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「大丈夫、気分悪そうだよ。少し座って休んだら」

 お酒の匂いと慣れない店の雰囲気のため、気分が悪くなったと思ったのだが、店を出てもなかなか気分は晴れなかった。

 そのため、自転車を転がしながら、ゆっくりと帰宅していた。


「大丈夫だよ」

「そぉ? それにしても、村上さん綺麗だったね」

「そうだな。人間とは思えない程ね」

「信ちゃん。本気で、彼女を吸血鬼だと思っているの。良い人だったじゃない。話も面白いし」

「もう、術にかかっているじゃないか。吸血鬼には『魅了』って能力があるんだ。その能力を使って知らず知らずのうちに人々を手下にするんだ。彼女が吸血鬼じゃなかったら、この世に吸血鬼は存在しないよ」

 姫川は近藤の物言いに呆れてしまった。

「で、どうするの? 彼女をストーカーするの?」

「そのアイデアは、悪くないな。明日も来るって言っていたから、明日の帰宅時を狙ってみるよ。お前は来るなよ」

「嫌。あたしも付いていく。男一人で後を追ったら、絶対、警察呼ばれるよ」

「部活は良いのかよ」

「午後からだから大丈夫なの」


 姫川と談笑しながら歩いていると、近藤はあることに気が付いた。

 先ほどから車とすれ違っていないのだ。

 近藤と姫川が居る場所は東京だ。夜遅くの裏道でも、ある程度は車が通る。

 いったん違和感に気が付くと、次々と違和感に気が付く。

 走行音やエンジンの音もしない。いくらなんでも、静かすぎる。


 だから、どうだと言っても答えられないが、嫌な予感がした。


 聞こえる音と言ったら、姫川の声と自分たちの足音だけ。

「姫川。少し話すのやめてくれないか」

「どうしたの?」

 近藤は、指を立て口に当て、話さないように姫川に合図した。


「静かね」

「静かすぎるんだよ」

 近藤は振り返って、背後を見た。

 何者かの視線を感じたのだ。

「どうしたの?」

「誰かに見られている気がした」

「気にしすぎよ。体調が悪いから、そう感じるのよ。早く帰ろう」

「いや、電柱の陰に何かいる。僕の後ろに隠れろ」

 姫川を下がらせると、近藤は胸元からモデルガンを取り出した。

「信ちゃん、そんなの持ち歩いているの?」

「護身用だ」

 そう言うと、近藤は電柱に向かってモデルガンを打った。おもちゃのエアガンとは思えない程の大きな音が鳴り響いた。

 電柱の背後から、何か黒いものが、路上へ飛び出し、近藤達と対峙した。

 目が赤く輝く、黒く大きな犬が目の前に現れた。


 赤い目をし、人を襲う野良犬。そんなの聞いたことがない。

 吸血鬼だ。吸血鬼化した犬だ。

 怪物の出現に、姫川が近藤の後ろに隠れ、近藤の背中をつかむ。いつもは強気の姫川が震えているのが近藤には判った。


 対して、近藤は狂喜した。

 恐怖よりも喜びと興奮の感情が体を支配した。

 吸血鬼は実在したんだ。僕は嘘吐きじゃないんだ。僕は確かに見たんだ。


 黒犬は、一呼吸置き、近藤に飛び掛かってきた。対して、近藤は、冷静に黒犬に向かってエアガンを打ち込んだ。再び、銃声が静かな住宅地に響く。

 エアガンの弾は、犬の頭部と胸部に食い込み、狂犬は近藤の足元に倒れ込んだ。

 頭部と胸部に銃弾を撃ち込まれ、本来ならば即死しているはずなのだが、犬はまだ虫の息状態で生きていた。いや、動いていたというべきだろう。

 近藤は頭と腹にさらに数発打ち込み、犬にとどめを刺す。

 近藤のその冷酷な姿は、日頃、姫川が知っている近藤とは別人のようであった。


「信ちゃん。何をやっているの」

「吸血鬼を退治したんだよ」

「何言っているのよ。吸血鬼なんているわけないじゃないの。ただの野良犬よ」

「赤い目をした野良犬。そんなの聞いたことがないな。それに・・・」

 そう言うと、近藤は姫香を撃った。

 弾は姫川の服に当たると落ちた。

「改造しているけど、威力はそんなに高くないんだよ。その代り銀メッキした弾を使っているんだ。吸血鬼には効果があったみたいだね。まさに備えあれば憂いなしだ」

「なんで、そんな準備しているのよ」

「吸血鬼に会ったとき、倒すために決まっているだろ」

 そう言うと、近藤は姫川にモデルガンを渡そうした。

「引き金を引けば弾が出るから。ゴメン。自分の身はある程度自分で守って」

「どういう・・・」

 姫川は、全ての言葉を言う前に状況を理解した。

 気が付くと、吸血犬たちに、すっかり周囲を囲まれてしまっていたのだ。

 路上に、家の屋根に吸血犬は居て、姫川たちを狙っていた。

 姫川が認識しているだけで、八頭は居るだろうか。


「信ちゃんは、どうするのよ」

「素手で何とかする」

 近藤は嬉しそうな顔をして言った。

「何がそんなに嬉しいの。あんた頭がおかしくなったんじゃない」

「嬉しいさ。吸血鬼が存在したんだから。姫川だって覚えているだろ。近所に住んでいた桜おねぇちゃんのこと。僕は嘘吐きじゃなかったんだ」

 そう言うと、近藤は吸血犬に対して向かっていった。



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