1-1 隕石落下
2015年 4月6日(月) 午後7時25分
東京都 足立区千住曙町 堀切橋西詰交差点付近
俺の名前は、黒壁連。
4月から大学1年生になったばかりの18歳。
生まれと育ちは近畿地方に位置する滋賀県で、現在は日本の首都:東京で下宿生活をしているワケだ。
そんな俺は現在、横断歩道の手前で立ち止まっていた。
正面の信号は赤い光を放っている。
右手には途中のコンビニで購入した弁当入りのビニール袋。
1人暮らしだとやっぱりどうしても弁当になっちゃうよな~ と思いながら、空を見上げる。
暗闇の中に浮かび上がっている無数の星。
「やっぱり、星は綺麗だな。こんなにたくさんの星があるんだったら、宇宙人がいても不思議じゃないよな」
無意識にそう呟く。
俺は小さい頃から宇宙に興味があり、宇宙人がいると信じてきた。
この広大な宇宙の中、何万という惑星が存在している。
きっと地球以外の惑星にも生物が生存している筈だ。
そんなことを考えていると、俺の周りに立っていた人達が一斉に動き出した。
見れば、信号は既に青へと切り替わっていた。
「おっと、早く渡らないとまた赤になっちゃう」
そして足を動かそうとした瞬間、俺は異変に気が付いた。
空に異様に発光しながら移動している物体が見えたのである。
一瞬、飛行機かと思ったが、その光は徐々に大きくなっていく。
「なんだアレ? もしかして … 隕石か!?」
その間にも光は大きなっていく。
そして、謎の飛行物体は僕の真上を飛び越えていき、なんと荒川のど真ん中に激突したのである。
大量の水柱と共に、土埃が吹き上がる。
衝撃のせいなのか、小さな地震が発生したかのように地面が揺れた。
通行人たちが悲鳴が上げる。
目を奪われたのか、落下地点付近から100mのところにある橋の上では、次々と玉突き事故が起こった。
俺は横断歩道の手前で、茫然としながら落下した荒川を眺めてみた。
隕石らしき物体の落下付近には、物凄い砂埃が立ち込めている。
物凄い衝撃と衝突音を聞いて好奇心を抱いた野次馬達が、早くも河川敷に続々と集まってきていた。
ほとんどの人が携帯で動画や写真を撮っている。
「すげーな」
俺はそう呟きながらも、下宿している学生マンションへと帰ることにした。
自分はもともと人ごみが嫌いであり、あまり面倒事には巻き込まれたくないと思ったので、この場を後にしようと思ったわけである。
あの場を後にした俺は河川敷近くの道路から、住宅街につながる細い通路へと足を踏み入れていた。
やはりさっきの隕石落下のせいだろうか。遠くからパトカーや消防車などのサイレン音が絶えず聞こえてくる。
隕石落下のことが気になるのだが、お腹がペコペコだ。早く帰って弁当でも食おう と思いながら、俺は突きあたりの角を曲がった。
その時だった。
ここから数メートル先に、人が倒れているのを発見した。
「 … なっ!?」
俺は思わず身体が固まってしまった。
ヤバい … 人が倒れている! ここは急いで助けないと!
頭の中で自動車教習所で習った応急処置の方法を思い出しながら、急いで駆け寄ってみると、
「・・・・!?」
倒れていたのは小さな少女だった。
見た目は10歳くらいの子供。髪は銀髪で腰まで伸びている。
肌は雪のように白く、そして驚くことに彼女は裸だった。
うつ伏せで倒れているため、胸は隠れていたのだが、お尻が大胆にも露わになっている。
「えーと、えーと … どうしよう! ていうか何で裸!?」
なぜ裸なのか疑問に思いながらも、彼女に近寄ってみる。
俺は急いで上着を脱ぎ、目の前の少女にかけてやることにした。
なるべく胸を見ないように袖を通してあげ、何とかしてボタンを留める。
コレ … 傍から見れば、完全に俺が幼女を襲っているにしか見えないよな。
そう思いながらも、彼女を仰向けにして呼びかけてみる。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!!」
そう呼びかけてみても反応はない。
彼女の顔に顔を近づけ、顔をよくよく観察してみた。
とても日本人には見えない整った可愛らしい顔立ち。
例えるならば、童話に出てくるお姫様みたいな可愛らしい少女だった。
だがそんな可愛らしい彼女の顔には、いくつもの痛々しい擦り傷がついていた。
いや、顔だけではない。全身にだ。
「おいおい、一体何があったんだよ! はっ、もしかしてさっきの隕石衝突の衝撃波で … とは言っても、そんなに被害は大きくなかったけどな」
とりあえず、ここは119番へと通報するのが無難だろう。
ポケットから最近買い換えたばかりであるスマートフォンを取り出す。
「やべぇ … 俺、まだスマホ使い慣れてないぞ!」
最近スマホに買い換えたばかり、なおかつ焦っていたせいもあってか、画面に表示される数字を押し間違えてしまう。
するとそのときだった。
俺の足に何かが触れている感触がした。
フワフワとした羽毛に擽られているような感覚。
何かと思って視線を向けてみると、やはり俺の足に何かが触れていた。
フワフワとした細長いもの。まるで犬の尻尾みたいな細長いモノ。
その細長いものは、この少女のお尻へと続いている。
「いや … 俺にはこの上着をめくって、彼女のお尻を見る勇気はない!」
そう自分に言い聞かせるも、やはり気になる。
これは … まさかの尻尾か?
試しに尻尾を掴んで引っ張ってみるものの、ビクともしない。
仮にコレが尻尾だと仮定すれば … アレだってあるのか?
そう思い、今度は少女の頭部へと目をやる。
「あっ!!」
やはりアレはあった。
今気が付いたのだが、彼女の銀色の髪と同じ色をした三角状の突起物が生えていた。
いわゆる獣耳っていうヤツだ。
しかもその獣耳と尻尾は、時々ピクリと動いている。
そう、どう見てもコスプレの装飾品とは思えない。これは本物の獣耳・尻尾だ!
「ま … まさかの獣耳少女!?」
俺は面倒事に巻き込まれるのが嫌いである。
とは言っても、さすがに傷だらけの少女を見捨てることなんか出来るわけがない。
これは、救急車を呼んだ方がいいのか?
いや、待てよ? 救急隊員らがもし少女の獣耳・尻尾を見たら、どうなるのだろう?
もしかしたら新種の生物として政府の極秘施設に連れて行かれ、解剖されたり・実験されたりされるかもしれない。
しばしの間俺は悩んだ結果、自分の学生マンションへと連れて帰ることに決めた。