第一章 九話 夢か現か
さて、眠るとするか・・・ばかの考え休むに似たりともいうが、色々と考えてみたところで何が分かるわけでもない。
ベッドに横たわり布団をかぶって目をつぶる。
必要なものは袋から出てくる、しかし、本当に知りたいことは誰も教えてくれない。
ならば、自分で探すだけ・・・だが、この閉ざされた冬の山村ではどこにもいけるわけもなく・・・
そういうときに便利な魔法がある。探索の魔法と言うやつだ。
本来は洞窟や迷宮において進路に敵や罠がないかというものを事前に察知するというもの。
だが、どのような魔法もその当人次第で応用はいくらでも利かせることができる。
分かりやすいのが火の魔法だろう。いわゆる古代語魔法ではファイヤーボールなどという単発範囲火炎魔法という扱いで一瞬で大爆発を起こしその後には灰しか残らないものもある。
精霊魔法においてはサラマンダーやイフリートを召還し継続して燃やし続ける火炎放射器のような使い方もある。
神聖魔法にも火の属性魔法はある。浄化の炎という実体のない炎だ、アンデッド系に有効で昇天させる効果があるようだ。
だが、どれもそれそのものでは局地的な場面しか有効ではない。平和な時代には無用なそれらの魔法は現在においては主流派ではなくなっている。
もちろん破壊魔法といわれるそれらは研究も進められているが、結局のところ行き過ぎた魔法の力は使えば全世界の破滅になるだけということだ。
世界が破滅しそうになった魔法の力によって引き起こされた悲劇は数が多い。
元々この世界の成り立ち自体が旧世界と新世界の神同士の争いから始まっている。
どちらかの勢力が強い時にはそれをひっくり返すアンチのような存在が出現し新たな世界を作り出すか、現在を維持するかの闘いを繰り広げている。
しかし、このような島でそんなたいそれたことが全く不思議でしょうがない。
ただ、魔法の力は物理的な距離ではなく概念のようなものらしい。オセロのようにパーツが組み合わさればすべてがひっくり返るのもありえないわけではないのだろう。
世界は簡単に死んでしまう。それは純然たる事実であり、滅びた文明の数だけ歴史は繰り返す。断絶された世界のつながりの中に遺跡にのみその過去の残影が残るのである。
私は旅人に過ぎない、干渉することもできないが影響を受けることもない。ただ、世界を見て聞いて、己の進む道を探しているだけに過ぎない。
仮にどちらの勢力につくわけでもなく、世界の維持にも新生にも興味がなければ私の存在というのは一体何になるのか?傍観者というのがぴったりなんだろうな。
世界には異世界からの転生や召喚された者が数多く存在し、それぞれが好きなように活動し、王を名乗り冒険をし、楽しくよろしくやっているようだ。
もはや、そのスケールは星を超え宇宙に広がり、意識も広範に広がり同化してしまったものもいるようだ。それはそれでいいんじゃないだろうか?
すぎた力は世界に飲み込まれる。そしてその一部となり新たな世界を飲み込もうとする力になるのだろう。肥え太った世界はまた別の世界に飲み込まれる。
いわゆるチートや超能力で無双している彼らをみると肥育されている豚を連想する。
彼らの武器はその貪欲さだ、すべてを噛み砕く歯とどれだけでも入る胃袋を持ち合わせているのだろう。
そしていつかはだれかの食卓に上がるのだろう。
英雄というのはそういうものなんだろう。
ただ、それはそれでいいんじゃないか?彼らは歴史の教科書の端っこで来歴だけ説明されて終わりのような存在かもしれないが、その成果だけは後世に伝わっている。
教科書にすら載らない者も数多くいるだろう。一人の天才がすべてを成し得る時代ではない。名も無き英雄たちが光り輝き太陽を作り出す。そういう意味では世界のみんなが世界を作っているとも言える。
世界の誰しもが英雄であり、大切な使命をもって生まれてきているのだ。
そして私は探索の魔法の範囲を広げる。
目標としては氷竜スノウとの対話だ、広大な山脈から一匹の竜を見つけ出す。本来ならば、私にしてみれば造作もない話だ。
だが、見つからない。スノウが討伐されたという話は聞いてない。氷の精霊力をコントロールするのは氷竜の役目であるから、制御不能に陥っている可能性はあったが存在しないはずがない。
あるとすれば暴走しているか、転生しているかのどちらかだ。
暴走しているならば活動期ということだからエサを求めて空を飛ぶか寝床にいるはず、転生中ならば卵に戻っているので見つけることはできない。
ただ、転生するには何者かに倒されなければ不可能なのでそのような話がない以上、秘密裏に殺されているのかもしれない。英雄は必ず自分の行為を喧伝するもの、それができないということは現在の体制に反対している連中の仕業ということになる。
どうやらここからキナ臭いことが起こりそうである。今後氷の精霊力は強さを増し、少しづつ人間の生活範囲を狭めてくる。
倒された竜の復活にどれほどかかるかはわからないが、元々この地は強すぎる氷の精霊力を竜が抑えていたのでますますその傾向は強まるだろう。
さらにバーナム王国が炎竜バルドを討伐してからまだそれほど経ってはいない、彼の地はもともと過ごしやすい気候であったがバルドが活動期に入り暴走したため砂漠化が進んでいた。しかし氷の精霊の進行を食い止めていたのもまた事実。
竜は世界のバランスを取るために作られたいわゆる神の眷属なのだ。
この世界を作った神というのは計画性があまりなかったのか、それとも計画通りに進まないのが世界創世というものなのか、それともすべてが計画通りに進んでいるのか。
まるで出来の悪いオンラインゲームをパッチを当てて改良し続けることを強いられているプロデューサーのようなものなのかもしれない。
全ては想像ではあるが、季節感が出したかったが、気候を調整することができずに氷河期や砂漠化を繰り返す世界であまりにビーキーな作業に嫌気をさした神が眷属に属性を持たせてそれぞれに担当地域を割り振らせていたのだろう。
だが、強力な力を与えられた彼らは各地で暴走を繰り返す。
その度に人間から英雄が現れ竜殺しとして活躍する。竜は死ぬが転生され、成長するまでの約50年は
制御不能に陥る。
だから討伐される竜というものは限定されており、殺してもいい竜と殺してはいけない竜に分けられている。
禁忌を犯せば世界のバランスを崩し、滅亡への道を進むことになるだろう。
それもまた自然の摂理ではあるが、人が為す崩壊は歪な世界を生み出す。
また、英雄が現れるかもしれない、もしくは救世主かもしれない。
たとえそれが作られた存在であったとしても・・・
人は英雄になることを望み、作り出すことを遊びにしていても。