第五話「スフィンクスのフィル」
「おい! フィル!!」
「だから謝ってるじゃん」
「それが謝る態度か」
「ごめんって言ってやってるんだから素直に許せよ」
「こいつっ!!」
「まあまあ二人とも」
喧嘩する俺とフィルを安奈が宥める。
「無事皆、街に辿り付けたからいいじゃない」
「それとこれとは話が別だ!」
「しつこいな。だから犯罪者になるんだよ」
「謝らないどころか。また人を犯罪者呼ばわり……いい加減に」
「ストーーーーーーップ!!」
安奈の咆哮が木霊する。
「とりあえずフィルは誠意をもって謝ること」
「ええ!?」
「ええ!? じゃない! 謝って」
「安奈様がそう言うなら……。海斗。ごめんなさい」
フィルが頭を下げて謝ってきた。
さっきまでの態度が嘘のようだ。
「海斗。フィルがここまで謝ってるんだから許してやって」
「わ、分かったよ」
「これで仲直りね。さあ」
「何?」
「仲直りの握手!」
「ええ!?」
俺とフィルが同時に声を上げる。
まさかフィルとシンクロしてしまうとは。
「何か文句ある?」
「いえ、握手だよな。フィル」
「ええ、ああ」
俺たちは半ば無理やりに握手をさせられた。
「これでもう喧嘩はしないわね」
安奈はどこか得意気だ。
――
「すげえな」
俺は呆気に取られていた。
これぞファンタジーって感じの建物がたくさん並んでいるからだ。
「何度見ても飽きないわねえ」
「ったくフィルが俺を先に行かせればもっとのんびりと眺めることが出来たのに」
「見れるだけありがたいと思え」
「何だと!?」
「やめてよ二人共! さっき仲直りしたばかりじゃない」
どうもフィルとは反りが合わない。
これからずっとこいつとやっていくと思うと頭が痛くなる。
「さて、お二方。そろそろあることに気づきませんか?」
あること?
「安奈様は背中に。海斗は腰に何か重みがあるはずです」
確かに言われてみれば。
「確かめてみてください」
俺たちはフィルに言われたとおり確かめてみた。
俺は腰を。安奈は背中を。
ん? これは?
何か細長いようなものの感触がある。
俺は感触があるところを見てみた。
「ワオッ!」
「すごおい!」
これは……これは……剣じゃねえか!
しかも随分と派手な見た目で。
「海斗は剣士。安奈様はヒーラーとして活動して頂きます」
何と! 俺は剣士か!
「安奈様。一応海斗は剣士なのですが頼りないのでギルドから誰かをこのパーティーに入れたほうがいいかと」
良くも本人の前で堂々とそんなことが言えるな。
まあ何か豪華な剣を見てると機嫌が良くなるので、切れることはやめるか。
「確かに海斗は頼りなさそうだもんね」
安奈までそう言うか……。
「なので一度ギルドで仲間集めをしてもいいかと」
「そうね。そうしてみよう」
ということで俺たちはギルドに寄ることになった。
「結構な人だな」
「そうね」
さて、ここで仲間を誘うわけだが。
「安奈様の美貌ならイチコロですよ」
「もう。フィルったら! お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃなくて本当です」
「もう!」
ケダモノが何口説き文句を使ってるんだか。
まあ確かに安奈は美人ではあるが。
あの乱暴な性格さえ無ければな……。
「おっ君可愛いね」
募集をする前に誰かが話しかけてきた。
茶髪のいかにもチャラそうな男が安奈に声をかける。
「どうも」
「良かったら俺たちのパーティに来ない?」
「ごめんなさい。私既にパーティに入ってるので」
「この小さな獣と冴えない男とか? そんなやつらより俺たちのパーティに来たほうがもっと楽しいよ」
「何!」
俺とフィルが同時に声を上げる。
いきなり初対面の人に冴えないという言葉を使うとは許せない。
「そこのお前、小さな獣とは何だ! 僕は誇り高きスフィンクスのフィルだぞ!」
スフィンクス? フィルが? やばい笑いが。
「何を笑ってるのかな海斗君」
「さすがにその姿でスフィンクスは言い過イテッ!」
フィルが急に俺の腕に噛み付いてきた。
離そうとするがなかなか離れない。
「何するんだフィル! 離せ!!」
「グルルルル」
「いい加減にしないとその小さな体を握りつぶすぞ!!」
「馬鹿はほっといて行こうか」
「ええ」
俺とフィルの戦いが始まる。