内緒話をしましょう
「ただいまー。頼まれてたもの、テーブルの上に置いとくね。あと、相談室借りるから。」
とりあえず、家の中にいるであろう両親に声をかけておく。こんな時間に買い物に行く羽目になったのは、ひとえに久々に母が帰って来て二人きりになりたかった父のせいだ。ということは、課長とお話ししなきゃいけなくなったのも父のせいだ。ならば、父の仕事場の相談室を借りても文句を言われることはない、と思う。
「お邪魔します。ご家族に挨拶をしたいんだが、いらっしゃるのか?」
「ああ、手が離せないところだと思うので。また後ほど。」
たぶん、イチャコラしてるんで出てこないですよ、とは言えないなあ。まあ、うちはいろんな人が来るんで、女装した上司が来ても別に大して驚きはしないと思うけど、その格好のまま挨拶するんだろうか。
「こちらにどうぞ。ここは、父が仕事で使っている相談室で、防音完備してるんで、話の内容は漏れないです。大丈夫です。」
「いや、大丈夫じゃないだろう。ドアは開けておきなさい。」
「え?開けておいたら防音にならないですよ?大事な話をするんですから、閉めておきましょう。」
「ご両親だって心配する。開けておく方がいい。」
「相談室を開けておいたら、頭の悪さを心配されますよ。」
言い合いの末、閉めておくことになった。やった!勝った!!なんで戦う羽目になったかはわからないけど。
う、課長が頭に手をついて溜息ついてる。何かやらかしたんだろうか。それとも開けておく開けておかない議論で疲れちゃったんだろうか。
「田中君、話は後で聞くとさっき言っていたね。じゃあ、今ならいいかな。」
「あ、さっきのうちに来る時の話ですね、あ、はい、聞きます。」
「こんな格好の俺が言うことではないかもしれないが。男を暗がりに連れ込むな。男と二人きりで、しかも防音設備ある部屋に入るなんて迂闊すぎる。君には女性としてもっと危機感を持ってもらわないと・・・」
ちょっとお説教をされました。よくよく考えてみたら、その通りだなあ。まあ、私なんかに何かしようって人はいないだろうけど。何せ、この年まで恋愛ごとは何一つなかったので、そういう方面は全く考えたことがなかった。
「私は課長を信頼しているので、今日の行動は迂闊な行動ではないと思ってます。他の男性にならこんなことしませんよ。」
とりあえず、課長だから家まで来てもらったんであって、他の人なら、そう、他の人が女装してただけだったら、関わりもしなかったな。見えた時点でコンビニに入ってやり過ごすとかした。どんな格好をしていたって私は課長を目で追ってしまうんだな、なんて思った。
内緒話までたどり着かなかったorz