この世界は機械に犯されました【ボツ、打ち切り】2/5
サブタイトル:居候A
「レファ・ソラシド・メヌエット。っていいます」
「阿僧祇 京です」
「妹の那由です」
我が家の応接間。
玄関を入ってすぐ横の六条間。
おれと妹、そして金髪の少女がローテーブルを挟み、向かい合って座っている。
このい草の香る和室と金髪の組み合わせの違和感がすごい。
名前からして異邦人だ。
「おにーちゃん、この人、日本語上手だね」
「だな。バイリンガルってやつだ」
「バイリンガルじゃないです。日本生まれの日本育ちなので。そもそも英語とか全然できなくてですね。あ、もしかして英語の話じゃないですか?」
「よくしゃべる女だな」
「だね。えへへ」
「なぜ那由が照れる」
流暢に喋ってるから日本に長いこと居るのはわかるけど、日本生まれなのか。
見た目からしてまるっきり外国人しているのに。
金髪で、目がまんまるで、あと胸がけっこうおっきい。
本物の金髪。
しかも全体的にショートな髪ながら、もみあげの所だけ垂れたように長い髪型をしている。
活発そうな少女だ。
金髪に染めてる知り合いは何人かいるけど、やっぱり本物は違うな。
艶が違うのかな。色からして違う感じか。
っていうかこいつ、どこかで会ったことがある気がする。
「君、何歳?」
「ナンパですか? やめてください。16です」
ということは2つ下か。
なら元同級生ってことはないし。
ごくごく薄い関わりか、そもそも気のせいのどっちかだろ。
知り合いだったら流石に覚えてるはずだ。
「それで、匿って欲しいってなに?」
「追われてるんです。一大事なんです」
金色の少女から不穏な言葉が出てきた。
匿って欲しいの言葉からある程度想定してはいたが、本当に厄介事のようだ。
「警察に頼れば?」
厄介事は嫌なので突き放すことにした。
「警察はちょっと……。お父さんなので」
「父親に追われてるわけ?」
「はい、そうなんです。困ったことに。困りますよね?」
「おとーさんに追われると困るの?」
妹は父親に追われて困るというのが理解できないようだ。
「洒落にならない系か? 面倒事は困るんだが」
親族間や肉親の揉め事っていうのは、本当に昼ドラのような展開になることが割りとある。
中高の時、知り合いのそういう揉め事を何度か見たからか、テレビの向こう側の世界じゃなくても普通にあることをおれは知っている。
そういう面倒事には首を突っ込まないのが一番だということもおれは知っている。
おれだけならどうとでもなるが、妹まで巻き込まれたら大変だ。
「えっと、重たい話……ではないです」
「じゃあただの家出じゃねーか」
「……も、黙秘で」
つーか、この流れからしてしばらくって数時間とかじゃなくて数日だよな?
居候だよこれ。
「悪いが、どっちにしてもこの家は無理だぞ。居候を抱えるだけの余裕はない」
「あ、わたし、ポイントは稼いでいるんで。だからお金の心配はないです。あ、でも現金で持ってるわけじゃないので、よこせって言われたら換金が必要ですね」
「あ、そう」
ポイント。
ゲームのような世界になって増えたシステムのひとつ。
モンスターを退治すると手に入るポイントで、ショップに関するアーティファクトやデバイスから様々なものを購入することが出来る。
おれが仕事やバイトではない部分で稼ごうとしているポイント。
ということは、この少女はそれなりにフィールドに出て狩りをしていることになる。
っていうか、2年前に発生したのにアーティファクト<古代遺産>っておかしいだろ。
「金があるならホテルにでも泊まれば?」
「おにーちゃん、いやそうだね」
まあな。
「そんなこと言わないでください。ホテルでは人の出入りが多くて、父に情報が入ると困ってしまうんです」
「なるほど」
たしかに金髪は目立つ。髪型も特徴的だし。
そしてこの家の近辺はジジババばかり住んでいるので人目につきにくい。
人目につきにくいとはいえこの辺で犯罪が起こるようなことはまずない。
古い家が多いのでそれなりに権力的なものがあるのだ。
こんな場所で何かしようとしたら警察とか諸々がすっ飛んでくる。
だからこそ、この少女はここを目につけたのかもしれない。
「どうか、おねがいします」
「おにーちゃん……」
「うーん」
ただの家出で、金はある。おそらく厄介事、ではない。
仮に厄介事だったとして、もしなんかあったら追い出せばいいか。
妹は賛成派みたいだし。
「まあ……いいか、生活費を入れてくれれば」
「いいんですかっ? あ、ありがとうございますっ。大丈夫です。それは心配要らないです、きっと」
金髪の少女はお礼と共に深くお辞儀をした。
そして、身体を起こすのに合わせて胸が揺れる。これは嬉しい誤算。
おれは目線を金髪の蒼い瞳に合わせながらも、八方目で胸を観察する。
やっぱりでかい。
八方目とは一点に視線を送りながらも、視界の端を見るという技法。
観の目とか目付けとか言われてたりもする。
と、ばーちゃんは言っていた気がする。
女性は視線に敏感だというので、おれは女性を見るときはこの八方目をよく使う。
こうすることで不快感を与えずに色々見るのだ。
「あの……」
しばらく見ていたら、金髪の少女は伏し目がちに視線を逸らす。
そして頬を染める。
胸に目線を送らないために瞳を見ていたが、見つめすぎたらしい。失敗。
「話がまとまったみたいなので荷物を取ってきてもいいですか?」
「そういえば、手ぶらだな」
「荷物は駅のロッカーに入れてあるので。上の方のロッカーです。鍵もかけてますよ」
「そりゃ鍵かけなかったら意味ないだろ」
フィールドの所為で電車にほとんど意味は無いけど、そういやロッカーとかは残っているのか。
本当にただの家出みたいだ。
やっていることはその辺のJKそのものだ。
「そうだ。荷物を取って戻ってくる時に、食材もついでに買ってきてくれ」
「わたしがですか?」
「居候するんだろ。自分の分だけでいいぞ」
「ついてきてくれたりとかは?」
「あ?」
「いえ、なんでも、はい。では、いってきます」
そうして金髪の少女は荷物を取りに家を出て行った。
これで荷物を取りに行っている間に、その父親とやらに捕まったら笑うな。
そうなったらそうなったで別にいいんだけど。
◆◆◆
「じゃあ俺は客間の掃除をしておくから、那由は適当にしてていいぞ」
金髪も出て行ったので部屋の用意をしよう。
これからどの程度の期間かわからないけど、住むわけだし。
「おにーちゃん」
「なんだ?」
「すごく思い出したんだけど、へそくりがあるかも」
「へそくり?」
「うん。おかーさんの。前に隠してるのをこっそり見たの。お金の話で思い出した」
それって今一番ありがたい出土品じゃん。
でも、「すごく思い出す」ってなんか昔のゲームみたいだな。
変な言葉だ。
……どうでもいいか。
「じゃあ、那由はへそくりの方を頼む。おれは部屋の掃除に戻るから」
「はーい」
妹にへそくりとやらを頼み、俺は二階の方の客間へと行く。
そして聞かれないように十分な距離を取ると――。
「居候かー……」
自然と呟く声が出た。
あの金髪の子、結構かわいかったぞ。
ラッキースケベとかあったらどうしよう。
居候自体にはわりと反対だけど、それはそれ。おれだって若い男子だし、そりゃ期待位してしまうってもんだ。
ちょっといい感じになったら夜這いとかされるかもしれない。
好意は好意で示しそうな性格の子だったので、そういうこともあるかもしれない。
「ふんふーん」
大して汚れていない客間に掃除機を掛けながら、おれは小躍りしてしまいそうだった。
ネックの金も少女自身がポイントを持っているらしいし、へそくりだってある。
妹の方は給付金がある。
あとはおれがおれの分をなんとかすればいい。
――ガシャン
「ん?」
掃除機を掛けている最中、階下から何かの壊れる音がした、ような気がした。
「那由? どうした?」
階段から妹に向かって声をかけるが返事がない。
おれはすぐさま階段を降り、音がした部屋に飛び込むと――。
「おにーちゃん。神棚壊しちゃって、かみさま出てきた」
「え? かみさま?」
「困るよ、早く帰してくれ」
神棚の裏のへそくり取ろうとしたら、神様が出てきたらしい。
そこには情けない顔した妹と、妹の言う神様と思わしき女性が立っていた。
「…………」
こんな次々とイベント発生するとは思ってなかったな。
なんてぼんやり考えた。




