歩く賢者の石の旧プロローグ2
「??????????」
言葉が通じない。
やはり異界の子供なのか? 異界にも人間が居たとは……。
「イエ、カエセ」
やっと少しだけ言葉を覚えさせることができた。
しかし、帰りたいとばかり言う。申し訳ないことをした。なんとかしないと。
「俺ノ、名前ハ、アラキ・トーヤ、ダ。デス。日本出身、ダ」
子供の名前はアラキトーヤと言うらしい。名前がトーヤと言うようだ。
出身地の日本というのも聞いたことがない。やはりここではない異界のようだ。
「ジジイ、ほんとに魔力を放出して物を動かすのが最初でいいのかよ。難易度高くね?」
トーヤが魔法を覚えたいというので、魔法の使い方を教えてやると放出が難しいと言う。
だが最初から属性への変換など出来るわけもないので、やはり最初は放出を覚えさせるべきだ。
「ジジイの使える魔法は大体覚えた。物理学を知ってる分、結構簡単だったな」
トーヤは才能の塊と言っても差し支えなかった。
教えるまでもなく魔法を見せればいつの間にか覚えていたし、教えたらそれはもうすぐ覚えた。
「ジジイ見ろ! 新魔法開発した。圧倒的すぎる俺の才能が怖い!」
魔法を覚えたトーヤは毎日のように魔法を練習している。
どうにも魔法を使えるのが楽しくてしょうがないらしい。
「ジジイ! 森でスライム見つけた! 黄色い! まるでプリンだ! ついた土がカラメルみたいでますますプリン。あープリン食いてえ」
トーヤはもう、この周辺の森に出る魔物程度なら身を危険に晒す事もこともない程に強くなった。
それにしてもスライムの色で一喜一憂とは、まだまだ子供だ。あとプリンてなんじゃ?
「え? 言ってなかったっけ? 俺、日本にいた頃は15歳だったけど? 今は5歳位の身体だけどね。不思議なことに。不思議すぎだろ……」
異界を越える時に身体が縮んでしまったとでも言うのだろうか。
まだ完成に時間はかかるが、送還の魔法の時はそのようなことが起こらないようにしなければ。
「ジジイって城務めしてたのか。俺もそろそろ人恋しいんで町に行きたいんだけど」
最近トーヤが町に行きたがる。
人は醜いので出来れば人には合わせたくない。
今日もトウヤが寝た後に町へ行き必要な買い物を済ませてこよう。
「ジジイ、なんか山の向こうででかい魔物が居たから狩ってきた。こいつ食える?」
――10(+15)歳になった頃。
トーヤがこの近辺では滅多に見ない一番強い魔物を狩ってきた。
この魔物を一人で倒すなんて聞いたこともない。ワシは誇らしいぞトーヤ。
「ジジイってアシュクロフト・ナーミンっていうの? 超カッコイイ。俺も今日からトーヤ・アラキ・アシュクロフトって名乗るわ。戸籍もないし問題ないでしょ、多分」
トーヤがワシの名前を自分の名前に入れたいと言ってきた。涙が出そうだ。
嬉しさと、あとワシの名前を覚えてなかったという二つの意味で。
「ジジイってホントに人間嫌いなのかよ。いつもニコニコしてんじゃん。好々爺かよ」
コウコウヤ? 初めて聞く言葉だが。
どうやら孫を可愛がるやさしいおじいさんと言う意味らしい。
トーヤがワシの孫か……。
「ドラゴン退治? この間、町に行ったかと思ったらそんな用事頼まれてたのかよ」
トーヤの外見も成人に近づいてきた頃、町へ行った時に国から勅命を受けてしまった。
隠居したジジイに鞭を打ちおって……。
静かに二人で暮らさせてはくれないのか。
―――はっと目の前に戦場が戻る。
ドラゴンとの戦闘中、魔力が尽きたせいか数瞬意識が飛んだようじゃ。
走馬燈というやつか? それにしてもトーヤと出会ってからのことしか思い出さないとは……。
魔力回復用ポーションも後一瓶。逃げ出すならこの機会が最後じゃが。
前を、横を、後ろを見ると、疲れきった騎士や兵士が撤退の準備をしている。
が、どう考えても見逃がしてもらえるとは思えない。
きっと子供がいる騎士達も沢山いるのだろう……。帰りを待つ者がいる者がほとんどだろう……。
…………。
見捨てても帰る……か。うそつきじゃなワシは。
ポーションを飲み前線に足を運ぶ。
これでも国で一位二位を争う魔法使いだった自負がある。
ドラゴンの一匹、足止め位してみせる。
「来い、世界の頂点! 体が尽きる最後までこのワシが相手だ!」
すまないトーヤ、帰れそうもない。
すまないトーヤ、帰してやれそうもない。
すまないトーヤ、こんな世界に連れてきてしまって。
すまないトーヤ、ワシのわがままであんな森に縛り付けてしまって。
ありがとうトーヤ、どうか……。




