第一章 第四話 はじまりの村
もし、この世界が玉のように丸くあったならば、私たちは何故滑り落ちないのか?
ファンタジーの世界において、その成り立ちと言うのは実に不可思議なものである。
ただ、あまり気にされていないのか、それともそれもありだなーという感覚なのか、ありえないことがあり得ない世界
そこには常識や法則をあてはめること、それこそが「ナンセンス」つまりは無意味であり、意味をなさないということなのだろう。
ファンタジー世界において全ての物理法則は無視され、魔法や超能力といわれるものが存在しており、その理論が決して破綻していようとも、そこに在ると言われれば存在できる。なんとも都合のよい話である。
新たな世界を構築し、破綻のない理論をこじつけ、その箱庭の中で限られた制限の中、個性を生み出し私たちにあり得ない事が、あり得ないと言う。気持ち、すなわち感動を与えてくれた全ての物語に感謝したい。
さて、何でこんなことを考えているかというと・・・
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どんな辺境の地にも人は住みつき、コミュニティを形成する。その最小単位が家族なら、最大単位は国家になるだろう。
そういう意味ではここは村というほどの規模であり、その中心は宿屋と酒場を兼ねたこの建物と言うことになるだろう。
夕刻ということもあり、数人の冒険者と地元の若者たちで、そこそこ賑わっていた。
「マスター、酒をくれ!」
威勢のいい声で冒険者の男が注文をする。それを聞いた宿屋の娘がジョッキを持って駆け寄る。
今日はなにかいい事があったようだ。
私は彼らを横目にカウンターに座り、マスターに部屋の空きを聞く。
「一部屋なら空いてる、期間は?」
3日ほど、と答え袋から数枚の銀貨と銅貨を出す。
「ほう、驚いたなあんた初めての客だろう?良く値段がわかったな。」
旅慣れてるからな・・・と答えたが、大したことではない、必要な金額だけ袋から出てくる様になっているだけのこと。原理はしらんが。
「それで?旅慣れてるあんたがどうしてこんな田舎に来たんだい?南の方から来たんなら王都のにぎわいは見たろう、ここに来るのは鉱石目当てのドワーフか、ドラゴンに挑戦しようって言う命知らずの冒険者、あとは・・・まぁ近くにはファーマ神殿の総本山があるから巡礼者もたまにはくるが、たいがい神殿近くの宿泊地にいるからここまでは観光に来るくらいだな。」
あの冒険者たちはなんなんだ?
「ああ、彼らは冒険者ギルドに依頼して来てもらったんだ、最近ゴブリンを見かけたって話が猟師の連中からあってな、調査と退治を兼ねて雇ったってわけさ」
なるほどな・・・ゴブリンは昔からこの地方に居るのか?
「大昔にはいなかったと思うぜ、ただ、この島は大戦続きだからな・・・こんな田舎にも見かけるようになったっていうのは事実だな」
ほう、島・・・か、
「それであんたは何しに来たんだよ」
ここがはじまりの村っていうことなんだろうか・・・
「はぁ?、はじまりの村ってほど、この村は歴史は古くないぞせいぜい数十年ってところだ。俺の親父は南のカナン王国の出身だったが、戦乱で難民になってな、北のアムラン王国に逃げたんだが、そこも動乱続きでな、結局この最果ての北の地に難民だけの村を作って自治組織として活動していたんだ」
それ以前にこの地に住んでいた者はいなかったのか?
「ああ、入植当初は一緒に活動していたんだが、やはりいざこざが絶えなくてな。この国も安定してきたから、国民として認められると同時に俺たち元難民は少し南の方に村を作ったのさ」
なら、もっと北に行けば村があるのか?
「まぁそういうことにはなるが、山も深くなるし、氷竜スノウの縄張りにも近くなる。冬になれば氷の精霊力の支配が強まるから行き来もむずかしいからな、それに別にその村だって何があるわけでもないぞ」
まだ、いけるか?
「そうだな・・・まだ本格的な冬までは日数がある。行商人が今年最後の物資を運ぶ予定があったはずだから、それについていけば迷う事もないだろう」
同行させてもらえるように頼めるか?
「まぁ自分のことが自分で出来るなら大丈夫なんじゃないか?物資と言っても金目のものじゃないからな、主に食糧や医薬品に道具、燃料ってところだ」
自給自足出来ないのか?
「昔はやれていたらしいが・・・年々氷の精霊力の支配が強くなっているらしい、これも周期的なものらしいがな、氷竜の活動期が近付いているのかもしれんな」