第一話「出会い」
俺はどこかにいた。
どこにいるかって? それが分からないからどこかにいたという表現しか見つからない。
俺は桐ヶ谷海斗。残念ながらそれしか思いつかない。
だけどここが俺が本来いる場所ではないことぐらいは分かる。
目の前には女が一人倒れていた。
黒髪で黒いワンピースを着ている。
顔はまあ美人といえるぐらいある。
胸もCカップくらいはありそうだ。
おっとそんなことを気にしてる場合じゃない。
ここはどこだ?
当たりは真っ暗闇だ。
真っ暗闇とは言ってもこの女だけははっきり見える。
他にやることがないので、俺はこの女を起こすことにした。
「おい」
起きる様子がない。もっと大声で起こしたほうがいいか。
「おい!」
起きる様子がない。こうなれば。
俺は女の胸に手を当てた。
うん。柔らかい感触。
「何……してんのよ!!」
「グハッ」
俺は顔面を強打し、数メートル先へ吹っ飛んだ。
この女。強いな。
って。
「何すんだよ!!」
「こっちのセリフよ!!」
俺は強打した顔面を優しく撫でつつ、女に敵意の視線を向ける。
「せっかく起こしてやったのに」
「人の胸を揉むことのどこに起こすという要素があるのかしら?」
「ああ言えばこう言う」
「初対面の人にそんなこと言われたくはないわね」
ダメだ。埒が明かない。
「とりあえずだ」
俺は本題に入ることにした。
「ここがどこかお前は分かるか?」
「知らないわよ。アンタが私を誘拐して連れて来た場所なんじゃないの?」
「んなわけあるか!」
この女もここが知らないわけか。
しかし初対面の相手を誘拐犯扱いするとは。
失礼にもほどがあるな。
「私空手6段だから。何かしようものならボコボコよ」
「残念。お前みたいなブスに何かする気は起きない」
「殺す」
俺は理不尽な暴力を受けた。
空手6段の力は伊達じゃないな。
危うく意識が無くなるところだったぜ。
さて。
「すいません。ブスじゃないので暴力は勘弁を」
「分かってるじゃない」
しかし、厄日だな。
いきなり知らない空間に放り投げられて、いきなり見ず知らずの女に暴力を振るわれるなんて。
とにかくふざけてる場合じゃないな。知らない空間に放り投げられているんだから。
「本当に何も知らないのか?」
「だから何度も言ってるでしょ。知らないって」
うーん。困った。
まあ今は情報収集だ。
「お前、名前は?」
「何で変態野郎に私の名前を教えなくちゃならないのよ」
「俺だって好きでブスの名前を聞いてるわけじゃねえよ」
「殺す」
ダメだ。全然話が前に進まない。