺はその手をつかみ投げようとしたところ――
「おい勝也! お前の連れがまたなんか考えてるぞ!!」
何ともいいタイミングでテンションの高い人気者であり俺の友達の一人である和成が教室の入り口の方からそんなことを叫んだので手を放してそのまま通り過ぎる。
「っ、テメェ!」
通り過ぎたことで何の琴線に触れたか知らないが、野郎の一人が声を荒げたので振り返りただ視線を送る。
それだけでそいつらは動かなくなったので、俺は首を左右に振りながら教室を出た。
「しかしいいタイミングで来たな」
「いや、たまたま。つぅか何か仕掛けようとしてた?」
「別に」
トイレへ向かいながら和成と一緒に喋る。
「そういえば俺の連れがどうとか言っていたようだが、俺に連れはいないぞ?」
「何言ってんだよ! あの可愛い子ちゃん達がお前の連れじゃないなんておかしな話、通用するわけないだろ?」
「……そもそもの話、あいつらが勝手に来てる訳だから俺に責任の所在は一厘たりともないんだが」
「っかー羨ましいねこのハーレム野郎!!」
「んなわけあるか」
そんな愚痴を叩きあいながらトイレに入り、小便をしながら俺は言った。
「そういや和成」
「あ?」
「俺、一週間以内にこの学校やめるわ」
「…………ハァ!?」
さらっと言われたことの重大さを認識したのか隣の和成が大きな声を上げる。
うるさいなと思っていると、「急すぎじゃね!?」と怒られたので俺は肩を竦める。
「俺だって知ったのはつい最近だ。転校しないといけないってな」
「は? マジで?」
「ああ」
チャックを上げながら俺がそう言った時、トイレの壁がドゴン!! と音を立てて壊れた。
「「…………」」
普通、瓦礫が飛んでくるなりあるのだろうが、そこまでの威力はなかったようで。
無傷の俺たちは我を忘れて壊れた壁の方を見る。
そこに佇んでいたのは、メイド服を着た少女だった。
「「…………」」
俺達が黙って見ていると、彼女はお辞儀をしてから言った。
「失礼します。白銀勝也様はどちらでしょうか」
男子トイレだというのに表情一つ変えずに俺の事を訊ねることにもはや驚きなど通り過ぎていると、小便が終わったのか和成が肘打ちしてから「誰、あの可愛い子?」と質問してきたので俺は首を振ってから答える。
「知らん。おそらく転校先の学校の使者だろう」
そんなことを言っていると、「か、可愛い……」と少女が頬を赤らめていた。
「……良かったな」
「え、なにそれ。誰に言ってるんだよ?」
「ゴホン」
咳払いでなかったことにした。
だが頬が赤いので結局のところ意識しているのだろう。
そう思いながら話の続きを待っていると、「どちらが白銀勝也様でしょうか?」と繰り返されたので「俺だ」と名乗る。
その名乗りに反応してちらっと俺の方を見た彼女は、次に隣の和成に視線を向けてもう一度俺に視線を戻して「入学準備が整いましたのでお迎えに上がりました」と言って頭を下げた。
「ああそうか。とりあえず荷物を持っていきたいから教室に戻ってからでいいか?」
「心配ご無用です。彼女達が運び出している頃でしょうから」
「…………」
となると転校先にアイツらも来るのだろうか。
嫌な話だと思いため息をつくと、「急すぎだな、おい」と和成が漏らしたので言っておく。
「短い間だが、世話になった。ありがとな、和成」
「そうかよ。んじゃ、転校先で無愛想なままでいるなよ」
「それは善処する」
そういってヘリに乗り込んだが、なぜか出発しない。
席に座って首を傾げていると、隣にいた彼女が「うふふ」と怪しい笑みをこぼしていた。
「大丈夫か?」
「可愛い……私が…あの人が……私を」
「……」
どうやら和成はスイッチを入れてしまったらしい。
あいつ結構軽い奴だからなぁと今後の展開がどうなるのか考えていると、「白金様」と呼ばれたので返事をする。
「ん?」
「少しお時間をもらえませんでしょうか?」
「……構わん」
こうしている今もトイレの壁は壊れており、ヘリが浮いているのだがもう来ないのだから気にはならない。弁償するのだろうかということだけは疑問に思うが。
などと現実逃避していると、その少女は電話を入れており内容から察するにもう一人連れて行ってもいいかというものだろう。
俺の場合は学校側から通達が来て知ったが……普通は違うんじゃないだろうか。
なんて考えていたらどうやら電話が終わったようで。
いつの間にか隣に和成が座っていた。
「さっきぶりだな、和成」
「お、おう。そうだな。さっきの感動的な流れが粉微塵だ」
そう言ってため息をつく。俺はというと、どうでもよかったのであくびをする。
「それではご案内いたします」
俺達を見た彼女はそういってヘリのドアを閉める。それと同時にヘリは飛び立つ。
多少揺れたが不快感がない俺はそのまま目をつむって寝ようとしたところ、隣の和成は「なぁこんなのありなのかよ」と呟いたのが聞こえた。
「友達が一週間以内に転校するって話を聞いた当日に転校、その上俺までだぞ……。両親とかどう説明するんだ。というより、転校する学園ってどこなんだよ……」
そういえば言ってなかったなと思いながら答えようか悩んでいると、彼女が説明した。
「お二人に転校していただく我が学園は、女子率百パーセントになります」
「マジで!? つぅか、そんなとこに男二人ってどうよ?」
「ただし」
「ん?」
「人外――いわゆるモンスターのくくりに分類される女子たちです。あ・な・た☆」
「…………Oh」
和成の顔は真っ蒼に染まり、動かないまま全体的な色が真っ白になった。
そんな友達を一瞥した俺は、その隣で嬉しそうに舌なめずりをしながら頬を赤く染めて座っている彼女を見つけ小声でつぶやいた。
「ご愁傷さま」
これは、ほとんどの物事に動じない俺と不用意な一言により来ることになった友達が、悪魔やメデューサ、マーメイドなどがの女子だけが生活している学園に転校し、一般社会になじむように努力させるお話。
これだけ見ると他に男子連れてくればよかったんじゃなかろうかと本気で思う。