歩く賢者の石の旧プロローグ1
アシュクロフト視点のやつ。
あ、と思ったときには遅かった。
光る足元。身体に絡みついてくる謎の紋様。手すりの低い歩道橋から落ちる俺。近づく地面。それから、見なくても分かるくらい重量のあるクラクション。
アシュクロフト視点――――――
「とうとう完成したぞ。異界より招く召喚魔法。果たして何が出るか」
宮廷魔術師という立場を退いてから既に15年。
人が嫌いになり、人里を離れ研究を続けた成果が今ここに。
「さあ」
手をかざし、魔法を唱えると、光が集まり魔法陣の上に半球体を作る。
半球体は光に包まれながらも影を許容し、おおよそ自然界にはありえない光景を作り出す。
成功だ。
この影が異界からの招待客。
さあ、何が出るのか。
半球体が崩壊する一瞬、強い光を発したかと思うとそこには子供が居た。
「…………は? …………こど、も……? それも、ひどい怪我をしている」
5歳程度のブカブカの服を来た子供がそこには倒れて居た。
怪我もひどく、数刻後には死んでいてもおかしくない、ひどい怪我だ。
「これはまずい、ポーションっ……では間に合わない。賢者の石を」
自分の召喚魔法がまさか怪我を伴うものだとは思わなかった。
そもそもなぜ、子供が。
ポーションでは持たないと判断したワシは、急いで賢者の石を持ち出す。
「よりにもよって子供を……それも人の子を呼び出すなんて……空間の移動に耐えられなかったのか? これほどの怪我をさせてしまうなんて」
とんだ失態だ。
異界ではなく何処か別の場所からの召喚になってしまい、15年の月日が失敗に終わり失望を感じたが、まずはこの子供をなんとかしなければと思い回復の魔法をかけつつ賢者の石を子供になんとか飲み込ませる。
賢者の石は貴重だが子供がこうなったのは自分の責任だ。
それに賢者の石など使う機会もなく腐らせておく位ならと思ったが、どうにも効果が現れない。
(どんな怪我でも治るはずの賢者の石が思ったように効いていない?)
半ばパニック気味に手持ちの賢者の石を全て飲み込ませ、全開で回復魔法をかけると、ようやく効果が現れはじめ、子供は静かに眠りに落ちた。
――10年後。
「ドラゴン退治? この間、どっか行ったかと思ったらそんな用事頼まれてたのかよ」
あれから10年という長い時間をトーヤと二人で過ごして来た。
最初の内は言葉もわからず大変だったが、今ではたった二人の家族だと言える程に気安い関係になった。
言葉を教えると異界の民だと言うことも分かり、召喚の魔法に成功したことにも喜んだが、そちらの世界の全てを捨てさせてしまったことが心苦しくもある。
トーヤは存外重く考えない性格のようで、最初の頃は怒るように家へ帰せと言っていたが、今ではたまに冗談のように言うだけになった。
「つーか俺も連れてけよ。ドラゴンがこの世界で一番強いんだろ? 俺が居た方がいいじゃん。ジジイが死んだら送還の魔法完成しなくなっちゃうし」
「ダメじゃ。これは国からの依頼でのワシだけじゃなく国の兵も多数参加することになっている大掛かりな作戦じゃからの」
「何度も言ってるけど。前の世界じゃ数万人の都市に住んでたんだぞ。他人の汚い部分とか普通に見てるし、町ぐらい平気だから」
人嫌いなワシの押し付けでこんな森の奥深くに二人で暮らしているが、トーヤももう成人と呼べる程大人になった。
寂しくはあるが町に行かせても。……人に会わせてもいいのだろうか。
「他の奴らなど見捨ててでも帰ってくる。それでも……もし帰ってこなかったら、その時はここにあるものを自由に使ってどこか村にでも……」
「この後に及んでまだ村かよ。平気だよ。町に行くって。それにジジイ程度でも人間の中じゃ上から数える位強いんだろ。俺ならどこでだってやってけるさ」
もしかしたら最後かもしれない言葉を交わし、長く、30年近く住んだのこの家を出る。
どうかこの家にもう一度帰って来れますように。




