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楽園を目指した男【歩く賢者の石のおまけ】

歩く賢者の石がスランプ状態に陥った原因。

これを書いたら何故か他の話が書けなくなってしまった怪異。



トーヤ視点では無く町の男の視点になります。

暗い話です。

これを読むのは歩く賢者の石を読んでからがいいと思います。

あっちの明るい世界観が暗くなるかもしれないので読まない方がいいかもしれません。

 オレは満腹というものを知らなかった。



 オレが生まれたのはアトレイア国の田舎町でも更に掃き溜めのような場所。

 もしかしたら別の場所で生まれたのかもしれないが気がついたときにはそこに居た。


 そこには母親というものはなくオレとアイツの二人だけだった。

 気がつくまでのオレがどうやって育ったのかは知らないが、オレが気がついたときには飯を探してはアイツに殴られるのが日課だった。



 落ちてるものを拾い、時には盗んでアイツに渡す。

 いつからかオレはアイツに渡す前に先に食べることを覚えた。


 一度、全部食べてしまい見つからなかったと言ったことがある。

 その時は普段より強く殴られ盛大に口から血が出た。

 それ以来、オレは半分だけ食べるということを覚えた。



 そんな毎日が続きオレの背も伸びてきて、はやく走れることを知った時俺はアイツを捨て飛び出した。

 そして、流れ着いたのが子供達だけで出来た群れだった。


 しかし、その群れも大差はなかった。

 食い物を盗んできては半分食べ残りを差し出す。

 他の子供からも差し出された、中から少しだけ分け与えてもらう。


 ただ、殴られる毎日ではなくなった。


 群れに入るようになってからしばらく経った日、オレは偶然果物を手に入れた。

 その果物は一つで銅貨1枚はする果物で、売れば4日分の食い物が買えるはずだ。

 だが、俺はどうしても我慢できずにその果物を口にした。


 初めて食べるその甘さは頭が溶けて口や鼻から流れ出てしまいそうな程うまかった。

 いつかもう一度口にしたいと心から願った。



 群れに居る子供はみんな思う。

 裕福層の居る地域に行けば、いいものが手に入るんじゃないかと。

 しかし、そんなバカな事はしない。

 裕福層のいる場所は危険がいっぱいだからだ。


 前に、どうしても飢えたやつが裕福層の地域に盗みに行ったことがある。

 当然のようにそいつは失敗して半殺しにされた。


 冒険者、という仕事をしている人に捕まったのだそうだ。


 命からがらも帰ってきたそいつはぐったりと倒れこみ、飢えたのか病気か衰弱か、4日後に死んだ。



 そんなことを目撃した群れの子供達は裕福層には手を出しちゃいけないと学んだ。

 それでも、どうしても飢えると一縷の望みに掛けて裕福層に手を出して痛い目を見る奴は居た。



 子供達で群れて寄り添って拾って盗んで食べて。

 そんな毎日が続いたある日、とうとうオレが盗んだものを半分だけ食べているのがバレた。

 群れの子供は荒れ狂った。


 ひと目見てわかった。

 捕まったら殺される。



 オレは逃げた。

 一人だけ女を連れて群れから逃げた。


 その女はオレより少しだけ小さくて、弱い。オレに歯向かうこともなく言うことを聞くと思ったからだ。

 "そういう"目的もあった。


 アイツとオレの二人から群れになって、群れからまた二人になって。

 群れにいられなくなったオレと女は身を隠せる場所を探した。


 どこでもいいからと探し続けてたどり着いた場所は、前にアイツと二人で住んでいた場所だった。

 アイツはいなくなっていた。



 それからの日々は相変わらず飢えてはいたけど、比較的穏やかな日々だった。

 身を隠しながら物を拾って、盗んで、食べて。

 適当に連れてきた女だったが情も移っていた。


 そんなある日、女が身ごもっていることがわかった。

 ――子供が生まれる。



 女には期待できなくなったのでオレが二人分働くことになった。

 時には盗みに失敗して捕まってしこたまぶん殴られて。


 ある日、仕事を見つけた。

 小さな店の手伝いだ。

 貰える金は少ないが盗みをしなくても食える日々が訪れた。


 店の人は他の町に住んでいたことがあるらしく、聞いてみるとどの町もこの町と大差なく飢える人が多いらしい。

 いつか諦めてしまったが、どこか別の町へ行けばなんとかなる。なんてのはなかったようだ。

 

 それからはしばらく順調だった。



 子供も生まれたので、オレは更に自分の食べる分を減らして女に分け与えた。

 子供が育ってくると子供にも分け与えた。


 自分の腹はいつだって空いているけど悪くない日々だったと思う。

 だが、長くは続かなかった。


 

 店の経営が悪くなってきてオレを雇うだけの余裕がなくなってしまったのだ。

 またオレは盗みを働く日々に戻った。


 しかし、もう盗みも上手くできなくなってしまった。

 店で働いているうちに上手く走ることもできなくなって、失敗することが多くなってきた。


 そしてオレは、女と子供を捨てて逃げた。

 女も少しは頑張っていたが3人分の食い物を集めることができなくなってしまったのだ。

 分け与えることだって出来ていたオレの心は折れてしまったのだ。



 女も子供も捨てたオレは2日ほど彷徨って、結局戻った。

 女には食べ物を探したが見つからなかったと嘘を付いた。

 女はただ頷いていた。


 そんな、この町のふたつ目の門からまっすぐ山の端の方へ向かって歩いていくと、誰も飢える事のない楽園があるという噂を聞いた。

 誰かが希望を語っただけの噂話だろう。


 そしてとうとう終わりが見えた。

 盗みも出来ない、拾える量もわずか、ここには3人いる。


 数日分だけなんとか用意してそしたら町を出よう。



 そして普段はしないような盗みをした。

 物を壊すのを厭わない、捕まったら殺される。


 そんな盗みをして俺たち3人は町を出た。

 目指すは噂に聞いた楽園。


 女は町を出ることについて何も言わなかった。

 女にも分かっていたのだろう。もうどうしようもないって。 


 群れに居たのだから盗みの加減も知っている。

 やってはいけない盗みをオレがしたこともわかっているはずだ。


 何日か経った。


 水は水分を多く含んだ草などを噛んだり朝露をかき集めて凌いだ。

 しかし、食べ物はもうなかった。


 楽園を目指して歩く。

 勿論、楽園なんてものがあるとは思っていなかった。


 ただ最後位は希望を持って、希望を目指して死にたかった。

 きっとオレ達のような人間がこの世界には沢山いるのだろう。


「この先にはナーミンの町があると聞いたんだ。その町は誰も飢えない楽園のような場所だという」


 希望を口にしながらも死ぬ場所を探していた。


「話は聞かせてもらいました」


 いつの間にかその男は居た。




 トーヤ、という男に連れられて着いたナーミンの町は楽園からは程遠い場所だった。

 人はせわしなく動き、怒声のような声を上げているのも少なくない。

 皆が穏やかで飢えることなく木々には果物がなっている。そんな、自分の思い描いていた楽園とはかけ離れたものだった。


 なんてことはない。

 飢える人がいないのではなく、仕事がたくさんあるだけなのだ。



 しかし、ここでなら仕事が見つかるかもしれない。

 腹を空かせた毎日から開放されるかもしれない。


 まず、連れて行かれたのは風呂という場所。

 熱い湯をこれでもかと使い、身体を清める場所だった。

 頭が溶けそうかとも思ったが、ふと見下ろすと自分の肌の色が他の町人と同じ色になっていることに気づいた。


 風呂を出ると真新しい服に着替えさせられ、外に連れ出された。

 外には女と子供が居た。

 女は骨と皮だけの女だったが、綺麗だと思った。



 はじめて・・・初めて料理を食う。

 芋や草をそのまま食べるのではなく料理を口にする。


 女も子供も戸惑っていたが、もう二度とないかもしれない料理に全てを忘れて食べた。

 生まれて初めて満腹というものを知った。

 味は、よくわからなかった。

 


 男、トーヤという男はそれからも住む場所から何から色々なものを手配してくれた。

 なぜここまでしてくれるのかわからなかったが、オレは店に居たときに覚えた言葉で精一杯の丁寧な礼をいった。



◇◆◇◆◇



 この町は楽園だった。

 当初はわからなかったが、ここは間違いなく楽園だった。

 誰も飢えることなく、やる気に溢れ。そのやる気に結果がついてくる。

 確かにここは楽園だった。


 あれから私は町に斡旋された仕事を止め、工房の手伝いをしながら小さなガラス細工店をしている。

 妻は料理の店の手伝いをしながら料理を覚えようと毎日頑張っている。


 子供は町を出て村に住むことになった。勉学を学びながら、畑の手伝いをするのだという。


 ――そういえば『私』と『オレ』を使い分けるようになったな。


 アシュクロフト様に恥ずかしくない態度を取れるように努力した結果だ。

 女もそのまま女と呼ぶ事はなくなった。



「なあ、どうしてお前は私について来たんだ?」


「何がですか?」


「お前はいつだって私の元を離れて、どこか行くことが出来たじゃないか」


 追われたオレを捨てて群れに戻ることだって出来たんだ。


「あなたは弱い人ですから。私がついていてあげないとって思ったんです」


「そうか」


 どうやら見抜かれていたようだ。

 弱くて、オレに逆らえなくて、言うことを聞くと思って連れていた女は、オレよりよっぽど強い人間だった。

 オレは恵まれていた。



 最近、私のガラス細工が他の町の貴族に人気らしい。

 もしかしたらあの町に住む貴族様が私の作ったガラス細工を自慢しながらあの町を歩いているかもしれない。


 あの町の掃き溜めで物を漁って盗みをして明日を生きる保証もなかったオレが。

 今、貴族様の足元程度にはしがみついているのかもしれない。


 嘘だ。

 あんな町の貴族より、この町の平民をしている自分の方が上だと思っている。

 そんな暗い気持ちを抱えながらも、今日も私は幸せだ。


 なんて、こんな暗い気持ちもきっといつか浄化されて消えるだろう。

 なんたってここは楽園で、この町には神様が住んでいるのだから。

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