エピローグ
伏線は回収できたはず。最終回をお楽しみください。
皐月さんと一緒に出勤するのは最近ではいつものことだ。皐月さんに合わせて私も他の社員より早く出勤する。帰るのも一緒だ。私の方が少し早く終わるので、スーパーで買い物をしていると皐月さんが合流する、そんな流れだった。
「雛、悪いな、ちょっとトラブルがあって、今日は一緒に帰れない。でも夕飯は雛の作ったものが食べたいから、俺の分を残しておいて。」
「皐月さんが遅くなりそうなら、帰る前に電話してもらえればそれから作り始めます。出来立てのが美味しいので。」
「気を付けて帰るんだぞ?」
「はい。」
そうか、昨日の夜、皐月さんにかかってきた電話ってトラブル発生って内容だったのか、難しい顔してたもんね。あれ?それだったら、昨日の夜でも、今朝でもそう言ってくれればよかったのに、何で始業前に?ふと視線を感じて辺りを見ると同じ課の人たちが全員こっちを驚いた眼をして見てる。口を開けてる人もいる。・・・しまった!!皐月さんが雛って呼ぶから皐月さんって名前を読んじゃったよ。会社ではきちんと清水課長って呼んでたのに。皐月さんもトラブル発生に慌てちゃったんだろうか、いつもは田中君って呼ぶのに。
休憩時間になるとどっと私のところに人が押し寄せてきた。
「田中さん、課長とどういう関係?」
「いつから?」
「一緒に暮らしてるの?」
「課長があんなやわらかい顔してんの初めて見た。」
「た、田中さん、課長はモテるからやめておいた方がいい、僕が」
「職場でいちゃつくなよ、独り身には辛いだろ。」
「課長って浮いた話聞かないから、女に興味がないのかと」
一気に人がしゃべるので聞き取れない。困っていると、外回りから帰ってきた皐月さんが私の方に近寄ってきた。
「俺と田中君は結婚を前提に付き合っているよ。付き合い始めたのはつい最近だが、俺には彼女しかいないと思ってる。もちろん、彼女も同じ気持ちだ。」
さっきまで騒いでた周りの人たちが一気に静かになった。みんな課長と私を交互に見ている。あれ?皐月さんが私の回りにいた男の人を睨んでる?何かあった?
「仕事上では公私混同はしない。約束をしよう。」
課長がそう言うなら、大ニュースだ、急いで他の子たちに知らせなきゃ、なんて口々に言い、散らばっていった。
その後、同じ課の先輩たちと給湯室に行き、みんなのお茶を入れる。
「あ、あの。皆さん課長のことがお好きだったのに、抜け駆けしてすいません!!!」
これだけは言っておかなくちゃいけないと思ってた。みんな課長が素敵だって言ってたもの。後から入ってきた新参者が課長とお付き合いするなんて、良い気分ではないだろう。
「気にしないでいいよ、田中さん。」
「うん、私たち別に課長が好きってわけじゃなかったし。」
「付き合えたら、ラッキーくらいな?」
「むしろ、あの課長と付き合うことになった田中さんがすごいわ。」
「ただ、私たちはそんな感じだったけど、他の課に本気で課長狙ってる子はいたわよね。」
「意地の悪い子だったから、嫌がらせとか気をつけてね。」
「私たちにちゃんと言うのよ?追っ払ってやるから。」
みんなが私にそう言ってくれる。私のことを応援してくれるというのだ。本当にいい先輩たちに恵まれた。
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます!!」
嫌がらせというのがどれくらいのものか想像がつかないのだけれど、多分、大丈夫だ。私たち家族には父が魔法をかけてくれている。害をもたらすものを近づけないようにしてくれているのだ。それに、皐月さんと付き合うにあたって、そういうのと立ち向かう覚悟はできている。もちろん、ライバルが現れても皐月さんを取られないように頑張るつもりだ。料理ぐらいしか取柄はないけれど、胃袋ならガッチリつかめてるはずだ。
「でも、課長も人間なんだなあって思ったわ。」
「私も。可愛い雛を誰にも取られたくない!!的な。」
「ものすごい牽制してたものね。」
何の話だろうか?
「牽制って何ですか?」
「あらあら。これじゃ課長も慌てざるを得ないわね。」
「そこがいいのよ、きっと。」
「気立てはいいし、素直だし、笑顔は可愛いし。ちょっと天然なところもまた男心をくすぐるんだろうね。」
本当に何の話をしているんだろか?先輩の一人が、知らなくていいこともあるのよ。と言ってくれたので、それ以上は聞かないことにした。
・・・・・・
職場での交際宣言から数日後、やはり嫌がらせは私まで届いてないようだ。こういう時は頼りになるな、父。そんな父から今日は母の好物を用意しておけとご命令だ。久しぶりだなあ、私が母に会うのっていつぶり?たま~に家に帰ってくるけど、帰ってきたら父が一人占めするから、実質会っていない。
「皐月さん、今日は母が家にいるそうなので、買い物の量が増えちゃうんですけど。」
「ああ、大丈夫だ。雛のお母さんに会えるのが楽しみだ。」
「私も久々に会うんですよ。」
「雛のお母さんは何が好きなんだ?ケーキとかはどうだろう?」
「ああ、母はプリンが好きですね。」
「プリンか、そういえばこの辺りに美味しい店があると取引先の方が言っていたな。ちょっと寄っていっていいか?」
「皐月さん、別にそんなのいいんですよ。」
「いや、仁さんに会ったときは何も手土産がなかったし。・・・お礼もしなければならないし」
「すみません、皐月さん最後の方聞こえなかったんですが。」
皐月さんはニッコリ笑うと、いくつ買おうかなって言ったんだよ、と言った。ああ、姉の乱入に備えるってことですか、気を使わせてごめんなさい。
食材を抱えて家に帰ると、母がもう帰って来ていた。
「お帰りなさい、雛、皐月くん。」
「ただいま、お母さん。」
「いつもお邪魔しています、改めまして、清水皐月と申します。貴女のおかげでこうして雛と付き合うことができました。本当にありがとうございます。プリンが好きだと伺いましたので、ささやかながらお礼を。」
「うふふ。お礼なんていいのに。言ったでしょ?きっかけをあげただけ。あとは貴方次第だって。頑張ったのは貴方よ、皐月くん。でも、プリンはいただいちゃうわ。」
え?二人に面識があった?
「え?皐月さん、母こと知ってるんですか?」
「ああ、雛と親しくなるきっかけをくださったんだ。」
きっかけ?
「なんだ、雛。まだ気づいてなかったのかよ。皐月が一番最初にうちに来た時、女物の服着てたろう?」
「う、うん。」
父が奥から出てきた。なんで今更皐月さんの女装話をするんだろう。皐月さんも一時的なこととはいえ、あんまり広めたくないだろうに。私の反応を見て、深くため息をつく父。馬鹿にされているのはわかるが、理由がわからない。
「あの服、母さんの魔法がかかってたろうが。」
「ええ!?」
母の魔法?そんなの気付かなかったんだけど。
「あの服は、私が皐月くんに渡したのよ。占いで雛の将来の相手と会うのがわかったから、何か力になれないかなと思って、キーアイテムを魔法で出したの。ワンピースだったのには驚いたけど。」
「あの服を着ていた俺を心配して、雛がこちらへ連れてきてくれたんです。」
「うん、仁から聞いたわ。てっきり私の魔法がかかっている服を着ている皐月くんに驚いて話しかけたのかと思ってたら、皐月くんのストレスを心配したんですって?まあ、この子らしいけど。」
娘が鈍いのは想定内ですか。
「雛は周りの奴らの反応を見る余裕もなかったのか?皐月は全然周囲に騒がれてなかったろうが。あの服を着ると背景扱いっつーか、空気扱いっつーか、目立たなくなるんだよ。」
知らなかった、というか気づかなかった。そう言えば、皐月さんがワンピース着ててもあんまり違和感がないと思ったのは母の魔法のせい?あ、もしかして。
「私が皐月さんに話しかけたら周りの人にすごい変な目で見られたんだけど、あれって皐月さんに注目がいってたんじゃなくて」
「雛がいきなり何もないところで、それこそ見えない相手にいきなり会話しだしたように見えたんだろうよ。」
私が変な人扱いだった!!う、地味にショック。エア友達に話しかけちゃってるよって感じか。
「あー、ごめん、雛。」
「いえ、皐月さんは何も悪くありません。ただ、私が鈍かっただけで。」
「過ぎたことはしょうがねえだろ。鈍いのは雛のアイデンティティだしな。一生付き合っていくもんだ。」
そんなアイデンティティいらない!!
「そういうところも、雛の可愛いところだと俺は思いますよ。雛の鈍さに助かってるところもありますし。」
皐月さんが鈍さを否定してくれない。もういいや。皐月さんが可愛いって言ってくてれるし・・・か、可愛いって。照れる。愛おしそうにこちらを見てる皐月さん。きっと私は顔が真っ赤だろうな、ほほが熱いし。
「じゃ、じゃあ、お母さんにお礼の気持ちを込めて、腕によりをかけてご飯作るね!」
あの時、皐月さんをうちに連れてきて良かった。使えない魔法使いでも、呆れるほど鈍い子でも、皐月さんは傍にいてくれる。
部下がとるべき行動だったかはわからないけど、田中雛としては最善の行動だったと私は胸を張れるのだ。
占い師の正体、わかっていた方はいらっしゃるでしょうか?
初めての投稿を終わらせることができました。ありがとうございました。




