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この世界は機械に犯されました【ボツ、打ち切り】3/5

サブタイトル:居候B(咲莉脈根之草廻)

「ボクは――」


 白い人だった。

 髪も、肌も、着ている着物も、その着物の刺繍までもが白かった。

 ただ、目だけが赤い。


 そして整いすぎた造形。

 切り揃えられた長い髪も、怖い位に背筋の良いそれも、まるで色を忘れた人形のようだ。

 

 これが神様――。


「ボクの名前は、咲莉脈根之草紬だ」


「……ごめんもっかい」


「かみさま、今なんて言ったの?」


 呆けた頭に突拍子もなさすぎる名前がスーっと染み込んで、一文字も覚えられなかった。


「さくりみゃくねのくさつむぎ、だ」


 さくり、みゃくね、の、くさ、つむぎ。

 咲莉脈根之草紬。


 なるほど。わからん。すごい名前だ。かぶいてる。

 かぶいた名前だと思うが、キラキラネームが増えてきた昨今。

 名前に関しておれは余計なことは言わないことにしている。

 うちも阿僧祇なんて不可思議な名前してるし。


 ここは聞き流したことにしよう。


「神様とか初めて見たな。まさか神棚に本当に入ってるとは思わなかった」


 神棚から出てきたということは神棚に入っていたわけで。

 随分窮屈な場所に住んでるんだな。とか思ってしまった。


「かみさまって何のかみさまですか?」


「ボクは大地にまつわる神だよ」


 そういや日本の神なら唯一神じゃなくて八百万なんだな。

 大地って、八百万の中でもかなり高ランクっぽいぞ。

 少なくともトイレの神様よりはランク高そう。


 ん? 大地?


「もしかして、町の外にある突如発生した不思議な土地に関係している?」


「ああ、たしかにそれはボク"達"だ」


「なるほど……」


 あのフィールドはこの神様が元凶なのか。

 …………。


 部屋の温度が少しだけ下がった気がした。

 おれはトイレに行くかのように自然に立ち上がり、静かに息を吸う。

 一瞬で血が冷え、そして沸騰した。


「てめえの所為で世界中が迷惑してんだよッッ!」


 弾けるように一歩で距離を詰める。

 足場にした木製のローテーブルが軋む。

 相手は動いていない。

 拳の位置を確認する。正座した膝の上。

 驚いた様子もないが、しったことか。


 腰をひねり、蹴りを繰り出す。

 ローテーブルの上からの高低差も考慮して下段の回し蹴り。

 狙いは正座した、不気味なくらい背筋の良い人型の顔。


 神だろうと、女だろうと関係ない。

 こいつの所為で、妹は2年も親に会っていないんだ。

 この年の子が親に会えないことに、どれだけ寂しいをしたか思い知れ。


 勢いに乗った蹴りはまっすぐ、端整な顔に吸い込まれていく。

 相手の手はまだ動かない。

 避ける素振りもない。入る。


 ――メキッ


 蹴りが横っ面を捉えた。


 ――ドサッ。


「えっ?」


「おーー」


 座っているはず妹の関心した声が横から聞こえる。

 おれの口から、驚きの声が漏れた。


 蹴りはちゃんと頬にはいったのまでは覚えている。

 しかし、おれは投げられてテーブルの上に無様に落ちた。

 見れば、そいつの手はまだ膝の上にある。


 つまり首のひねりだけで投げられた。

 文字通り、指一本使わずに投げられたらしい。


「ッツ!」


 反射的に跳ね起きるが追撃の様子はない。

 あしらわれただけのようだ。


「はぁー」


 ため息とともに座布団へと戻り、座る。

 悔しい、なんて気持ちすら湧かない。


 足の太さが15cm程もあるごついローテーブルを見て、これが軋んだってことはまた随分と強く踏み込んだものだと改めて思う。


「もうやめちゃうの?」


「レベルが違いすぎて相手にならない。これ以上やるかどうかは話を聞いてからにする」


「おにーちゃんレベル1だもんね」


「そういうことじゃない」


 妹の普段通りの声におれの怒りは少し収まっていた。

 神のあまりの芸当におれ自身が関心してしまったのもある。


 勝ち負けの問題じゃないけれど、勝負にすらならないとやる気も萎える。


「いきなり蹴るなんてひどいじゃないか。怒っているのは、わかったけど」


 よく言うわ、この神。無表情を保ちやがって。

 ちょっと怒りがぶり返した。


「いきなりじゃないだろ」


 元々敬語を使ってないかったけど、すでに敬語で話す気は一切なくなっていた。

 しかし、腹痛の時にしか神に祈らない現代っ子なので、その辺は考慮してほしい。


「そもそも、世界中って言葉に語弊があるよ」


「ごへー?」


 おれも語弊の言葉に疑問を持ったが、妹の方は語弊の言葉自体がわからなかったみたいだ。


 おれは話を聞くために一度大きく息を吐いた。

 それで大分落ち着いた。


「そう、語弊。土地を増やしたのは、世界中ではなく、ボクの大地に蓋をした地域だけだ」


「蓋? 土地に蓋をするって龍脈とかそういうのか?」


 風水とかに使われる存在自体が怪しいアレ。

 漫画とかだとたまに見かけるけど、神様なんてものが存在するなら、龍脈とやらがあってもおかしくはない。


 けど、ここでは関係ないようだ。


「アスファルトとコンクリート」


「つまり?」


 聞き返すと、神は簡単に説明してくれた。


 この神は主に先進国と呼ばれる地域にしかフィールドを作っていないらしい。

 それもアスファルトやコンクリートで道路を覆った分だけしか作っていないのだとか。

 やられたからやり返しただけ。

 やられた分だけやり返した。


 おれの強襲もやられたからやり返しただけなんだろう。

 無表情にあしらわれたからな。

 実を言うとちょっとショックだよ。


「それに、増やした土地は人の手が入らないようにしているから、動物にとってはありがたいはずだよ」


 そう。

 何故かはわからないがフィールドは、人が手を加えようとするとすぐに元に戻ってしまうという特性を持っていた。

 物を置いただけでも2日程で消滅してしまう。

 モンスターなども放置すると消えてしまうのでゴミ山になることもない。


 そして、フィールドにはメカメカしいモンスター以外にも野生動物が生息するようになった。

 土地が増えた位で迷惑を被るのは、網目のように水道管やら電線やらを張り巡らせたお前らが悪い。

 と、いうのが神の言い分のようだ。


 勝手な言い分のようにも感じたが、人間優位に考えすぎなんだろうな。と思う。


「大地を掘られようが、盛って山を作られようが別によかったんだ。でも、蓋をされるのは困る。人以外の生き物が住めない」


 昔からコンクリートはあったそうだが、その頃は建物に使うばかりで地面には使わなかった。

 場所によってはコンクリートを地面に使った所もあったが、大した範囲ではなかったらしい。


「機械が出来るまではささやかなものだった。僕の世界は機械に犯されてしまった」


 だから、やり返した。

 つまりそういうことだ。


「なるほど」


 神の言い分はわかった。

 おれも理屈には納得した。

 神が人より高位の存在ならたしかに通る理屈だと思った。


「言い分が正しいからって、はいそうですかとは……ならねーんだよッッ」


 でも、それはそれでこれはこれだ。

 実際にこちらは迷惑を被っている。

 なのでもう一度、蹴っとばす。


「イテッ」


 ダメでした。

 さっきよりも強く投げられ、背中を打ち付けた。

 忌々しい。


「おにーちゃん頑張って」


 妹に応援までされる始末。

 それが悔しい。


 基本的に応援っていうのは負けてる方がされるもんだ。

 や、実際ぼろ負けなんだけど。

 忌々しい。



◆◆◆



「荷物取ってきましたー」


 話すこともなくなったのか、暫くにらみ合っていると、玄関から先ほどの家出娘の声がした。

 チャンスとばかりにもう一度攻めようかと思ったが、多分無理だろ。

 さっきだって不意打ち気味だったのに無表情にあしらわれたし。

 くそ、忌々しい。


「なんですか? どうしたんですか? 空気がなんか重いような……うわっ白い!」


 部屋に入るなり驚きの声をあげる家出娘。

 確かにこの白さは、初見にはキツイ色だ。

 なんせ髪、肌、着物。全てが白い。


「こいつは神だ」


「え? カミサマなんですか?」


 何言ってんのって目で見られたけど、本当なんだよ。

 俺だって神棚からの流れがなかったらまず疑ってたさ。


「そうだ、こいつがこの世界の元凶だ」


「散々な物言いだね」


 実際にそうだろうが。


「はー、カミサマなんて初めて見ました。白いんですね。なんまいだぶなんまいだぶ」


 金髪も応接間に入り、神の横に座る。

 おれと妹が隣同士で座っていて、神の横が空いてるなら普通なんだけど。

 存外この少女は肝が強いらしい。

 既に状況を受け入れて、悠々自適に会話に参加する。



「カミサマはカミサマで、このゲームに詳しいんですよね? ですよね? それじゃあ、ひとつ聞いていいですか?」


「ボクにかい?」


「はい、このゲームにクリアってあるんですか?」


 一瞬、言葉を失った。

 それは、おそらく世界中が知りたい質問だ。


 この世界はゲームのようなシステムが追加された。

 ゲームならクリアはあるはず。

 でも、この二年でその片鱗すら見つかっていない。


 誰もが知りたい。

 クリアがあるとして、クリアするとどうなるのか。

 世界が……元に戻るか。


「あるよ」


 そんな質問に、神はごく当たり前のように頷いた。

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